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445.守護者殺しの怪鳥!

 清浄なる大自然のエリア。その只中で向かい合う両者の表情は対極的であった。


 片やエリアの展開主と、片やエリアを展開された側。狙いを果たした者と果たされた者なのだから一方の笑みに対しもう一方が険相と称して差し支えない顔を向けるのは当然のことでもあった──何せ少女の眼前に拓けるこの光景は、緑のマナに満ち足りたこのエリアは。


(センパイの望む『森王』ユニットを持ってくる……! デッキからのリクルート、そのためのコストとして残されたのが《強襲型重兵装サイ》! どうしてそれを予見できなかったっすか、自分!)


 兵装サイのコストは6。《森羅の聖域》はデッキへ戻すユニットのコストにプラス2までの範囲で『森王』を呼び出す。つまり兵装サイを戻せばアキラは8コスト以内での任意の召喚が可能ということ。──充分である。それだけの範囲があれば呼び出せないユニットの方が少ないのは明らかなのだから、充分に過ぎる。


 夜蝶ユニットとのコンボ専用のスペル《蝶の羽ばたきバタフライエフェクト》。それによって二体同時の踏み倒し召喚を行なわれた際、気付けてもよかった。確信とまではいかずとも予感くらいは抱けてもよかっただろう……未知なる『森王』ユニットと共に呼び出されたのがそれなりのコストを持つユニットであった時点で、「もしかしたら」と。そのくらいは勘付けてもおかしくなかった、はずなのに。


 万全の守り。要塞を築いたという自信が直感を阻害したか。エミルとは違いロコルにとっては過剰なくらいの臆病さがあって丁度いい「先を見るための力」に陰りが生じてしまったか……いや、そうではない。無論それも原因のひとつではあろうが、しかし最もの要因と見做すのは間違っている。本質を、見失っている。


 一番の原因と言うべきは──。


(『やってみせてくれ』と。そう願って、それを待った自分の欲張りがよくなかったっすね。勝利を欲しながら、そのために戦線を作り上げておきながら、でも劣勢を恰好よく踏み越えてくるセンパイの姿が見たくて……誰よりも近くでセンパイの『強さ』を味わいたくて、相反する願望を持ってしまった。感覚が鈍ってちっともこの展開が読めなかった最大の原因はこれっす)


 とまれ、兵装サイと導き手の登場の瞬間にここまでを見通せていたとしてロコルにはどうすることもできなかったのだから悔やんだからなんだという話でもある。


 例えばこれがエミルであれば実際に事が起こる前に事態を予測し、先んじて一手を打っておいたろう。限りなく効果的な対抗手段を用意しておいただろう。先見とは本来そこまでやれて初めて意味を持つ能力。読めても何もできませんでした、では読む意味がない。故にエミルではないロコルには、怪物ではない怪物の妹には臆病や願望の云々など関係なく。自分にやれるだけのことをやって、敷けるだけの布陣を敷いて、満足してターンを渡した時点で。渡した先で何をされようともそれを正面から受け切る以外の選択肢を持てなくなった時点で、決まっていたのだ。


 望み通りに彼の逆転劇が巻き起こることは、決定されていたのだ。


「──《森羅の聖域》の効果はふたつ。ひとつは自軍の種族『アニマルズ』ユニットが破壊されて墓地へ行く時、それを防いでコストコアに変換する効果。そしてもうひとつが、場の『アニマルズ』をデッキへ戻すことでそのユニットのコスト+2の範囲から『森王』ユニットをデッキ内から直接召喚する効果」


 滔々と告げられる聖域に宿る力。無論、それの仔細に至るまでを忘れてなどいないロコルに改めて説明を行なう意義もあまりないが、しかしアキラはきちんと手順を踏んでからその宣言に入った。


