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424.聖域の影に潜む者!

 ──こんなにも楽しめているのだから。


「エリアカード《森羅の聖域》の効果を発動!」


「! ここで来るっすか!」


 一ターンに一度の聖域による「呼び出し」。それに応える雄叫びが森の奥から響き渡った。そいつは既にそこにいる──アキラは何を召喚するかとっくに決めているのだ。


「フィールドの種族『アニマルズ』ユニットをデッキに戻すことで、そのコストに2足した数までのコストを持つ『森王』ユニットを一体デッキから召喚できる! 俺が戻すのは《森王の覚まし人》、コストは4!」


「つまり6コスト以内の『森王』を好きに呼び出せるってことっすね」


 8コストを持つ大型ユニット《森王の山踏み》を見たあとでは相対的に小さく感じるが、しかし最初に登場した『森王』である賢人も同コスト帯であったことを思えば、たとえ大型の分類には属さなくともこのカテゴリにおける6コストの脅威は決して軽視できたものではない。


(覚まし人じゃなく山踏みを戻せば超大型・・・の分類に入る10コストの『森王』だって呼び出せたわけで、それくらいのサイズになれば6コストとは脅威度も比較にはならないはずっすけど……とはいえデカいユニットが必ずしもどんな場面でも活躍できると決まってはいないっすからね)


 山踏みは場に残したまま、戦闘向きではない覚まし人を下げて別ユニットを呼び出した方がいいとアキラは判断したということ。そもそも『森王』カテゴリに10コストもの重量級ユニットが存在しているのか、していたとしてそれをアキラがデッキに採用しているのかは定かでない。ひょっとすれば山踏みが構築内での最高コストかもしれないし、そうであるならそれを帰してまで呼び出さなければならないユニットなどいるはずもない。いずれにしろ。


(先の発言から照らし合わせるに、センパイが呼ぼうとしているのはまず確実に──)


 躍起になっていた《太極清廉図》の無力化……効果発動前の除去がもはや叶わないと知って、それをあっさりと切り替えてのちの第一手。そこでアキラの取る新たな選択が引き続き攻勢の内であることをロコルは知っている。推論ではあく、彼はそういうドミネイターだと存じているのだ。


 少女の予想は的確で。


「来い、5コスト! 《森王の影縫い》!」


 《森王の影縫い》

 コスト5 パワー3000 【疾駆】


 覚まし人と入れ替わりでアキラの場に現れたのは、黒曜石から作られたナイフを両の手に持つ謎の人物であった。謎と称したのは彼(?)の全身が不自然な影に覆われており、その姿形から顔立ちまでの一切が不明であるからだ。わかるのは唯一光を反射している黒曜ナイフの輝きと鋭利さだけ。そのユニットの戦い方がこれまでに登場した『森王』たちと一線を画していることは、それの姿を初めて見るロコルにも明らかであった。


「これまた怖そーなユニットが出てきたっすね……!」


「怖くはないさ、こんな見た目だがこいつも聖域を愛し守る聖なる戦士の一人。大自然の魔力を武器に外敵へ挑むのは下支えや覚まし人と変わらない。ただし」


 魔力によって耐性を与える下支えや、死した仲間を蘇らせる覚まし人とは違い、この影縫いは自身を影と同化させての闇討ちを行なう。殺傷こそが使命であると己に定めている──故に彼の攻撃を止めることは誰にもできない。


「【疾駆】を持つ影縫いは召喚酔いに悩まされず、登場と同時に攻撃が可能! ダイレクトアタックだ! そしてアタック時に影縫いの効果発動、このユニットのアタックは『アタックしていないもの』として処理上は扱う!」


「アタックしていないものとして扱う……!? なんすか、その能力は!」


「端的にまとめれば影縫いはアタックしても疲労レストせず、【守護】持ちやそれ以外のガード能力持ちも無視できることになる。これはお前のオブジェクト《守衛機兵》なんかも例外じゃなく、仮にあれがまだ場にいても影縫いは止められない。当然だ、だってアタックしていないんだからそれをガードしようたってできるはずもない。そうだろう?」


「……! 完全ガードの上を行く、完全アタックってわけっすか!」


 アキラの言う通り、そもそも『アタックしていない』のならガードの出番は来ない。実際には影縫いはしっかりと攻撃を行なわんとしているために屁理屈もいいところではあるが、しかし屁理屈とて理屈の内。処理上で影縫いが攻撃していないとして扱われるのならロコルもそれに従わなくてはならない──ガードすり抜けのキーワード効果である【飛翔】や【潜行】持ちのユニットすら止められる《守衛機兵》の完全ガードをこんな方法で上回られるとは。それを可能とするユニットがいるとは、機兵の能力に厚く信を置いていたロコルとしては《森王の影縫い》の存在は衝撃的だったが……しかし同時に納得もする。


 これは改めて自身の考えの正しさ、その補強となる出来事であった。


(やっぱり完璧なカードや盤面なんてないんすね。どんなに強そうに見えても、どうにもならないように思えても、必ずどこかに穴はある。それを見つけ出して突き崩す。そうしての打開をやってのけてこそドミネイター! センパイはそれができる、それをし続けてきたお人っすから……そりゃあ強いはずっすね!)


 ロコルだって同じことをしている。怒涛の展開で並んだ『アーミー』軍団の包囲からたったの一手で抜け出したり、今だって執拗なオブジェクト除去から手札効果と墓地効果の連打で《太極清廉図》を守り抜いたりと、一見すればどうにもならない状況から奇跡とも呼べるような切り抜け方をしている──窮地を打開している。それを強さと呼ぶのなら彼と彼女はやはり互角。どこまでも対等なドミネイター同士であり、同志であると言えるだろう。


 自分の中にアキラを感じる。アキラの中にも自分を感じる。だから、こんなにも、熱く燃える。互いが互いの燃料であり火種であるが故に──。


「影縫いでブレイク! ロコルのライフコアをひとつ奪う!」


「ッ……、」


 足運びをまったく感じさせない這うような動きで彼我のフィールドを渡った影縫いは、鬼酒にも清廉図にも見向きもせずに通り過ぎ一直線にロコルへと接近。そして流れ作業のように黒曜のナイフを振るって少女を守る四つの命核ライフコア、そのひとつを切り裂いた。そこで追い打ちをかけるかの如く再びアキラが宣言する。


「ここで影縫いの追加効果が発動する! この処理はブレイクによるクイックチェックよりも先に行われる!」


「なっ、このタイミングでまだ何かあるっすか!」


 速攻能力の【疾駆】に、アタックしないアタックを行なえるという特異性。これらだけでも単色の5コストユニットとしては破格の能力で、コスト帯からすれば低すぎる2000のパワーだってデザイン上の当然の配慮だと受け入れられるくらいだ。だというのに、なんとも欲張りなことに《森王の影縫い》にはまだ他にも効果が。それもアキラの表情からして制約デメリットの類いではない、彼にとってのアドバンテージとなるような能力があるというのだからロコルからすれば堪ったものではない。


「どうした? そこは驚くようなことじゃないはずだろ。それくらいの力がなきゃ『森王』ユニットじゃあない。『ビースト』の代替として俺が採用するはずもないってのは、確かお前自身が言ったことだぜロコル!」


「……!」


 まったくもって正論であった。とうにロコルの中で成り立っていた、それもまたひとつの理屈。今更そこに疑問を持ったところでしようがない……そう告げられて少女は、汗を流しつつも笑みを深めた。



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