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433.無陣営の眠れる竜!

 山をも踏み越える巨体のイノシシ、そして聖獣たる彼の守るべき棲み処たる聖域が、大蛇のひと鳴きで諸共に滅びた。その顛末を見届けてからロコルは口を開いた。


「どうっすか、ククルカンの力は。万が一にも《森王の下支え》みたいな『森王』並びにエリアカードを守る仕込みが他にあったとしても、それすら無意味っすよ。ククルカンは獲物が抵抗することを許さず、そこに邪魔立てが入ることも許さない……要するにこの子に目を付けられた時点でそいつはもうこの世にいられない運命なんすよ」


 世食み・・・の大蛇。ククルカンに付けられたその名が決して大仰でもなければ大袈裟でもないことをアキラは理解する。確かにこの力は恐ろしい。手札を捨てねば発動できないとはいえ、しかし手札さえ捨ててしまえばどんなカードだろうと、そしてどんなカードが守ろうとしたってお構いなしに。まるで関係なしに確実に排除できるのだから経費としては格安と言っていいだろう。しかもそれが起動型効果……つまりはターンさえ跨げば何度でも使用可能だというのだから尚更に脅威は際立つ。捨てるための手札を確保され、そして毎ターンこの二枚除去を使われてしまえばそれだけで勝負が決まってしまいかねない。


 そう冷や汗をかきながら思うアキラに、ロコルは「ひとつ言っておくと」と解説に付け加えた。


「この手のユニットと何度も対面してきたセンパイなら薄々と察しているだろうっすけど──そうっす、その通りっす。ククルカンの除去効果は相手ターンでも起動できるっす。つまり往復の間に四枚! この子は盤面から追い出しちゃうっす! そのためにはこっちも四枚の手札を食われちゃうっすけどそこさえクリアできたなら、如何にセンパイと言えども相当に、猛烈に苦しいんじゃないっすか?」


「……やっぱりそういうタイプの効果かよ」


 ロコルの言う通り、トリプルミキシングのユニットとは他の者よりも対戦経験が豊富なアキラだ。だからとて「慣れている」だとか「対処法を知っている」わけではないことは言うまでもないが、少なくともそれが敵としてどれだけ強力な存在かを熟知しており、それ故に初見のカードにして初耳の効果であっても大方の予想くらいは付けられるようにもなっている。


 ククルカンの除去がともすれば自ターンに限らないものなのではないか、という疑いは当然に抱いていた。本当なら見当はずれであってほしかった疑惑がまったく正しかったと教えられて、嬉しさではなく呆れに近い感情が胸を満たしつつ、しかしアキラはそんな胸中を別にして素早く頭を──思考を回す。


(起動型効果にも登場時効果にもコスト外コストが必要だっていうのは、トリプルミキシングとしては意外と自制ができてるって言えなくもないか……? だけどそれだけの制約がかかるのも納得の性能だ。ロコル自身の場も含めて盤面の内外への干渉力が高すぎる!)


 ユニットの犠牲さえ許容できるならククルカンは自身の効果でプレイヤーの手札を一枚増やす。すると起動型効果による除去で捨てる手札を一枚は確保できることになるので、二面処理に拘らなければ差し引きはゼロ。実質的に追加コストを支払わずに発動できているようなものだ。とはいえ、オブジェクトカードが主軸メインであるロコルのデッキからするとやはりユニットを贄として要求するククルカンはそういう面でも重たい、扱い辛さのあるカードであることに変わりないが。しかしロコルはそれを問題にするようなデッキ作りをしていない。


 ならば彼女が見せる攻勢のはここからになるだろう。そう見抜いたアキラの眼力は確かで。


「たった今コストとして手札から捨てたカードの効果を墓地より発動するっす!」


「当然仕込むよな、お前なら! それがさっきのクイックチェックで引いたカードだな!?」


「お見通しっすか! ちゃんと隠したつもりだったのに本当にそら恐ろしいっすねセンパイは──でも! この一枚が何を引き起こすかまでは読み切れなかったはずっす! 『効果によって手札・デッキから直接墓地へ送られた時』! このユニットは自身を蘇生召喚することができるっす! 甦れ、《六仙洞の伏竜》!」

