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417.新たなる戦術のカウントダウン!

 彼女の返事は肯定であった。


「その通り、まさしくカウントダウンっすよ。自分の墓地にカードが新たに置かれるたびにこの数字は減っていって、ゼロになれば《太極清廉図》は……どうなるか、そこは後のお楽しみに取っておくことにするっすけどね」


「はは。さすがロコル、気が利いてるな。教え上手なお前らしい焦らし方だ」


 受け応えつつ、アキラはその裏で思考を巡らせる。ロコルはわざとらしくもはぐらかしたが「どうなるか」はおおよそ見当がつく。わざわざ時限式・・・で発動するような大掛かりな効果となれば、十中八九ふたつにひとつ。《収斂門》のような大規模除去か、あるいは強力なユニットを呼び出すための準備。このどちらかが正解と見て間違いないだろう。


(……発動条件や除去できる範囲が違ったとしても《収斂門》と同じことをここでもう一度やってくるかっていうと、かなり微妙だ。あの時とは違って俺の戦線はてんで埋まっちゃいないんだしな)


 もちろん、時限式であるからにはその利点を生かしたタイムラグ……つまりは現在の盤面ではなく数ターン後の未来を見据えての、アキラの大量展開を抑制させる狙いがあっての設置とも考えられはするが。しかしその場合はカウントゼロで何が起こるかぼかしたりせずハッキリとリセット効果だと明言した方が効果的だろうし、何より展開を抑えるためにはファイブカウントは早すぎる。それを遅らせようとすればロコルは墓地にカードを置かないプレイングに終始する必要があり、それではアキラ以上に彼女自身の手が狭まってしまい本末転倒もいいところ。とすれば《太極清廉図》とは──。


(本命は『ユニットを呼ぶ』こと! そう思っておいていいはずだ!)


 あくまで十中八九。一、二割程度は大規模除去でもユニットの呼び出しでもない可能性もあるが、より注意しておくべきは強力なユニットの召喚。あるいはロコルのデッキの場合それが『強力なオブジェクト』であることも充分に考えられるが、それを見越して対オブジェクトの手段を厚く積んだ構築にしてあるアキラにとってはどちらでも大差はない。


 来るなら来い。結論としては非常にシンプルかつ非常に好戦的にそうまとめたアキラの内心を、ロコルも察して。


「ゾクゾクするっすね。怖さもあるっすけど、それ以上に。そんな顔したセンパイをぶっ倒すことに! 震えるほどに興奮しちゃってるいけない後輩っす──咎めてくださいな、センパイ!」


「……!」


 ギアが上がった・・・・・・・。まだ上があった、そこに関しては大して意外にも思わないアキラがだったが、しかしその「跳ね上がり方」には──数段飛ばしのオーラの圧の増し方には彼もゾクリと背筋を震わさざるを得なかった。それはロコルと同じく強敵と対峙する上での興奮か、それとも。


「まずは《万端の鬼酒》の効果を発動! 5コスト以上のオブジェクトカードである《太極清廉図》を設置したことでデッキからカードを一枚引けるっす!」


 ドロー! と景気よく新たな一枚を手にした彼女は、確認したそれを手札に収めてから別の一枚を抜き出し掲げた。


「残った2コストをレストさせ! 無陣営スペル《残忍な英断》を詠唱っす!」


「《残忍な英断》……!?」


「このスペルは発動のためにコスト以外にも自軍のユニットを生贄に捧げなきゃならないっす。自分の場にユニットはブレイザーズのみ。よってこの子を墓地へ送るっす!」


 墓地送りの言葉通りに破壊を介することなく、まるで自らの意思でそうしているかのようにブレイザーズは足元に生じた底の見えない穴へと消えていった。ユニットを犠牲にして唱えられるスペル。その効果の仔細までは咄嗟に掴めずとも、少なくともエースユニットを代償としてでもプレイする価値はあるらしい……それだけでアキラには《残忍な英断》の厄介さがひしひしと伝わってきていた。彼の感覚が訴えるそれはやはり正確で。


「効果処理っす! 犠牲を払ったことで《残忍な英断》は相手ユニット一体も墓地送りにでき、更に犠牲ユニットが7コスト以上であれば更に追加でもう一枚、相手の場のカードを墓地へ送ることが可能っす! この追加の方にカード種の制限はないっすよ──つまり! エリアカードだろうと対象に取って除去できるってことっす!」


「……!」


 アキラの場にはちょうどユニットとエリアが一枚ずつ存在している。そのどちらもブレイザーズを力の糧とした《残忍な英断》なら処理できるというわけだ。アキラは先のロコルの発言の正しさを認める。確かにこれは上手いやり方だろう。になったブレイザーズをコストとして相手の盤面の処理に動くとは──アキラとしてもロコルが生き残ったエースを自身の手で墓地に置くか手札に戻しての「再利用」に踏み切る可能性は視野に入れていたものの、そのやり口がこうも的確なものになるとまでは予想できていなかった。《残忍な英断》を確実に通すために不用意なダイレクトアタックを控えたのであろう慎重さも含め、実に彼女らしい丁寧なプレイングだと言えた。


(相手のライフなんて減らせる時に少しでも減らしておきたいのがドミネイターの本音っす。そりゃあ自分だって、本当なら犠牲にする前にブレイザーズでアタックしておきたくはあったっすけどね……でもこっちにも予感・・ってもんはビンビンにするんすからそういうわけにもいかないっす)


 アキラの鋭敏さは絶好調の表れである。こちらの運命力を抑えつけてくるオーラの力強さからしてもそれは明らかで、そんな今の彼ならば。クイックチェックで間違いなく引く。ロコルの策を打ち崩すなんらかのカードを発動させることは、それこそ予感ではなく目に見えた事実としてロコルは「知っている」。だから彼女は割り切り、ライフコアのひとつを欲張ることなくブレイザーズをスペル詠唱のための弾として大事に守ったのだ。


「対象宣言! 自分が指定するのはもちろん、《森王の山踏み》と《森羅の聖域》の二枚っす! さあ、今度こそ綺麗さっぱりな空っぽのフィールドになってもらうっすよ!」


 その特性上《収斂門》は互いのエリアカードにだけは不干渉であった。リセットとは言っても、大量のユニットこそいなくなったものの《森羅の聖域》はアキラの場に残り、引き続き彼の戦略の基礎を担っている。もしもアキラのデッキがエリアカードを重用するタイプのものでなければあのリセットはきっと更に彼を苦しめていただろうに、そのことをロコルはとても惜しく思う。それと同時に、ここでエリアを戦術の核に据えたアキラの運とも勘とも判別の付かない何かをさすがだと称えつつ、とまれ此度はその核すらも除去できる。真の意味でのアキラの盤面の空白化リセットが叶うのだから彼としては焦りを抱いて当然の場面だ……なのに。


(っ、その笑い方は……! そんな余裕を見せるってことはつまり、そういうことっすか!)


 ブレイザーズを墓地へ送ったのと同じ──送るユニットのサイズ差からその大きさだけはまるで異なっているが──真っ黒な穴が山踏みの真下に生じ、エリアを形成している聖域共々に葬り去らんとしている最中で。窮地に陥っているはずのアキラはけれど綽綽たる、赫赫たる剥き出しの闘志を顔に浮かべたままだった。その理由とはずばり。


「この瞬間! 俺は墓地に眠るユニット《森王の下支え》の効果を発動させる!」


「ッ!」


 案の定、ではあるものの。できることならこのタイミングでは耳にしたくなかったアキラの宣言に、攻めている側であるはずのロコルこそが険しい表情となった。



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