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408.攻か守か

 ドローしたカードをちらりと確かめ、それを一旦手札に収めてからアキラは「なあ」と口を開いた。


「質問いいか?」


「ん、なんすかセンパイ」


「ブレイザーズの装備している《月光剣ムーンライト》について、ちょっと聞きたいことがあるんだ」


 聞きたいこと。それはずばり『現在のムーンライト』がどう扱われるかについてであった。


「お前のエリアカード《万象万物場》が展開されている今、場に出たオブジェクトは全てユニットとしても扱われる。正確にはユニット相当の行動権・・・を得ると言った方が正しいのかな? まあとにかく、オブジェクトでありながらアタックとガードが可能で、そしてバトルはユニット化したオブジェクト同士──『ユニジェクト』同士でしか発生し得ない、だったよな」


「その通りっす。特に訂正したい箇所はないっすよ」


「そこで確かめたいのがムーンライトにもユニットらしい行動が可能か否かだ。つまり、ユニットに装備されている状態のオブジェクトであっても他のオブジェクト同様にアタックやガードが行えるのかって意味だが」


「あはは──それはセンパイからすると当然の疑問っすね。そして目敏い観点でもあるっす。ともすれば混乱しがちな《万象万物場》の能力にもセンパイほどの人ならそうそう惑わされたりしないってところっすか」


 オブジェクトがユニットと化す。それでいて通常のユニットとはいくつも異なる点が出てくるというのだから《万象万物場》の処理はおおよそ直感的なものとは程遠く、オブジェクトに詳しくない者はもちろんのことそこそこに知識がある人間であっても、その知識がかえって邪魔をしてすんなりと頭に入っていかない部分がある。


 そういったちょっとした理解の難しさ、そして何よりオブジェクト偏重の一味変わったデッキを組むに当たって「うってつけ」もいいところの効果に目を付けてロコルはこのエリアカードを主要戦術のひとつとしているわけだが……そして言うまでもなく彼女自身は現デッキを完成させるにあたってオブジェクトを扱う際の心得をよくよく学んでもいる。得られた知識は程度ではなく、直感的でない処理であろうとも使用者本人としてそれに惑わされることはない。


 とはいえその点は非使用者であるアキラも同じで、ロコルの側の有利とは数えられないようだが……彼が訊ねた問いはそれがありありと窺える内容であり、故に少女はからからと楽しげに笑って答える。


「簡潔に言えば『否』っすね。あらゆるオブジェクトをユニット化させる《万象万物場》っすけど、効果適用の範囲に例外がないわけじゃないっす──センパイが引っ掛かりを覚えた通り、何を隠そうそれが装備オブジェクトっすよ」


「やっぱりそうか。ユニットが装備して初めて意味を為すっていうだけでもかなり特殊なカード群だもんな。そりゃあユニジェクトの例外にもなるか……俺の感覚的には非装備状態で場に置かれている装備オブジェクトならユニジェクトになれるが、ユニットに装備されているとただのオブジェクト扱いになる。っていう感じなんだけど、どうかな?」


「またまたその通りっす。処理としてはまさしくセンパイの言ったまんまで、一旦ユニットに装備されたオブジェクトはそのユニットと一心同体。《万象万物場》はそれを自身の効果でユニット化させる必要なしと判断するっす。なんで、ブレイク数の増えているブレイザーズにムーンライトのアタック権まで上乗せされて実質のトリプルブレイクが可能……なんてことにはならないんでそこは安心してほしいっす。つまるところセンパイが本当に確認したいのはその点っすよね?」


「お見通しか」


「そりゃそうっすよ」


 何を危惧しているのか見破られていることに苦笑しつつ、アキラは若干の安堵と共にユニット化のルールに頷く。ロコルの場のオブジェクトの中で《月光剣ムーンライト》だけはユニット扱いされないのではないかという推測は間違っておらず、それはアキラの推察の正しさ──つまりはドミネイターとしての「見る目」の確かさを裏付けるだけでなく、戦況にかかわる点においても大いに彼の助けになる裁定であった。


(俺のライフコアは残り三つ。下手をすればムーンライトでブレイク数を増やしたブレイザーズと、そのムーンライト自身で三つともまとめて持っていかれる可能性もあった……その懸念が消えたのは良しとして、だ。でもそれくらいじゃ光明と言うほどじゃないよなぁ)


 これが敵フィールドに存在するのが月光剣を持つブレイザーズ一体のみであれば「首の皮一枚繋がった」と汗を拭うこともできるものの、ロコルの場には他にもふたつオブジェクトが設置されている。リソース確保の能力を持つ《万端の鬼酒》と、ただ置かれただけでまだなんの効果も見せていない《楽土の結晶石》。装備オブジェクトとして行動権が得られていない《月光剣ムーンライト》とは違いしっかりとユニット化を果たしているこの二個(二体)によってライフアウトまでのブレイク数は足りている、どころか追い越してすらいる。だからアキラの安堵も若干程度に収まっているのだ。


 無論、ユニジェクトであるこの二体よりも実質の【重撃】ユニットであり、しかも砕いたライフコアを完全に沈黙させる能力まで得ているブレイザーズの方が脅威としては断然に上であるが、そんな大将・・の供回りを務めるには充分だろう。純粋なユニットとユニジェクトでは対処法も異なってくるために、そこの手間も合わさってアキラからすると面倒な盤面となっている。


 召喚酔いの制約によってロコルが攻勢を仕掛けることはなかったが、それもこのターンまでの猶予。次の彼女のターンをアキラが生き残るためには少なくともブレイザーズかユニジェクト二体のどちらかは片付けておく必要がある。理想を言えばもちろん全除去が望ましいのは言わずもがなのことであるが──。


(いや……本当の理想を言うならここで勝ち切ること。ロコルにもうターンを渡さないのが最善だよな。そうすれば除去に気を揉む必要もなく全てを攻撃に割り振れるんだから)


 しかしそれはまさしく単なる理想論だろう。ロコルは戦線を築いているがそこに【守護】持ちはおらず、一見して守りへの意識が薄いように思える。ならば攻め入るに好機、とやにわに前のめりになるのは浅はかだとアキラは判じる。


 まず彼の手札は四枚。それが全リソースだ。フィールドに出ているのはエリアカード《森羅の聖域》のみで、墓地は空っぽ。《収斂門》の自爆めいたリセット効果によってそれまでの仕込みを何もかも吹っ飛ばされているからにはロコルの四つのライフコア。それを一ターンでゼロにまで削り切れるかは非常に怪しい、というより不可能と言っていい。


 この状況では仮に以前のデッキであったとしても──要するに『ビースト』を厚く採用し、その分攻撃性能に優れた構築のままだったとしても、ここからライフアウトまで持ち込むのは至難の業である。アキラのファイトにおける決着の代名詞たる『ビースト』と言えどそれが叶っていたのは他ユニットやスペル等の様々な後押しあってのもの。それらが見込めない初期化を果たしている現状では、たとえどの『ビースト』ユニットを呼び出せたとしても勝利までは呼べないに違いない。と、他ならぬカテゴリの愛好者であるからこそアキラは冷静にそう考える。


(なら俺がここでやるべきことは)


 強気に勝ちを狙うか、堅実に負けを避けるか。

 以前きょねんまでの彼ならいざ知らず、今の彼はこの二択を前にまったく迷いを見せなかった。



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