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405.二発の弾丸、一筋の光

 ピースが不足している。ミライのライフを一瞬にして削り切って勝利をもたらしたあの時のブレイザーズと今のブレイザーズには違いがある──それがもうひとつの装備オブジェクト《ジェットパック》の存在、その有無であった。


 装備したユニットへ【疾駆】を与える。という単純明快を極めたような能力を持った無陣営オブジェクトカード。それを手にし、枠へハメてこそ勝利というパズルの画が完成する。ムーンライトで武装したブレイザーズが速攻能力まで手に入れればまさに無敵、装備オブジェクトを二個身に着けることで発動する彼自身の隠された連撃能力と相まってその攻撃性能は凄まじいことになる。まさしく勝負を終わらせるに相応しい脅威のユニットとなるのだ──故にこそ、絶対的エースユニットにその絶対性を披露させるためにもロコルはそれを心から望む。


(残念なことに《収斂門》のリセット効果で引いた三枚の手札の中に《ジェットパック》はないっす……ピースが足りない、その前提があったからこそ《万端の鬼酒》が引けて、そこからブレイザーズに繋げることもできたからにはそれを憂いてばかりもいられないっすけど)


 何はともあれ、だ。欲するものが手元にないのであれば、持ってくるより他にない。


「《万端の鬼酒》の条件適用効果! 自分の場に4コスト以上のオブジェクトカードが設置されたときデッキから一枚カードを引くことができるっす! 《月光剣ムーンライト》が場に出たことでドローさせてもらうっすよ!」


「! 手札増強の効果……そっちが鬼酒の本命か!」


 先ほど見せた登場時効果はあくまで無色コアだけでプレイされた場合のおまけのようなもので、本来の用途としてはこの確実なドロー効果を繰り返し使用して手札を切らさないことにあるのだろう。オブジェクト偏重の構成のために高コストオブジェクトも通常の構築では考えられない比率で採用されているロコルのデッキに《万端の鬼酒》はピッタリと噛み合っていると言えた。


「ちなみにこの効果は一ターンに二度まで発動することができるっす。と言っても自分のコストコアの残りは三つ、さすがにこのターン中に二度目の発動は敵いそうにないっすけどね。だけどここで、例えば3コスト以内のカード。それもブレイザーズを更に強化するようなオブジェクトでも引けたなら最高っすよね?」


「……!」


 アキラにもわかっている。ロコルが何を引かんとしているのかとっくに承知している……それを許してしまえばまさに『詰み』であると、ライフアウトまで一気に持っていかれることも理解している。なればこそ彼の返答は、対応はひとつである。


「させないぜロコル。今度こそ止めてみせる。《ジェットパック》は絶対に引かせない……!」


「こっちこそ! そっくりそのままセリフをお返しするっす──そうはさせない! 三連続で引きたいカードを引いてみせるっす!」


 鬼酒からのブレイザーズ、そして《ジェットパック》。「二度あることは三度ある」とはよく聞く文言であるが、しかし「三度目の正直」という言葉もある。勝敗に直結するとなれば今度こそアキラは何がなんでもの精神で、全てを振り絞ってでもロコルのドローに奇跡を起こさせないようにするだろう。彼を相手にしているのだからここまでの戦果だけでも既に上々、なのに貪欲に三連続を望む自分がどれだけの無謀を乗り越えんとしているかロコルはよくわかっている。その上でそれに挑むのだ。


 ブレイザーズのドローだってギリギリだった。思考派の彼女があれだけ感情の乗った一撃を放てたという点で、運を掴むための渦中において幸運を拾えたという自覚がある──全てが全て自分だけの力ではなく、思い通りの結果ではなく。むしろ結果は注いだ以上のものが、実力以上のものが返ってきている。舞台の外からエミルがそう見做した通りロコル自身も気付いているのだ。今この身体から溢れ出している力、その膨大な高鳴りが何に起因するのか。


(相手がセンパイだから! 今の自分でもここまでできる……いつも以上を当たり前に引き出せる!)


 自分をこんなにも引き上げてくれる彼だから。彼とのファイトでしか成し得ない、現在の力量よりも明らかに上の段階の力を以てしての戦い方なのだから、余すことなくぶつけきりたい。まだ辿り着けなかったはずの領域へ手を引いてくれたアキラへ出し得る全力で応えたい……そして勝ちたい。彼との思い出、これまでの全てへ感謝を込めて敗北を贈りたい。そのために。


「──斬る!!」


 デッキの上にかけた手。一番上のカードを掴み、引かんとしたその瞬間に案の定飛来した弾丸。オーラを圧し固めて作られた弾で敵を撃ち抜くアキラの妨害技。を、ロコルは迎え撃った。「今度こそ」という思いは彼女の側も同様だったのだ。この重大な局面、アキラは『射撃』を使ってくる。一度は通常の抑制によってズラされた意識、次は果たして抑制か『射撃』かと生じる迷い。そういった諸々を植え付けた上でアキラは二択においてそちらを採るだろうと、ロコルは決め打ちをしていた。


 必ず撃ってくる。先ほど見事に騙されておきながらそう信じた、信じ込めた少女に迷いはなかった──振るう迎撃のオーラには陰りも遅れも一切なかった。とまるで位置もタイミングも事前に知っていたかのように、あたかも九蓮華のオーラ技『剣閃』をただ「置いておいた」だけとでも言わんばかりに。見る者にそう錯覚させる太刀筋でロコルは弾丸を断ち切った。実に綺麗に、実に流麗に。それはその様をつぶさに眺めたエミルをして圧巻と言わしめるほどの腕前だった。


 これもまたアキラが相手だからこそできる神業。他の者の妨害に対して同じ真似はできない……少なくとも現時点では、まだ。などと偉業の感慨に為した当人が浸る間もなく、喜ぶ暇もなく「それ」は来た。


「ッッ!」


 第二射・・・。一射目の影からぬっと顔を出したそれは、その間断の無さからして先行の一発が切り落とされるよりも早くに発射されたもの。初撃の結果を見る前から油断もなければ容赦もない二の矢をアキラが放っていた──それはつまり一射目が切られるのを想定しての行為であり、仮に思惑通りに迷いがあったとしてもロコルならそれくらいはしてのけるだろうと、そう評価したということ。


 その信頼に喜びつつ、迫る弾丸に焦りつつ。されどロコルの内心を満たす最もの感情はやはり克己心。アキラがやった、ならば自分もやる。撃つ気配を消した影の二発目、『射撃』をただの素早いオーラ攻撃だけに終わらせない発展形の技術。それくらいのことを彼ならやってのけるだろうと想定していたのはロコルも同じなのだ。そしておそらくは多少なりとも後れを取らせるはずだったアキラの想定と違い、一発目を苦もなく斬った己にそういった不利ものは生じていないのだから続く二発目とて対処は変わらず。


 振り切り、切り裂く。


 二連閃による迎撃。抑制のために波の如くに迫るオーラは面であり、比べてアキラの弾丸は点だ。それも、極小の。言うまでもなく『剣閃』という線でそれを捉えるのは相当の技量が要求されることで、しかもそれを二連続で行うとなればもはや達人級のオーラ操作が求められる。いくら九蓮華が誇る才子とはいえ間違っても十三歳の少女が可能とするような技ではない。


 けれどもロコルはそれを実現させた。


 真っ二つに切り分けられ霧散する弾丸。一発目と同じ運命を辿った二発目の末路に今度こそ手応えと成し遂げた達成感を味わって──。


「──え?」


 そして光線・・が彼女を貫いた。



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