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411.結晶石の秘密

 ガネーシャの二枚抜きの効果で、どれとどれを除去するか。アキラはそこでも迷いを見せなかった。


「《月光剣ムーンライト》と《楽土の結晶石》! この二枚を墓地へ送れ、ガネーシャ!」


「!」


 四歩腕の一本が握る、こちらは銀で作られている手斧を神象が横薙ぎに振るう。ヒュン、と空を裂いた刃はその軌跡上にあったふたつのオブジェクト──ブレイザーズが持つ月光の大剣と結晶石の柱をも同時に両断してみせた。コストコアの犠牲によって成り立つ処理能力を遺憾なく発揮させたガネーシャ。その効果の余波でフィールドに吹き荒れる風──ファイトの演出で起こる風である──に前髪を揺らされながらロコルは顔をしかめる。自分の戦法に対するのガネーシャに、というよりも、それの操り手であるアキラの決断に対してだ。


(ブレイザーズの方を狙ってこなかった……!)


 アキラはブレイザーズの脅威を知っている。ムーンライトを装備している彼は、更にもうひとつ装備オブジェクトを持てば自身の効果によって『一ターンに二度の攻撃権』を発生させる。条件適用によって備わる連撃、しかもそれがクイックチェック封じのアタックであるとなれば震え上がらないドミネイターはいない。


 なので、そんな完全体ブレイザーズが爆誕するのことないように普通なら立ち回る──今の場面で言えば処理する二枚はムーンライトとブレイザーズ。厄介なユニットを完成させるこれらこピースを共に除去しておこうと動くこと。それを最善と「思い込んでしまう」のが人の性……否、常人・・の性だと言っていい。


 だがアキラが見ているのは目先だけでなく、それよりも深い。彼はブレイザーズが召喚された時に発動する『デッキから任意のオブジェクトをサーチし、それが無陣営であれば無コストで設置できる』効果も連撃効果と同程度に警戒しているのだ。だから安易にブレイザーズを場から退かさなかった。登場時効果の使い回し。ロコルがミライとのファイトでも披露したその戦術を封じる最もの策はそのユニットを「場に固定しておく」こと。下手に墓地へ置かせて蘇生等で再び呼び出すというプレイをさせないことにある。


 裸のブレイザーズは脅威足り得ない。しかし墓地から蘇って状況に即した装備オブジェクトを手にすることができるとなれば話は別だ。故に、ここでの最適解は既に装備されているムーンライトだけを剥がして素のブレイザーズは残す。更に処理できるもうひとつはまだ効果を見せていない《楽土の結晶石》にするというものだった──ドロー効果によってリソースを生み出す《万端の鬼酒》もアキラからすれば優先的に排除したいオブジェクトであるのは確かで、ここの判断は人によって正答も別れるだろうが。されどアキラには予感があった。確実に面倒・・なのは無限に美酒リソースを湧かせる瓢箪よりも、謎の結晶の方であると。


 己が直感がそう教えてくれるからには間違いなく彼にとっての答えはこの選択であった。


「その三枚の手札の中にさっきのターンでは使えなかった高コストの装備オブジェクトがないとは言い切れない。それを使われたら鬼酒のドローも発動するしブレイザーズがどんな強化を受けるかもわかったものじゃあない……っていうリスクがあったとしても、ブレイザーズを蘇生されて好きなオブジェクトを持ってこられた方がずっと厄介だ。ロコルのことだから《クリアワールド》以外にも墓地のオブジェクトを再利用する手段くらいデッキに仕込んであるだろうし、少しでもお前の『切り札』を殺す──いや。生かさず殺さずに抑え込むことに注力すべきだと判断したぜ」


 エリアカードの併用は不可能である。なので今ファイトにおける戦術の要のひとつとしてロコルが《万象万物場》を採用している以上、それを打ち消さねば──新たなエリアカードを展開するとそのプレイヤーが元々展開していたエリアカードはルールによって墓地へ行き、またこれは効果処理の起こらない扱いとなる──《クリアワールド》はプレイできない。これはエリアカードを扱う上での基礎中の基礎のルールであり、故に通常、エリアをデッキに入れる際には一種類に絞るのが原則となる。


 テクニカルなドミネイターの場合は原則もなんのとエリアを二種類以上採用することで戦術に幅を持たせたりもするが、もちろん難度の高さは構築面においても実践においても相応に高くなることは付け加えるまでもないなだろう……が、その「難度の高いこと」を嬉々として、余裕綽々に行ってもおかしくない人物であると。そう思えるのがロコルという少女であるために、アキラはまだ彼女が《クリアワールド》を──九蓮華エミルもかつて愛用し、アキラ自身も大いに苦しめられたそのエリアカードを使ってくる可能性をまだ完全には捨て切っていなかったし、仮にそれがなくとも墓地のオブジェクトを再利用する方法を他にも持ち合わせているのは確実だろうと予想してもいる。だから。


(ムーンライトの復活は低くない確率で起こり得ること。だからこそブレイザーズ共々墓地に送る意義は薄いと考えたわけっすね。呼び戻すための手間を押し付けるにしても処理するのはムーンライトだけに留め、何も装備していなければ単なる無能力バニラユニットであるブレイザーズは残しておいた方が総合的・・・には最も自身のアドバンテージに繋がるという判断……すごくシビアでクレバーっす。この答えを一瞬で出せるドミネイターはそうはいない──でも!)


 アキラなら出せる、という信頼と期待。胸に巣食う大きなそれが突き動かすこのファイトであるが故に、ロコルは「正解」に対するカウンターを用意することができた。それもまた対戦相手をよく知るからこそ、愛するからこそ可能となる対策メタのひとつ。


「《楽土の結晶石》が持つ効果はふたつ! 条件適用によってどちらかが発動するっす!」


「!?」


 オブジェクトを切り裂いたガネーシャの斬撃の反響が消えることなく、むしろ激しさを増してロコルの墓地ゾーンで渦を巻く。そこに眠ったはずのカードが、《楽土の結晶石》がその力を高めていることに気付き目を剥くアキラに、ロコルは自身の策が成ったことへの確信を手の内に握りながら続けた。


「ひとつは《楽土の結晶石》か他の自軍オブジェクトがプレイヤー自身の操るカードの効果によって場から墓地へ行った場合の効果。その際に墓地へ行ったオブジェクトと同じ数だけ相手の場のユニットまたはオブジェクトを道連れにするというものっす……コストなりなんなりで失ったボードアドと同じだけ相手にも損失を強いるコンボ向きの面白い効果っすけど、今発動するのはふたつ目! 相手のカード効果によって自身が場から墓地へ行った際の効果っす!」


「除去する・されることが前提の受動的な効果だって……根っからのコンボ用オブジェクトだったのか!」


 つまりここでアキラがガネーシャの除去対象に選ばなければ《楽土の結晶石》のカウンター効果は発動せず、沈黙を続けていたということ。未知のカードが持つ厄介さを看破した直感、その鋭敏さがかえって仇となった。より彼の嗅覚を信じこうなるように仕向けたロコルの狡猾さが、ここに火を噴いた。


「《楽土の結晶石》、始動アクション! このカードは自身の能力により『ユニットとして』墓地からフィールドへと舞い戻るっす!」


 再びロコルの場へ現れた結晶の柱。それが独りでに割れて砕け散り、内部に秘められていたが衆目に正体を晒した。



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