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439.二体のユニット、ふたつの効果

 若葉アキラに打算はない。それはファイトにおいてもそうで、故に彼のプレイングは「美しい」のだ。と、ロコルはそう思う。


 手の内を隠す、だけでなく騙ることまでしながら勝ちを目指す少女だから、余計に彼の在り方は眩しく映る──それは奇しくもアキラがロコルを見て抱く想いとまったく同一のものであった。


(これも卑下の内、なんすかね。ドミネイターならば、勝利を追い求めるならば当然にやって然るべきこと。積極的に相手のを誘う行為は戦士の嗜みのひとつだと、技量のひとつだと思ってはいても……でも心のどこかではそれを演技者としての己の正当化。姑息なまでの自己防衛でしかないと、そう思う自分もいたっす)


 あまりにも自分自身を見下げ果てている。それこそが他ならぬ九蓮華ロコルという存在の弱さであり甘えであると気付いたからには、もういたずらに己を貶めたりはしない。しない、けれども。


 そう決意しても憧れは止められない。こうも自分とは違う、こうも正反対の、それでいて「同じ場所」に立ってくれる彼を。自分には決してできないことをいくつもやってのけるアキラという少年に、焦がれて止まない。


 それは紛れもなく恋であり、愛であった。熱であった。

 熱、であるのなら。


 それは弱い彼女の強さとなるものだった。


(なんだっていい、たとえこれからセンパイの行う何もかもが! その全てが自分を追い詰めるためのものでも、殺すためのものでも! それでもいい──いや、それがいい! あなたのために死にたい、自分のために死んでほしい! ファイトの行き着く先はどのみちにとって最高で最悪! ああ、望むべくもない境地っすよ! そこに行けるのならどんなことだって……!!)


「俺が呼び出すユニットは、この二体だ! 来い、《森王の導き手》に《強襲型重兵装サイ》!」


 《森王の導き手》

 コスト4 パワー1000


 《強襲型重兵装サイ》

 コスト6 パワー6000+


 少年型ユニットであった《森王の下支え》よりも一回り小さな背丈の、葉で編まれたローブで口元だけを覗かせる幼気な子供。共に現れてその隣に立つのは、戦闘用兵器を身体中ところせましと並べ立てている見るからに恐ろしげなサイ型ユニット。一方は単なる子供でもう一方は凶獣という好対照と言うには落差が激しすぎる両者はしかし、どちらも意欲・・においてはムンムン。主人アキラの役に立たんと戦意に満ち満ちている点だけは共通しており、そしてそれだけでアキラの戦線の一角を担うに充分な資質があった。


「『森王』カテゴリの新顔に……そっちのサイさんも自分は見たことないっすね。どんな能力を持っているのか──」


「おっとその前に! 召喚が成立したことで《蝶の羽ばたき《バタフライエフェクト》》の追加効果を適用させてもらう──『相手の場のユニット一体の効果使用をこのターン封じる』! 対象は当然ククルカン、この効果に対してお前は発動の宣言もできない!」


「なっ……!」


 思わぬタイミングで虎の子の除去効果、その相手ターンでの起動が叶わなくなった。まさかの出来事にロコルが衝撃を飲み込めずにいる間にもアキラはお構いなしに展開の先へ行く。


「そしてロコル! 登場時効果をダブル発動だ!!」


 アキラの宣言に合わせて導き手と兵装サイが態勢・・に入る──まず能力が発動されたのは兵装サイの方だった。鼻先の角を振り上げていななき、彼の全身の武装が変化していく。


「《強襲型重兵装サイ》の効果処理! このユニットは登場時に複数ある効果の内からひとつを選んで使用することができる!」


「選択式効果っすか……!」


 選択式。それは古くからありはするが、最近になって明らかに増えてきているタイプの効果。その利点はもちろん状況にあった効果をプレイヤー自身が選べること。つまりは単一効果よりも「見られる」幅が広く、利便性が高いという点にある。こういったタイプのカードは珍しくはあれど昔から存在している──少なくともドミネイションズの歴史上、決して新参の効果ではない。とはいえ最近の選択式の増加はそれ以前までの全てと比べても直近に出た数が勝るほどなので、存在の有無はともかく『隆盛』において言うのであればそのピークは間違いなく今だろう。そうなった原因は、言わずもがな。


