表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
443/510

443.再度激突、砲撃と防壁!

 アキラに残された三つのコストコア。未使用を示す輝きを宿していたそれらをまとめてレストさせて、そこに眠る力を──カードをプレイするための力を引き出し、彼はそのスペルを唱えた。


「3コストスペル《リ・サイクル》。自軍の緑単色のユニットが効果を使い、処理が終わったところでこいつを詠唱すればこのスペルの効果はユニットの効果と『同じ』になる。それもその効果発動のためのコストは一切不要って形でな!」


「っ、コピー系のカード……それもコピー元の制約を無視する強力なタイプっすか!」


 緑陣営には珍しい種類の、それでいてそういったカード群の中でもとりわけ強い形式の効果にロコルは目を剥く。《山間宿》のような唱え得のスペルほど飛び抜けた強さがあるわけではないが、しかしユニットとの組み合わせ次第ではこの《リ・サイクル》も《山間宿》にまるで劣らぬカードパワーを発揮するだろう。効果の内容からしてこれも単色強化の流れで出た一枚。つまりごく最近にカードプールに加わった一枚だということ。


 こんなものまで揃えていたか、とロコルはアキラの思わぬ収集力の高さに驚くが、けれども考えてみればアキラは元々競技者プレイヤーではなく収集家コレクターとしてカードに触れてきていた人物で、今でこそプレイヤーに復帰してはいるものの歴としてはコレクターでいた期間の方がずっと長いのだ。そんな彼に収集力が備わっているのは当然と言えば当然。


 そもそもアキラには短期出張を繰り返す父が帰ってくるたびに貰えるドミネイションズの本場アメリカからのもあり、他のアカデミア生よりも最新弾カードを手に入れやすい土壌を有しているのだ。父親の勤め先の関係もありその『コネ』は御三家である九蓮華のパイプを活用するロコルにも劣らない。無論、人一倍の優遇を得ているからには結果も人一倍に出さねば世間から白い目で見られるのは世の常。本来ならかかることのない余計なプレッシャーまで付き物とはなるが、けれどアキラは既に学園における『次期最強』の看板を誰からの反対もなく──当然だ、元『最強』の称号の持ち主を退けた実績があるのだから──預けられている身。その程度のプレッシャーを物ともしないだけの確かな強さを持っているのだから、実力至上主義の場においてやっかみを向けられることもない。


 その点は一年生ながらにこれでもかと頭角を現しているロコルも同じではあるが──。


(だけどこれも認めるしかないっすね。まったく新しいカード! それを手足のように操る術に関してはセンパイの方が上手うわて! 自分よりもずっとセンスがあることを!)


 それをセンスの一言で片付けていいものか定かではないが、しかし少なくともその感覚により鋭敏なのはアキラだろう。どんな調整の仕方をしたかにもよるがイオリを長く付き合わせてようやく満足のいく出来に仕上がったこの無陣営デッキ──相棒と称しても不足のないくらいにはを通わせられた自信のある己が武器との関係性。よりも、アキラとアキラの新造デッキの間にある絆の方が「強い」。ロコルにはそう感じられた。


(自分は元来いくつもデッキを使い分けるタイプのドミネイター……それに対してセンパイは心血注いだ『ひとつだけ』の改造を繰り返し、延々と強化していくタイプ。それだけに乗り換えのリスクは自分の比じゃないはずっす。迂闊に新しいデッキを作ったって、それでファイトしたってガタガタになって終わり。最悪の場合は元のデッキの使い心地すら落としてしまいかねない──なのに、っす。今のセンパイはそんなリスクを背負った気配なんて微塵も漂わせちゃいない。当たり前のように! 元のデッキとも遜色のない程度に新デッキと深く結びついている……!)


