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446.空の鳴く音

 無理だと。ロコルは本気でそう思っているし、そう感じている。思考でも感覚でも答えは同じ。不可能・・・だ。いくらなんでもこの状況から空鳴きだけでそこまで持っていくのは無理筋もいいところ。どんなにアキラが『森王』に、自身が新しく組み上げたデッキに全幅の信頼を寄せていようとも……どれだけの絆で結ばれていようとも、できないものはできない。絶対的な不可能ばかりはどんなドミネイターにも覆しようがない。それは疑問を持つ余地もなければ待つ意味もない、誰にだってわかるただの真実でしかない。そのはずなのに。


 そう告げようとして、改めて宣告を行なおうとして。ロコルの開いた口は開いたままに止まった。なんの言葉も発せられなくなった。それはアキラを見たからだ。彼のまったく諦めの浮かばない、諦観の欠片もない表情。ファイト開始時から少しも揺るがぬ闘志を宿したままのその瞳を見てしまったから、ロコルの思考も感覚も「覆った」──引っ繰り返された。


 アキラならばできる。


 本当に優れたドミネイターを前には不可能・・・なんて言葉にこそなんの意味もないと、そう理解した。


「確かに【加護】は面倒な能力だ。それを持たれちゃ兵装サイだって自慢のミサイルを撃てないんだからな……だけどこの空鳴きには関係がない。なんてったってこいつは『守護者殺し』。【守護】持ちを滅ぼし尽くす、そのためにはちまちまと狙いを定めるなんてお行儀のいいマネはしたりしない!」


「関係がない……? 滅ぼし尽くす、っていうのはまさか──?!」


「そうともロコル! 《森王の空鳴き》の効果処理! 自他の場の区別なく、フィールドに存在する【守護】持ち全てを『ゲームから除外する』!」


「なんっ……!?」


 プレイヤー双方のフィールドに及ぶ全体除去。それも破壊でもなければ墓地送りでもない、ゲームからの追放。特定のカードを対象に取る必要もなく、また対策効果の少ない除外で退去させるという問答無用ぶり。それはいっそ無法と称してもいいくらいには途方もない除去能力であった。ロコルの絶句も然もありなん、さしもの難攻不落と言えども。彼女が自身の信条を取り下げてでも「完璧」と評価した要塞の如き布陣であっても、こんな滅茶苦茶な切り崩し方は想定できていなかった──用心の備えができていなかった。無論のことそれをロコルの手落ちと厳しく断じれはしない。こんなものを想定して対策しろという方が無茶なのだ。なので、ここで着目すべきは受ける側ではなく攻める側。空鳴きとそれを従えるアキラの怒涛の如き攻勢こそを褒めるべきなのだろう。


「もちろん俺の場に【守護】持ちのユニットがいればそいつも被害は避けられない。空鳴きはとにかく守護者全員を滅ぼせればいい、それ以外のことは知ったことじゃないってわけだ。場面によっては犠牲も止む無しで切らなくちゃいけない効果だが、今は何も問題にならない。俺の場にいるユニットは空鳴き一体のみ、お前の場にこそ守護者は並んでいる!」


「っ……!」


 必殺の三色混色トリプルミキシングユニット《世食みの大蛇ククルカン》が生み出した三体の《コトルトークン》も、それを強化する《六仙洞の伏竜》も。どんなに強力な盤面を形成していようと【守護】効果を持つ限りは獲物でしかない。空鳴きの圧倒的除去力の餌食となる哀れな被害者にしかなれない。そして今、その被害者になり得るユニットは敵陣にしか存在していないのだからアキラとしては敵も味方も問わない殺戮能力を行使するになんの躊躇いもない。躊躇う必要がない。