「そうだ。複数の効果を持つのが当たり前の混色ミキシングカード! その中には選択式効果も多数あって、それを追いかけるようにして単色カードにも選択式が増えていっている。兵装サイはそんなカードの一枚だ!」


 余談ではあるがより正確に表すのであれば、ミキシングは一枚で様々な働きをするのが当然のカード。選択式もある、とは言ってもそれはミキシングの中でもほんの一部。複数の効果を選ぶまでもなく全て使える、使えてしまえるのが主流であるからには、単色カードはそれを追いかけたというよりもあくまで近年のカードデザインの流れから強化の方向性が被った。もしくは意図的に被らされたのだと評すべきだろう。


 強力なミキシングの台頭に追従するように単色も強くなりはしたが、しかしそこで単色が混色に見劣りしない性能を持ってしまうのでは他陣営に跨るカードを作った意味がない。単色はあくまでも二色・三色に追いついてはいけない……《山間宿》や《月光剣ムーンライト》といったごく一部の最希少ハイレアでもない限りは明確な「力の差」が存在して然るべき。そういったデザイン上の都合から、いくつもある効果をどれも使いこなせるミキシングに対し、単色はあくまでも複数の中からひとつを選ぶだけに留まるように性能を抑えられている。


 序列は覆っていない。が、しかし。だとしても単色カードが強化されていることは事実であり、選択しなければならないと言ってもそれはそのカード単体で評価するならメリットになりこそすれデメリットには成り得ない。幅広い場面で活躍できるというのは間違いなく長所であり、最近では単色構築にスポットを当てた強化が始まっていることも相まって単色カードにもが来ていると称してもいいはずだ。


 元より単色にはコアに複数色を要求するミキシングに比べて「取り回しがいい」というハッキリとした利点もあったために、ミキシングの出始めでその飛び抜けた性能にドミネイターたちが揃って恐れ慄いていた半年前とは違い、現在の評価は『単色は必ずしも混色の劣化ではない』といったところで落ち着いている。ミキシングの活躍と広まりが凄まじかっただけに、この先の単色強化がどうなるか次第でひょっとすれば両者の価値がひっくり返ることもあり得るかもしれない……と、そこまで予想するのは今の段階だと時期尚早どころかもはや予言のレベルとなってしまうが、けれども。


 ミキシングの申し子の如くにデッキをほぼほぼミキシングカードで構成していたエミルや、長らく緑黒の組み合わせを崩してこなかったアキラが、今ではそれぞれ赤と緑の単色構築をしていること……無論それは『かつての暴れ方を反省して』だったり『己をよく知る相手の意表を突くため』だったりと個人の事情に即した変化であるが、しかし日本最高のドミネイター育成機関であるドミネイションズ・アカデミアにおいて元『最強』と最も『次期最強』に近いと言われる二人が、揃って混色から単色にデッキを挿げ替えていること。これがもし単なる偶然などではなく、覚醒を経た二人だから無意識に感じ取れる何かでドミネシーンの行く末を直感し、それに従った結果なのだとすれば。ミキシングカードと単色カードの関係性、その今後における予想もまたでたらめな予言だとは言い切れないだろう──閑話休題。


「兵装サイが持つ選択効果はふたつ! ひとつは『自身のパワーを2000アップさせ《好戦》を得る』効果! もうひとつは『自身のパワーを最大6000ダウンさせ、下がった数値2000につき相手フィールドの緑陣営以外のユニットかオブジェクトを墓地へ送る』という効果!」


「ッ、それは……!」


 兵装サイの能力、その最も厄介な部分についてロコルはいち早く気が付いた。



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