 

 《六仙洞の伏竜》

 コスト7 パワー6000 【守護】


 墓地の深淵より盤上へ姿を現したのは、ほとんど黒に近いほど濃い青に全身が染まった水棲竜。普段は隠れ潜み水気に含まれる僅かな栄養だけを糧にひたすら眠り続けるその竜が、主人プレイヤーより呼び起こされのっそりと首を上げた。鈍重な動作に眠たげな眼。一見して戦える状態にあるようにはとても思えない有り様であるが、しかしどんなに気怠い気配を纏っていようとも竜は竜。生まれながらの強者であり、伏竜とてそれは例外ではない。故にアキラも息を呑んで。


「なん、だって……ドラゴン!?」


 ドラゴンと言えば赤陣営が誇る切り札にして究極生物。どんな劣勢でもそれが一体場に出るだけで勝敗をひっくり返せるとまで言われる、こちらもな力の持ち主だ。そんなユニットがまさか無陣営から飛び出してくるのは意外どころの話ではなく、アキラの困惑はそのまま講堂全体、このファイトを見守っている大方の抱いた感想と一致している。


 それに対してロコルは。


「ドラゴンと言えば赤。それは常識というか通念って感じっすけど、センパイもご存知の通り一応は他の陣営にだってドラゴンはいるっす……いやいや、わかっているっすよ。他陣営にいるのは近縁種であるワイバーンがほとんどで、種族に『ドラゴン』と付く純粋種は本当に希少だってことは。その上で無陣営のドラゴンなんてのがどれだけ世間に知られていないかは、自分だってよく知っているっす。だからこそ! この無陣営デッキに是非とも採用したいと思って自分なりに必死になったんすよ?」


 九蓮華に戻り、そのコネクションを利用できるようになったからなんとかなったが、そうでなければ無理だった。自力だけで《六仙洞の伏竜》は手に入らなかっただろうと確信をもってロコルは言う。そうまでしてこのカードを手中に収めたのは、出たばかりのハイレアである《山間宿》をデッキに入れているアキラと同じだ。妥協したくない。思い描いた構築の通りに戦いたい。そこに手落ちや型落ちがあってはいけない、と。アキラとの勝負を一片の瑕疵もない完璧・・なものにしたくて。悔いのないファイトなどないと知りながら、この世に完璧なんてないと思いながら、それでもそこにだけは一切の諦観を持ち込みたくなくて。


 だからロコルは構築段階から本気も本気で、自分に使える全てを惜しみなく恥ずかしげもなく使いまくった。そうして出来上がったのが、彼女の相棒となっている今のデッキである。


「種族名『ファティグドラゴン』……まあ、こちらは珍しいというだけで必ずしも希少性に見合ったカードパワーを持っているというわけでもないんすけど。そういう意味では有名かつ性能もおかしいスペル《山間宿》と同列には語れないっす。ただし──」


「ただし、お前が実家のコネを使ってまで探し出してデッキに採用しただけの価値が確かにあるユニットだ。って、そう言いたいんだろ?」


「んふ、自分のことはなんでも先回りのお見通しっすか。嬉しい限りっすね!」


 行くっすよ、とロコルが呟いて。そのなんの気負いも感じさせない軽い口調に、世界を食らう大蛇はまたしても大きく重くその鳴き声を喉奥から絞り出して応えた──来る。いよいよトリプルミキシングユニットの攻撃が行われる。誰もが恐怖に染まるその瞬間を目前に、されどアキラは真っ直ぐにその存在を睨みつけた。


「来いよ三色の化け物。久しぶりに混色退治をさせてもらうぜ!」

 


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