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431.エース超えの怪物! その名はククルカン!

「直接召喚だって──それを無陣営がやるっていうのか!?」


「やっちゃうんすねえ、これが!」


 アキラがこれだけ驚きを露わにするのも無理はない、と思いながらロコルは得意そうに返答する。きっと彼は緑陣営のお株を奪われたような気持ちでいるのだろうし、何よりデッキからの直接召喚という決してありふれてはいない、どちらかと言うなら確実に「ニッチ」な種類のそれが、よりにもよってこの決勝の舞台でなどとは思いもしていなかっただろうから、その衝撃も一入であろう。


 ロコルも《森羅の聖域》の効果を知った際には、自身が戦術のひとつとしてデッキに仕込んだ《太極清廉図》が脳裏に浮かんだ──こんなところでも意図しない重なりが起こるのかと驚愕したくらいだ。ここにきてそれをやり返されたアキラの心境は彼女にも想像がつき、だからこその好機。曲がりなりにもアキラの心に揺らぎが出ている今こそが攻め時だとより意気を高めて言葉を続ける。


「もっとも! 同じ直接召喚と言っても微妙な違いはあるっすけどね!」


「微妙な違い……?」


「センパイの聖域で召喚されるユニットは『森王』カテゴリのユニット全般。コストの制限こそあれど基本的に呼び出し先の縛りはなく、自由にどれでも選べる上に、なんなら手札に来た『森王』を通常の召喚で場に出すことも可能っすよね。でも《太極清廉図》はそうじゃない──このオブジェクトで呼び出されるユニットは『《太極清廉図》の効果()()でしか召喚できず』! 更に『呼び出せる種類もそのユニット一体のみ』っす! これらの縛りが何を意味するのかもセンパイなら聞くまでもなく理解できるっすよね!?」


「ッッ──!」


 ロコルの信頼と挑発が綯い交ぜになった問いかけの通り、アキラにはすぐにわかった。これだけの条件が課されていること、その意味。《森羅の聖域》はあくまでデッキ内に控えているユニットしか呼べず、つまり手札に来てしまった『森王』はその次点で聖域の効果で呼び出す候補から外れるということ。入れ替わりでデッキに戻すユニットのコスト以外にもかけられた制限と言えるのがこの「呼び出し先に手札が含まれない」部分であり、その点ロコルの《太極清廉図》はデッキだけでなく手札からでも件のユニットを場に召喚できる……が、だからといって清廉図の直接召喚が聖域のそれの性能を上回っていることにはならない。


 何故なら呼び出し可能なユニット自体にかかった制限が違う。聖域と清廉図だけを比べればあたかも後者の条件が「緩く」、使い勝手に勝っているようにも思えるものの、しかし直接召喚という効果の都合上呼び出しの装置だけでなく呼び出される先のユニットたちも比較対象として重要だ──召喚不可。特定の手段以外に場に出す方法がない、という制約はユニットに付属するデメリットの中でも各段に重たい部類に入る。そして《太極清廉図》で呼ばれるユニットは「それ以外では召喚できない」という、重たい召喚制限の中でも更に一際重たい限定に限定を重ねたものを縛りとして設けられている。


 ──それだけの制約を背負うユニット、ということは即ち。


「『森王』ならなんでも呼び出せる聖域と、たった一体。それもその方法でしか呼べない《太極清廉図》から召喚されるユニット……この範囲の差はそのまま呼び出されるユニットの性能差に直結する。つまり今からお前が召喚しようとしているユニットは、そんな制約を課されて然るべき強力さが! それこそ俺の使った《山間宿》だって目じゃないくらいのカードパワーを持っている! そういうことだな……!?」


「まさしくっすね、センパイ! 封印の解かれた清廉図を墓地へ送ることで、自分のデッキに眠る最強・・のユニット──ブレイザーズすら超える怪物・・を呼ぶっす!」


「!」


 無陣営オブジェクトカードを中心に組まれたロコルのデッキにおける絶対的エースであるはずの《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》。装備オブジェクトと絡めたそのユニットの強さは語るに及ばず、一度は退けつつも再びいつ彼女がエースに頼るかと常に警戒を続けているのが現在のアキラなだけに、まさかブレイザーズを超えるようなユニットがまだロコルのデッキに潜んでいるとは夢にも思わなかった──つくづく「欲張り」な構築をしている。これだけ色々と詰め込んで、なのにデッキとしての実用性・実践性をまったく損なっていないという事実が彼女の構築力の頭抜けた高さを物語っている。


 感嘆と戦慄を同時に味わうアキラを他所に、ロコルはデッキ内から手に渡ったその一枚を掲げてみせ、それから手早くファイトボードへ置いて言った。


「おいでっす、清廉図に鎮静されていた怪物! 今だけはお前の力を存分に見せつけていいっすよ──《世食みの大蛇ククルカン》!」


 《世食みの大蛇ククルカン》

 コスト0 パワー10000 MC 【好戦】 【呪殺】


 独りでに砕け散った台座が粉塵を上げ、それが晴れた時にはもう「そいつ」はそこにいた。あたかも台座が蓋となって閉じ込めていたかのようにフィールドへ飛び出してきたそれは、色取り取りの鱗に飾られた、人間と爬虫類どちらの特徴も合わせ持った手足を各四本ずつ生やした巨大な蛇の化け物だった。その異形、その異様……よりもアキラの目を奪ったのはロコルが一瞬だけ見せたククルカンのカード、そこに宿ったであった。


「なんだって……ロコル、ククルカンはまさか──」


「あは、ちゃんと言われずとも気付いたっすねセンパイ。そうっすよ、そのまさか! ククルカンは無陣営カードで組まれたこのデッキにおける唯一の例外! 色を持つカード──それも! 赤青緑の三色混色トリプルミキシングユニットっす!」


「トリプルミキシングっ!」


 無陣営のみで構築されている……そう語ったあの時の言葉も虚偽ブラフ。実際にはたった一枚だけ、それも《太極清廉図》なしで手札に来てしまえば単なる死に札にしかならない陣営持ちのカードをロコルは採用していた。そこまで欺くか、と驚愕するアキラへ、そこまでやらずにどうする、とロコルは勝ち気に口角を上げる。


「清廉図からしか呼べない、重たいどころじゃないユニット。とはいえっす。仮に通常召喚可能なユニットを隠し味として一枚だけ刺していたって他のカードが全部無陣営であるからにはどうせ召喚不可なのは同じことっすからね。色持ちのカードはその色と合うコストを最低ひとつは使用しないとプレイできない。ドミネイターが最初に覚えるファイトの原則ルールっす……だったらククルカンの制約もあってなきが如し。むしろその制約の分強力な力を授かっているんすからお得だとも言えるっすよね?」


「……理屈はわかるけど、そんな考え方ができるやつは他にそういないだろうさ。そもそもただでさえバランスのとり方が難しいそのデッキに他陣営のカードを、それもミキシングを仕込もうだなんて発想として普通じゃないぜ」


 例えばスタートフェイズイズのチャージでククルカンがコアゾーンに行ってしまえば今度は《太極清廉図》が死に札となる上に、ミキシングカードの制約としてチャージされたターンはレスト状態となり、そのターン中の使用が叶わない。つまり本来よりもコストコアがひとつ少ない状態で戦わねばならないことになる。そういった諸々のリスクを望んで抱え、それを露とも悟らせずに悠々と全ての条件をクリアしてロコルはククルカンを召喚してみせた。


 ──この一連の流れに隠された難度の高さを知ったアキラは「お見事だ」とロコルの手腕を称える以外になかった。



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