表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
423/510

423.こんなにも

(発動したターン限定、かつ使い切り……それも破壊にしか対応していないとなれば耐性効果としてはそこまで強い方じゃない。けど、それで上手く山踏みを止められてしまったんだからしてやられたな)


 墓地から除外ゾーンへと自らを追放して発動された《爛漫のアミュレット》は、《太極清廉図》だけでなく《万端の鬼酒》にも破壊耐性を与えている。ロコルの場のオブジェクト全てがアミュレットの加護の対象になると思えば決して──墓地から効果を発揮する奇襲性・・・も合わさって──弱いとは言えないだろう。とはいえ一度切りの制約がある以上同ターン中の「二度目の破壊」からは守れず、耐性の残っている鬼酒の方もターンを跨げば素の状態へと戻る。墓地効果による耐性付与に相応しい、実にこじんまりとした守り方だ。


 よって、してやられた側のアキラの評としてはカードの強さというよりもロコルの使い方が上手かった。《ショック!》と合わせて二度の防衛を成し遂げた彼女のプレイングの妙が光った結果であるとするのが妥当なところだった。


「《爛漫のアミュレット》は場に出せば『一ターンに一度自身を含めない自軍オブジェクトの数だけ相手ユニットを破壊できる』効果を持っていたっす。コストは5。ちょうど《万端の鬼酒》のドロー効果が発動することもあってできれば設置しておきたいオブジェクトだったっすけど──」


 そして、毎ターン複数破壊を見込めるオブジェクトなど放置してはおけぬとアキラが除去にかかってのち、この墓地発動の耐性付与を使いたかったところだが──それこそが最もロコルにとって旨味のある流れには間違いなかったが。けれど致し方なしと彼女はゆるやかに首を振って語る。


「最高率ばかりを目指すと次善にすら届かなくなるのがドミネファイト。むべなるかな、拘りはドミネイターの武器にもなれば足枷にもなるのが理……自分たちはそれを常に忘れてはいけないっすよね」


「あえて《爛漫のアミュレット》をプレイせず手札に残し、俺のターンで《ショック!》の発動コストにしてフィールドを介さず墓地へ直置き(・・・)。そして俺の返し札に対する返し札として即座に耐性付与を行なう……綺麗な一手、いや二手だな。読みにも実行にも無駄がない。これぞお前らしいって感じのやり方だ」


「あは。またまたお褒めに預かれて恐悦至極っすね」


 屈託なく笑う少女へ、少年も微笑みを返す。


 ……どこまで読み切っていたのか、などとロコルが行なったであろう思考に追従する意味はない。彼女の読みとてアキラに同じ、論理性よりも自身の勘の冴えに頼った『天啓』に近しいものであることは疑いようもない。無論、どちらかと言えば感覚派のアキラとは異なりロコルは生粋の九蓮華であるからして、生粋の思考派である。勘と一口に言ってもそこにまったく論理や理論といったものが介在していないわけではなく──付け加えておくとその点はアキラとて一緒だ、嗅覚頼りにまったくの無思考で戦っているわけではない──比率としては小さくない分量の推論がそこには内包されているだろうが、されどメタ読み。「相手がアキラだから可能」となる理屈よりも情報を、もっと言えば「自分の知る彼」の像を多分に頼っているのはロコルも同じで、その偏り・・をアキラの鼻は嗅ぎ取っている。


 だから読みを追いかけたところで、自身のどこにミスがあって攻め手を予想されたかなどと考えたところで、意味などない。それは思考の袋小路にハマるだけの悪手でしかない──そんなことをしてせっかく『一番気持ちよく戦える』バランスになっているのを崩してしまっては元の木阿弥だ。今がいい、最高潮だと、そう思えるならば。そう信じ込めているのならば最後まで信じ抜くが吉。


 アキラは言う。


「さすがに甘くないな。覚まし人が来てくれて、山踏み復活の目途が立ったことで《太極清廉図》の除去はまず通るだろうと……仮に下支えが防がれても問題はないと考えた俺の甘さに対して、お前はどこまでも甘くない。──知ってたさ。それが九蓮華ロコルだって、お前に鍛えてもらった俺だから知っていた」


「知っていた、っすか。ならひょっとして第三の矢まで用意が?」


 ロコルの盾は打ち止めだ。《太極清廉図》を守るためのカードは《ショック!》と《爛漫のアミュレット》のみで、仮にこれ以上の追撃が来るようならお手上げである。もう彼女に対抗の術はない。その時は、どうしても守り通したかった──カウントゼロでお披露目となる効果を通したかった清廉図を、きっぱりと諦める他ないだろう。ここまで見事にアキラの攻め手を凌いだ彼女だが、その妙手が無為に終わる覚悟だってある。それに引きずられることなく『次』を目指す心意気がある。が、今回潔いまでの諦めによって切り替えたのは彼女ではなくアキラの方だった。


「いや、第三の矢はない。言ったように山踏みを止められるとは想定していなかったし、どうせそれが想定できたとしても三連続でオブジェクトへ攻めるのはちっとばかし難儀だ。いくら対オブジェクト用のカードをデッキに仕込んできたとはいっても、そこまで振り切ろうとすると多少の偏りじゃ済まなくなる。構築の面でもドローの面でもな」


「なるほどっす。確かに自分はミライちゃんとの試合からの三戦でトークンを活用した戦い方も見せつけてきたっすからね。オブジェクトだけに対策を絞ったらトークン殺法にも、そしてブレイザーズみたいな一撃必殺のギミック持ちユニットにも手立てが欠ける……そんなアンバランスは許容できない。当然のことっすね」


 実際のところ決勝戦におけるロコルのデッキはミライとのファイトで見せたようなトークンを活用した戦術は丸ごとオミットされており、比重はよりオブジェクトに傾けられているわけだが──しかして「そうなる」と断言できるほど個人メタとは万能ではない。むしろ当たれば大きいが同じだけのリスクも抱えるギャンブル性こそが人を読むことの特徴であるからして、アキラはロコルがユニットを完全には捨て切らないことに懸けて『ユニットもオブジェクトも同程度に見られる』構築へと踏み切った。


 メタ対策として『ビースト』を筆頭にこれまで使ってきたカードを採用しない代わりに『アーミー』と『森王』を選んだのは偏に、このふたつのカテゴリが対ユニット・対オブジェクトの両立という条件を満たしているからである。無論両者の相性や手に馴染むかどうかといった、無数にあるその他の要点。それらも兼ね備えているからこその決定であることは言うまでもないが、なかんずく重要だったのがオブジェクト偏重の印象に引っ張られ過ぎずにちゃんと「それ以外の対策」も組み込むことにあったのは事実。そこで丸い選択を採ったからこそアキラはこの局面に至るまでオブジェクトの排除に困らなかったし、けれどここに来て排除の手が足りずに停止せざるを得なくなっている。


(だからってもっと尖らせれば良かったなんてことはない。そっちを選んでいればもっと早い段階で困っていたに違いない。そうだ、俺もデッキも今のバランスがベスト。この状態が最高なんだ──たとえファイト前の予想と多少食い違う展開になったとしたって、それがどうした。ドミネファイトなんだからそれが当たり前。後は戦いの最中にどこまで昇れる・・・か。たったひとつ、それが全て……!)


 無陣営単色かつオブジェクトを多用する構築。そこのコンセプトが崩されることはないと、それだけは核心を以て確信できていた。なのにある意味での「安牌」を取ったことを、そのせいで一手の後れを喫したことを、しかしアキラは失敗と捉えていない。


 何故なら今、彼はこんなにも──。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