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437.ロコルの証明

今年もお世話になりました!

 ドローの極致。誰よりも運命力に秀でたドミネイターであるエミルに並ぶ、否、彼すらも凌駕するような。それを目にした大講堂内の誰もが言葉を、思考を詰まらせるような。そんなドローを実行したアキラは──。


「かつてない窮地。それを叩きつけてくれたのがロコル、お前で俺は嬉しい」


「……!」


「そしてそんな窮地を乗り越えることが! この絶対的な劣勢を覆すことが、最高に楽しいぜ!!」


「っ……!!」


 更に高まる、尚更に昂る。天井知らずのオーラは文字通りに頭上にある講堂の高い天井すら突き抜けて、どこまでも。かつての決戦を思い起こさせるほどに満ち満ちて溢れかえってもはや収拾の付かないくらいに、止めどないくらいに闘志を爆発・・させたアキラは──。


 完全に、そして完璧に、完成している。今この時、この一瞬だけ。限界を何重にも突破してなお高みに昇っていく彼はまさしく『究極』である。ドミネファイトを、極めし者。そう評して過言ではないほどの凄みが、ドミネイターの本能の行き着く先がそこにはあった。


 そうか、と思う。彼は己だけでなく対戦相手まで引き上げるファイトをする──そのおかげでロコルはこのファイト中にも自身がめきめきと成長していっていることを何度となく実感した。それと同じだけアキラの方も成長しているのだろうと、そう思っていた。


 だが違う。それは正確な表現ではなかった。相手を引き上げているのは『自分も』だと、今になって気付いた。


 もちろんロコルはそういうタイプのドミネイターではない。感覚派ならばまだしも生粋の思考派であり、子ども離れした演技者でもある彼女だ。そのファイトスタイルはどこまでも冷静にどこまでも効率的に、自身の最高を求め相手の最悪を導くプレイングを根幹としている。そこに「相手を引き上げる」などという無用な熱さは存在しない、存在する余地がない。だというのに。


 アキラに引き上げられ、強制的に『熱』を。過剰なまでの熱意を生じさせられ、結果としてロコルの戦い方は常の彼女ならぬものとなって。いつの間にかアキラのファイトスタイルそのままとなって、結果として彼を「引き上げて」しまっている。


 恐ろしい、と二度喉を鳴らす。この事実を知ってしまっては、理解してしまっては震えを止められるはずもない。つまりアキラは、己の高まりに呼応させて相手を高まらせ、その高まりに呼応して自身は更にもう一段階。いやもう二段階でも三段階でも上がっていく。そういうドミネイターなのだ、彼は。


 誰よりも熱く、誰よりも貪欲で、誰よりもドミネファイトに真摯でありひた向きであるが故に。彼と戦う誰もがそれに巻き込まれざるを得ない──拒否の手段などあろうはずもない。何故ならドミネイターであるという時点で、その肩書きを持つ時点で、アキラと向かい合う誰であろうとも『熱』は持っているから。どんなにそれを覆い隠していようとも、たとえ本人がそれを忘れ去っていたとしても。心の原点オリジンに必ずある、確実に眠っているそれを、彼は強制的に呼び起こして燃え盛らせてしまうから──だから。


「その熱で! 互いに燃やす過度な熱量で! 上昇気流のようにどこまでもどこまでも昇っていく……! そうして最後には必ず相手よりも上を行く! それがセンパイ、あなたのドミネファイトなんすね……!?」


「さあどうだろうな。そんなことは意識したことがない。俺はただいつだって、どんな時でも誰とでも。そのファイトを最高のファイトにしたい。一回一回を思い切り楽しみたい。それだけを想って戦っている! お前はそうじゃないのか、ロコル!?」


「自分は────、は……!」


 どう、なのだろう。自分が何を想って、何を一番にしてファイトしているのか。それさえもアキラと同じだと、胸を張って言えるだろうか。自信を持って言い切れるだろうか……ロコルにはわからなかった。


 ファイトは楽しい。それはもちろんだ。否定しない、したくもない。けれど。ああ、けれど。楽しさを最優先にファイトしているだろうか──それ以外のために、ファイトこそを方法にしていないか。そう問われてもロコルは否定できない。したくないのではなく、したくてもできない。確かに彼女には自覚があるからだ。ファイト以外のあれやこれ。向き合う相手との一対一、そこにはないはずの色々なしがらみ。そういったものを念頭に置いてカードに触れている自分がいることを、彼女はずっと自覚しながら生きてきている。


 家のこと。家柄のこと。界隈のこと。界隈の先のこと。どうして同じなどと言えよう。こんなにも「雑念」に彩られた自分が、染められてしまっている自分が、何にも染まらず、ただ純粋にファイトのためにファイトをしている若葉アキラと並んでいるなどと……並べるなどと、どうして言えようか。知っていた、そんなことは口が裂けても言えないと。彼の才能を信じたのだってその根底には「兄の打倒への布石」があった、こんな自分が、そんなことを。自惚れた贅沢な言葉を何故吐けようか。


 計算的である。打算的である。試算的であり、起算的でもある。何をするにも思惑あってのことで、ドミネイターであることすらも。ともすればドミネイションズカードを初めて握ったあの日からも、既に計算付くだったのかもしれない。自らの立場や将来のことを、物心がつくかつかないかの時分で思慮していたからこその選択だったのかもしれない……そうではないと言い切れはしない。ロコルだって、ロコル以外の誰にだって。ひょっとすれば、もしかしたら、あるいはそうなのかもしれないと。その可能性は拭えない。


「だけど『熱』はある。誰の心にも宿る原初の情動が、ドミネイターを突き動かす本能が、他の皆と同じく。お前の中にも確かに。そうじゃなきゃ俺とのファイトにそんなにも剥き出しになったりしないもんな」


「──図らずしも、っすね。自分だけじゃ信じられなかったに違いないっす。この胸の中にそこまで真っ新な熱さがあるだなんて……それ以前に否定していたっすから。信じるどうこうじゃなく、自分が。家から逃げるために一時はドミネイターであることすらやめてしまった自分が──それでいていざとなればドミネイションズに頼ることを厭わなかった、どっちつかずな卑怯者が。そんな熱を持てるはずもないと。そう否定していたんだと思うっす。だってその方が楽だから」


 だが、ロコルの意図せぬところで否定は否定された。アキラを信じたのは確かに打算の先立つ、どこまでいっても演技者の。どこまでいっても思惑ありきでしか動けない彼女かもしれないが。だとしてもだ。そうだとしても、今のこの時のこの瞬間のどこまでも高みへ向かわんとするアキラへ、しかし負けじと、懸命に食らい付かんとする熱き想いは、本物だ。本心なのだ。嘘も偽りもなければ演じようともしていない、紛れもない純粋さがそこにはある。


 証明されている。九蓮華ロコルとは、彼女自身が卑下するほど取るに足らない存在ではない。卑怯者の一言で片付けられるほど安い少女ではない──『ドミネイター』である。勝負に燃える血潮をその身に流す、一人の戦士である。それがこのファイトでとうに証明されてしまっている。否定のしようもなく、卑下のしようもなく……ならば、だ。


 ロコルの結論はたったひとつ。


「燃えたからには絶やさない。この勝負が終わるまで、自分は……私は! センパイ、あなたと燃え尽きたいから!! どうか最後までお付き合いを願うっす!」


「それはこっちのセリフだぜロコル──俺は『コアゾーンから』! ユニットの効果を発動させる!」



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