 ぶっ放す(・・・・)のみ。兵装サイにそうさせたように、とにかく彼は、彼のユニットたちは。


「何がなんでも! お前の築いた壁を突破する!! やれ、空鳴き!」


 天亡(ディザーズ・)(デス)破極(トラクション)!! 力いっぱいに技名を叫んだアキラの意気込みそのまま、いやそれ以上の戦意すら感じさせる咆哮で応じた怪鳥はより高く飛び上がって滞空。プレイヤーたちの遥か頭上で力を溜め込む様子を見せた。すると彼の周囲に浮かび上がる光の弾。無数のそれらは明らかに、あからさまに「死」の匂いばかりを漂わせていた。一目見てそうとわかる程度には並々ならぬエネルギーがそこに詰まっていた──その光景にロコルがごくりと喉を鳴らす、よりも早く破滅は落ちて来た。


「ぐぅッ……!」


 雨のように、日光のようにロコルのフィールドへ、立ち並ぶ守護者ユニットたちへと。隙間もなければ逃げ場もなく、容赦なく降り注ぐ光弾の群れ。そのひとつひとつが伏竜や《コトルトークン》の肉を抉り骨を砕き血潮を飛び散らせる。一発食らうだけでも十二分に致命傷になる、そんな一撃を何発も浴びて、どしゃ降りに打たれて、守護者ユニットは揃ってびしょ濡れになった。血塗れの見るも無残な姿となった──激しく繰り返す着弾の衝撃と凄惨な風景に思わずロコルも目を閉じてしまいたくなるほどだったが、けれど空鳴きの破壊ならぬ破滅の力はそこで終わりではなく。


「……? なッ!?」


 一拍の間。静寂を挟み、それから伏竜たちが内部から破裂した。一瞬何が起こったのか理解に苦しんだロコルであったが、すぐに気付く。あたかも独りでにユニットの肉体が爆散したようなこの現象も、空鳴きが作り出したもの。彼の落とした光弾。恐るべきエネルギーの凝縮されたそれが、守護者たちの体内へと侵入したそれが、その中で爆ぜたのだ。それこそ発射の威力を上回るほどの威力で、あたかも地雷の如く。あるいは炸裂弾の如くに標的の全てをズタズタにしたのだ。それはただの死をもたらすためではなくて、それ以上を──命だけでなくそのユニットの何もかもを決定的に終わらせ、奪い付くすための攻撃の仕方。空鳴きの「守護者殺し」の本領が詰まったやり方であった。


「ショッキングな光景にはなったが、これが空鳴きの能力だ。肉体の一片すら残さず滅された《六仙洞の伏竜》並びに三体の《コトルトークン》は除外ゾーンへ追放! もっとも伏竜と違ってトークンユニットである《コトルトークン》たちにはカード本体が存在しないため、除外されずにただフィールドから消え去るだけだけどな」


「…………、」


 アキラの言う通り。飽和射撃と体内爆破の悪逆コンボによって粉々に砕け散り、まったく元の姿を連想することもできなくなったロコルの場の守護者は……その肉片は雲散霧消し。墓地ではなくもっと取り返しのつかない場所へ、再利用の極めて難しい除外ゾーンへと放逐されていく。しかしてちゃんとカードから召喚されている《六仙洞の伏竜》はともかくククルカンの能力から生み出された疑似生命たる《コトルトークン》たちには帰る場所カードがない。帰属できる拠り所がない。よって死ねばそれまで。墓地ゾーンどころか除外ゾーンにも行けず、ただ無へと還るのみである。それがトークンユニットという存在の定め。


 残されたのはククルカン一体のみ。アキラのフィールドと同じく随分と小ざっぱりしてしまった己が戦線を眺めて、それからロコルは言った。


「やってくれたっすね、センパイ。まさかクレイドールだけでなく四体もいた守護者まで綺麗に一掃されるとは思ってもいなかったっすよ。予想を何重にも超えられて舌を巻くしかないっていうのが正直なところっす。──だけど! それでもまだ自分には」


「ククルカンがいる、か?」


「!」


 先回りされたセリフに、ロコルの言葉はまたしても途中で止まった。



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