409.対ロコル用ユニット、ガネーシャの威光!
単体でやれることなど限られている。例外と言うなら『ビースト』の中でもドミネユニットであるアルセリアくらいのもので、どこまで行っても一枚のカードだけでは限界がある──故にこそアキラは大切にするのだ。カード同士の結束を、そして自分自身とカードとの繋がりを一番にする。
その結論に達せられる限り、彼のプレイにブレは生じない。
(能力が未知の《楽土の結晶石》がネックではあるが、それはどのみちのこと。俺は俺の思う最善を信じる!)
決断を実行に移すべく、四枚の手札の中から一枚を抜き出したアキラは即座にそれをプレイした。
「溜まった六つのコストコアを全てレストし、召喚! 来い《ミロク・ガネーシャ》!」
《ミロク・ガネーシャ》
コスト6 パワー5000+ 【加護】 【呪殺】
どぅん! とただ体重が重いだけでは起きない地の底から響くような音色を立ててアキラのフィールドへ降り立ったのは、四本腕にそれぞれ武器を持ち二本足で立つ一頭の象だった。金と銀に彩られた装飾に身を包む彼は差し込む後光と相まって非常に神々しい。象の姿を象った神。一目でそうと理解できるほどの威厳と神聖さを放つその獣は、登場と同時に腕の一本。刃渡りが短く幅の広い金の剣を高々と頭上へ掲げた。
「《ミロク・ガネーシャ》の登場時効果を発動! 相手の場のユニットの数だけ自身の元々のパワーを500アップさせる!」
「ユニットの数を参照するパワーアップ効果──それも一時的な強化ではなく上昇したパワーを素の数値として固定させるタイプっすか!」
《ミロク・ガネーシャ》
パワー5000→6500
ガネーシャが持つ神々しさが増す。明らかに神格が増した様子の彼を見て、アキラはその上昇幅が自分の予想を超えていることに気が付いた。
「おお? 1500も上がったってことは、ユニジェクトもユニットとして参照できたってことか。通常のユニットとはバトルも発生しないし火力スペルの標的にもならないからにはこういう参照能力の対象からも外れるものかと思ったが……どうやら除去にかかわる判定以外は割と緩いみたいだな」
「ユニット化しているのにユニットとしては数えない、なんて珍妙な裁定にはなっていないっすよ。あくまでオブジェクトとしての性質も残しているユニットって扱いなんすから、ガネーシャが三体分のパワーアップを果たすのは当然のことっす」
現在のロコルの場の数え方としては、ユニットが一体、オブジェクトが一個(装備状態)、ユニジェクトが二体。エリアカードを除けばこれが概容となる。ガネーシャはこの中のユニット扱いを受ける三体をきちんと認識し、その数だけ自己強化を果たしたということだ。概ねメリットばかりの《万象万物場》によるオブジェクトのユニット化であるが、このようにユニットの数を参照して効果を発揮する類いのカードを使われた場合にはそれが裏目に出ることもある。数少ないデメリットを味わう機会となってしまったわけだが、しかしロコルの様子に焦りは見受けられなかった。
「500ずつのパワーアップは一見して上昇値としては低いようにも思えるっすけど、たった1でも上回っていたらバトルで一方的に破壊できるのがユニット同士のルールっすもんね。強化が発動しなくても5000のパワーがある時点でガネーシャの自己強化は保険程度のもの、でありながら、場合によっては大型相当になれる見込みもある。とても有用っすね」
しかつめらしい表情でそう述べたロコルは、それから己がエースであるブレイザーズを示して続けた。
「で、どうするつもりっすか。ユニジェクトを並べ直したせいでムーンライトによって強化されたブレイザーズのパワーを越えられてしまったわけっすけど──そのガネーシャで殺すっすか」
ブレイザーズのパワーは6000、ガネーシャは6500。1000刻みが基本のユニットのパワーという数字の上では小さな差のようでいて、されどロコル自身が語った通りにその差はたった1でも絶対のものとなる。戦闘になればブレイザーズはガネーシャに敵う道理がない。緑陣営お得意の【好戦】などで今にも襲い掛かってくるのではないか。たまたまブレイザーズのパワーを上回れたような口振りながらにまさしくそれを期待してガネーシャを呼んだのだろうと予想したロコルは、故にそこで確実にバトルを仕掛けられるだろうとも先を見据えていたのだが。しかしアキラは彼女の言葉にふっと小さく笑って。
「そう焦るなよロコル」
「!」
「ガネーシャは手の早い奴が多い『アニマルズ』の中じゃ一風変わってどっしりと落ち着いたユニットでな。【疾駆】や【好戦】みたいなガンガン攻め込むタイプのキーワード効果は持っちゃいない……あるのは【加護】に【呪殺】と、どちらかと言えば受け身の効果だ。だけどその代わり! こいつは戦闘とは別の手段で俺の障害を排除してくれるのさ!」
「別の手段……!?」
場の状況に左右されるとはいえ登場時のパワーアップ、そして相手のカード効果の対象に取られない【加護】に、効果で墓地へ行った際に相手を道連れにする【呪殺】。この三つだけでも6コストの大型未満のユニットとしては充分なカードパワーになっているだろうに──特に踏み倒しに長けた緑陣営の種族『アニマルズ』であるのだからなおのこと十二分な性能だろうに、それでいて他にも何か効果が。それも敵の場を荒らすような何かがあるというのか。
驚きと警戒を見せるロコルの見つめる先で、アキラのコアゾーンに変化が起こった。
「コストコアをひとつ墓地へ送ることでガネーシャの起動型効果を発動! 相手フィールドのユニットかオブジェクトを二体まで選んで墓地へ送ることができる!」
「ッ……! 対ユニットに限定されない除去効果! そのガネーシャもまたオブジェクト対策に採用したカードっすか!」
「当然だろ、お前が決勝前にデッキの中身を見せたからには! いつも以上にオブジェクトを処理する手は増やすに決まってる!」
コストコアを犠牲にする制約は重いが、支払う価値はあるだろう。召喚するだけで除去が行え、その対象に制限が一切ない(ガネーシャが処理できないエリアカードも対象に取れる)《暴食ベヒモス》とは同コスト同種族ということもあってライバル関係となるが、しかし除去の場面を選ばない強味を持つあちらはそこに力が入ってる分、自身のステータスはパワー2000かつキーワード効果なしと貧弱である。対するガネーシャは除去効果を切らずとも(あるいは切れずとも)低くないパワーに場持ちしやすい効果が組み合わさって盤上の戦力としての活躍が見込めるのだから、そういう意味では彼も場面を選ばないユニットと称することができる──そして何より。
「二面処理が偉すぎる。ベヒモスは便利だが6コスト使ってひとつ退かすだけじゃお前の『展開力』──オブジェクトの物量には絶対に追いつかないからな」
「身を削る代償があったとしてもガネーシャを優先させる理由はたっぷりだった、と。なるほどっす。センパイにこのデッキでの戦い方を事前に知られてしまうリスクは承知していたとはいえ……それを受け入れた上で早めに解禁したとはいえ、やっぱメタを張られるってのはキツいもんすね」
そう神妙に語ったロコルは、その口をにっと緩やかに曲げて。
「そんじゃセンパイ。選べるふたつの除去効果。どの組み合わせで自分の場を片付けるっすか?」
「……そうだな。俺が選ぶのは──」




