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425.それぞれのアドバンテージ!

 ちャリっ、と神経に障る音を立てて黒曜の刃と刃が擦れる。ライフコアを打ち砕いた勝鬨代わりか、はたまたナイフ同士で毀れた刃先を研いだのか。真意は影縫いのみぞ知るが、とにかく彼か彼女かも判然としないそのユニットは主人より下された命令を忠実に遂行してみせた。それによって影縫いに秘められた第二の効果がここに発動される。


「影縫いは自身の攻撃でユニットを仕留めるかコアをブレイクした時、それぞれ別のリターンをプレイヤーに発生させる! ユニットを倒したならドローによって手札を増やし、ライフコアをブレイクしたならコストコアのチャージが行える! 今回適用されるのはチャージの方だ!」


「むむ……!」


 ドローにせよチャージにせよデッキトップのカードをいち早く戦場へ引き込むことに変わりなく、アキラの使える札が一枚増えること。それはロコルからすれば無論のこと喜べる事態ではない──さらに言えばどちらの効果が作用しようとなことにも変わりはないが、この場面においてはドロー以上にチャージの方がより面倒だと少女は顔をしかめる。


 何故なら現時点でのアキラの使用可能なコストコアの残りはたったふたつ。それだけであれば、いくらドローで手札が増えようとやれることには限りがある。だがそこで使えるコストが増えてしまえば、ドローなどしなくてもあの三枚の手札から何が飛び出してくるかわかったものではない。


(『アーミー』での大量展開もしっかり記憶に焼き付いちゃあいるっすけど、あれは墓地や手札にせっせと種を蒔いていたからこそ成った連鎖。以前までのデッキと同じくセンパイの爆発力・・・はなんの準備もなく発揮できるような代物じゃあないっす──なもんで、《収斂門》による初期化リセットがまだ尾を引いている今。墓地にも手札にも仕込みが済んでないこの状態なら、センパイが欲しているのもきっと……いや間違いなくチャージっす!)


 欲しているときに欲しているリターンが得られた。そこは影縫いの効果と噛み合ってしまっている偶然を呪うしかないが、しかしこれは仕組まれた偶然であるからしてそう呑気に運命ばかりを睨んでもいられない。なんと言っても《森羅の聖域》の呼び出し効果によって《森王の影縫い》をデッキから召喚すると決めたのはアキラ自身なのだ。《太極清廉図》の排除に二連続で失敗し、それ以上の追撃が行えないと認めるやいなや彼はそこから獲得できる最大のアドバンテージを目指したに違いない……それこそが、敵のライフを詰めつつコアブーストを狙える影縫いというユニットの招聘。オブジェクト破壊が叶わない以上、アキラが現状で行える最良がこれである。という答えはロコルからしても花丸を押したいくらいの模範解答だ。


 清廉図を場に残したロコルの無駄のない守り。に、お返しとばかりに仕掛けられたアキラ流の無駄のない攻め。甘くないのはそっちも同じじゃないかと見つめる彼女の視線の先で、彼はデッキの上のカードをその手に掴んだ。


「影縫いの効果でデッキトップの一枚をコアチャージ! これでこのターン中に俺が使える残りのコストコアは三つになった!」


「そうっすねセンパイ。だけど自分だって! ブレイクされたことでワンドローができるっすよ──影縫いの効果処理が終わったこの瞬間、クイックチェック! 引いたデッキトップのカードがクイックで唱えられるものであれば即時無コストでプレイできるっす!」


 オーラを滾らせる。先のアキラがそうしたように、彼のプレッシャー下においても充分なドローができるように……そしてそれ以上のオーラ攻撃にも対処できるように用心を限界まで張り詰めさせる。そんなロコルを見て今は何をしても無駄と考えたのかアキラは『射撃』を繰り出さなかった。妨害は通常のオーラによる抑圧だけ。ならば問題はない、とロコルのドローは滑らかで。


「引いたのはクイックオブジェクト《スフォニウスの泥人形クレイドール》! 当然無コストで場に設置するっすよ!」


 土色の硬質な肌を持つ人型オブジェクト・・・・・・・・。それも少女らしい体型をしたオブジェクトとしては非常に珍しいデザインだ。人型、と言っても人間のそれとは決定的に違う肌の質感からも明らかな通り、彼女は人を模して造られた人形に過ぎない。ただし愛でて楽しむ愛玩用のそれとは異なり、クレイドールとは自律稼働の機能が搭載された戦闘用人形であるが──。


「っ、またクイックオブジェクト。それもよくわからないのが出てきたな」


 今はただ手持無沙汰な様子で──身じろぎひとつもせず無表情でいるだけなのでそれはアキラの主観がだいぶ入り込んだ表現になっているが──佇むだけのそのオブジェクトが何をするのか、どんな能力を持っているのかはわからない。さすがに見た目だけでは「ある程度」すらも予想がつかない……この局面でそれはとてもイヤな感じがするものの、されどどんなに目を凝らしてクレイドールを見つめようとも情報は増えてくれないのだからどうしようもない。


「《スフォニウスの泥人形クレイドール》のコストは6っす。即打ちでコストを払わずにプレイされたとはいえ、『5コスト以上のオブジェクトが自分の場に出た』ことに変わりはないんで《万端の鬼酒》の効果が発動されるっす──デッキから一枚ドロー! これで自分の手札は二枚、次のスタートフェイズのドローと合わせてなんとか《ショック!》と《爛漫のアミュレット》での消費を取り戻せるっすね」


 クイックカードは言うに及ばず強力だ。相手のターン中だろうと構わず、しかもコアゾーンの状況にも左右されずにカードをプレイできるとなれば、それがスペルだろうとユニットだろうと相手の意を外す、流れを崩すという意味でこれ以上の妨害はない。それは攻めに対するカウンターとしても高く機能し、故にこそドミネファイトにおいてクイックチェックは最も重大な要素のひとつとして数えられている。


 このことはドミネイションズの知識が深まれば深まるほど、相手ターン中に能動的に効果を使えるカードが決して多くはないことを知れば知るほど、改めて思い知らされる事実でもある。初心者から上級者、そして更なる上澄みのプロであっても誰もが声を揃えてクイックチェックでの「ツキ」こそがファイトの勝敗を分ける最大の要因になると唱える。そこだけは腕前の差など関係なしに絶対的な共通認識となる、それくらいにクイックでカードをプレイすることはプレイヤー双方にとっての大事・・なのだ。


 とはいえ「完璧なんてない」というロコルが掲げる信条に則って言えば、最高の妨害であり反撃であるクイックでのプレイにも弱点はある。それが手札の消費を加速させること。クイックチェックに失敗、つまりはクイックカード以外を引いたり、あるいはクイックカードではあっても状況にそぐわずプレイが叶わなかったりして温存を選んだ場合、そのカードは当然ながらプレイヤーの手札に留まり、次ターンのプレイングに寄与する貴重なリソースとなる。なのでクイックチェックに失敗することがイコールで「妨害の失敗」とはならず、場合によっては相手ターンでの反撃以上に自身のターンにおける動きの幅が増える方が後々の良い流れに繋がることも往々にしてある──つまりはケースバイケース。その一言で片付けられるわけだが、ともかくとして。


 ライフコアが授けるドローはプレイヤーの生命線。それを引いた傍から使っていくのでは手札の減りが早まるばかりなのは自明の理。弱点というよりも欠点と称すべき部分がクイックプレイにはある、そこをロコルは上手く切り抜けている。アキラが反応したのはたった一枚のドローではなく、それが表す彼女の抜け目のない戦い方にこそ苦笑を禁じ得なかったのだ。



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