「俺は聖域のふたつ目の効果を発動し! 場の《強襲型重兵装サイ》をデッキへ戻してこのユニットをリクルートする──来い、《森王の空鳴き》!」


 《森王の空鳴き》

 コスト7 パワー6000 【好戦】


 弱りきった兵装サイがまるで聖域に保護されるかのように根や枝葉にくるまれて森の奥へと引き戻され、そしてその代わりと言わんばかりに更なる森奥の深層部より勢いよく飛び出す巨影。蝙蝠を思わせる翼に細長いくちばしが特徴的な、一般的な鳥とは随分と様相の異なる怪鳥。それがアキラとロコルのいる森の広場の上空へと嵐のような速度でやってきた。


「空鳴き……! それが!」


「ああ、こいつが! 兵装サイに続きお前の布陣を突破するための要の二! 山踏みと対をなす『森王』の戦闘要員の一体だ!」


 それがユニットでなくとも、エリアだろうとオブジェクトだろうと一度敵と見做せばお構いなしに何もかもを破壊し尽くす山踏み。それと対をなすと言うからには空鳴きにも何かしら破壊的な効果があるのだろう。そこは聞かずとも明らかであるために、それ以上何を言うでもなくアキラの続く言葉を待ったロコルは。


「空鳴きは守護者殺しの『森王』! こいつは場に出た時【守護】の効果を持つユニットを破壊することができる!」


「……守護者殺し、戦闘に重きを置いた緑陣営よりも破壊に長けた黒陣営っぽい能力っすね。元々緑・黒をメインカラーにしているセンパイにとっては扱いやすいユニットだろうとは思うっすけど。でも忘れてやしないっすか? 守護者である三体の《コトルトークン》には《六仙洞の伏竜》の能力によって漏れなく【加護】が! 相手のカード効果の対象にならないキーワード効果が付与されているってことを!」


 効果の対象にならないとは、除去の対象にならないと言い換えてもいい。それくらいに対除去面で優秀な能力である。除去そのものを無効化するクレイドールと、伏竜の与える【加護】。この二重の防壁によってロコルは自身の戦線を難攻不落と断じたのだ。クレイドールが落とされてなお【加護】持ちの守護者ユニットの壁を突破するのは並大抵の労力では済まない。とはいえ、常在型のそれらしく伏竜の守りには一応の欠点も存在していて。


「センパイが狙える守護者は伏竜だけっす。この子が与える【守護】持ちへの強化──2000のパワーアップと【加護】の付与は、自身をその対象から省いているっすからね。最初に伏竜から除去してしまえば《コトルトークン》もただの守護者に戻って、狙いたい放題になるっす」


 そう、伏竜が消えてしまえば強化も消える。そして伏竜自身はパワーアップもしていなければ【加護】も得ていない、ただのパワー6000の守護者ユニットでしかない。《コトルトークン》を厄介な壁足らしめている要素を担っている伏竜から退かしてしまえば、あとは通常の守護者が並んでいるだけに過ぎなくなり、どうとでもできる。つまりクレイドールをいの一番に狙ったアキラの判断が正しかったように、ここでも落とす順番さえ間違えなければ対処はそう難しくない。不落と言えども穴はある、ということだ。けれどそれはロコルの信条にも一致するために彼女自身がその穴の存在を気に病むことはない──そもそもの話。


「【加護】がなくなれば対処の幅が広がってどうとでもなる、とは言ってもっす。単純に伏竜を退かしてもまだ三体も守護者が残っているっていうのは脅威っすよね──最低でも二手が要求される! それを強要している伏竜は己が役割を果たしているっす。クレイドールと同じくきっちりと自分の場を身を挺して守ってくれている……どうするっすかセンパイ。せっかく呼び出した空鳴きも、たった一体じゃどうしようもないんじゃないっすか!?」


 まずは伏竜を殺し、残る《コトルトークン》も全滅させ、その後にロコルのライフコアを削り切るか、それができないならせめて《世食みの大蛇ククルカン》を始末する。そこまでやって初めてアキラの逆転・・は成る。だが、そんなことはかの若葉アキラといえども──。


「っ、」


 不可能である。

 そう口にしようとして、しかし少女はそれを言葉にできなかった。



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