 それこそがアキラの持つセンスであり、カードを愛する心の賜物であり、そして何よりも……覚悟の表れなのだろう。アキラはロコルに勝つために元のカードたちを、愛してやまないはずの『ビースト』を捨てたわけではなく。それに頼らねば本気の戦いができない「弱い自分」を乗り越えたのだ。デッキの切り替えは意識の切り替え。相棒を挿げ替えたのではなく戦い方を変えただけ。今回はデッキから外したカードも、採用を見送った他のカードも、そしてもちろん『ビースト』の面々も。変わらず彼の心の中にいて、直接の力添えこそなくとも彼にとっての何よりの原動力となっている。熱量になっている。そうやって勝負の一要素として、一員としてアキラと共に戦っているのだ。


 故にアキラのプレイングは、タクティクスは、新しいデッキを使っていてもまるで「普段の彼らしさ」を損なわないものなのだ。それが自分以上に洗練されているように見える最大の原因であると、そこまで看破してロコルは言う。


「コストコアを使い切ってまで唱えた肝入りのスペル、それにも納得のいく面白い効果っす──その呪文でやろうっていうんすね? もう一度! 兵装サイの火力とクレイドールの防壁の対決を!」


「そうだロコル! 俺が《リ・サイクル》でコピーするのは当然、兵装サイの強化効果じゃなく除去効果! その除去枚数も当然に最高火力(6000)消費の『三枚』を指定して──引き続き標的はクレイドール! ! 発射ァ!」


 アキラの掲げたスペルカードから発射される、のではなく。それから放たれた高密度のエネルギーがフィールドの兵装サイへと注がれ、そして彼は力を取り戻す。パワーこそ下がった2000のままで元の数値(8000)には戻っていないが、しかし確かに彼の内部には再び火力が、撃ち放つための弾薬が蘇っている。であるなら、兵装サイがやることはひとつ。


 砲撃再開。先と同じ迫力で、同じ軌道で飛来するとびきりの威力を伴った生体ミサイルに、ロコルとクレイドールもまた先と同じ対応を返す。


「クレイドールのカウンターを取り除いて! 除去を無効化っす!」


 見えない絶対防壁の再展開。それによって進路の途上でのミサイルの撃墜という先とまったく同じ結末がフィールドに再現される。だがアキラはへこたれる様子を見せない。何故ならロコルに防がせることこそが彼の狙いであるために。


「兵装サイの除去をコピーした《リ・サイクル》はその特殊な処理の仕方も完全に真似している。『三枚を一度に』ではなく『一枚ずつ三度』での除去っていう特徴も再現されているんだ──よって! 第五打を発射ァ!」


「ッ、クレイドールで防ぐっす!」


「まだ行くぜ、第六打! 発射ァ!!」


「くっ──!」


 クレイドールのカウンターはもう最後のひとつになっている。これがなくなれば、つまりカウンターを失った彼女は「役目を終えた」と見做され自動的に墓地へ置かれる。なのでこの六射目を効果を使って防ぐ意味はないも同然だ……防ごうと防ぐまいとどのみちクレイドールが場を去ることに変わりはないのだから。


 しかし、だからとて一流のドミネイターを目指す者としてここを無思考で流すわけにはいかない。ひょっとすればアキラの最後の手札が相手のカードの除去に反応してなんらかの効果を発動させる類いのものである可能性や、ないとは思うが兵装サイにもそういった能力がまだ秘められている可能性だって否定できない。


 だとすれば一見して無意味に思えたとしても保護能力を使っておくべき。まずもって除去されるよりはされないままに自発的に墓地へ行った方が余計なトリガーを踏んでしまう危険性も遥かに低いのだから……と、クレバーに判断を下したロコルではあるが。


 あるいは彼女は単に、自身のオブジェクトを敵の凶弾の餌食にしたくなかっただけかもしれない。自分でもその気持ちに気付いているのかいないのか、彼女はアキラの意気に負けじと最後の指示をクレイドールに下した。


「クレイドールのラストカウンターを取り除いて! 無効化するっす!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