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404.瞬間火力の証明

 アキラの予想は過たず。


「ブレイザーズ・ナイトの登場時効果を発動するっすよ。デッキからオブジェクトカード一枚をサーチし、それが無陣営であれば無コストでプレイすることができる!」


 踏み倒しの連鎖。わかりやすい・・・・・・効果の少ない無陣営においてこういった展開の仕方は難度の高いものであるはずが、ロコルはこともなげに、それも立て直しの手腕が求められるこの場面に早速と実践してみせた。《万端の鬼酒》を引けたこと、そこからブレイザーズに繋がったこと。それらは単に「運がいい」の一言で片付けられるものではなく、望む札を掴むに相応しいだけの実力があり、それを遺憾なく発揮するだけの構築もできているとわかる。この狙ったようなドローの連続はロコルというドミネイターの才覚を端的に表していると言えよう。


「自分がサーチするのは! ブレイザーズが持つに相応しい魔剣《月光剣ムーンライト》っす! 無陣営カードのため無コストで設置し、そしてそのままブレイザーズに装備するっす!」


 装備オブジェクトは装備対象であるユニットとひとつになって初めて力を持つ。中には未装備状態でも通常のオブジェクトよろしく効果を持つものもありはするが、ムーンライトに関してはそうではない。この存在感を放つ青白い刃の剣は装備オブジェクトの見本めいたカードであるからして、優れた持ち手の武器となってこそ能力を活かせる──ドミネイターならば否応なしに背筋の震えるその恐るべき能力を。


「これまでの試合で散々見せつけたからにはよくご存知だろうっすけど、説明しとくっすよ。7コストの激重オブジェクトである《月光剣ムーンライト》の効果は四つ! ひとつ目が──」


 一本目の指を立ててロコルは続ける。


「種族名にナイトと付くユニットに装備されたムーンライトはまず! そのユニットのパワーを1000アップさせるっす。よってブレイザーズのパワーは6000になるっす!」


 《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》

 パワー5000→6000


 剣を自前の物から月光の力宿る魔剣に変えたことで、剣から伝わる魔力によってブレイザーズが強化される。見ている者にもわかる程度に、僅かだが確かに力強さを増した騎士の姿にアキラもロコルも目を細める──一方は警戒で、もう一方は満足で。


 ロコルの二本目の指が立つ。


「ふたつ目、装備したユニットのブレイク数を1アップさせるっす。これでブレイザーズは【重撃】ユニットと同じく一度のダイレクトアタックでライフコアをふたつまとめて屠れるようになったっす」


 月光の魔力が与える強化は単純な膂力パワーだけに留まらないようだ。ブレイク数という通常なら手の出しにくい部分──そこに作用する効果は言うまでもなくパワーに作用する類いのそれに比べて著しく少ないため──にもその力は及び、ブレイザーズは一撃でコアを二個奪う剣技まで手に入れた。これは残りライフが三のアキラにとって非常に重い変化である。


 三本目の指が立つ。


「三つ目、ムーンライトは自身の持ち手へ守護者ユニットに煩わされない力も与えるっす。『アタック時にガードされない』すり抜け効果! これでブレイザーズは誰にも邪魔されることなく確実に! センパイのライフコアを切り伏せることが可能っす!」


「……!」


 あくまですり抜け効果で無視できるのは【守護】持ちが行うガードであるため、例えばアキラの場に《守衛機兵》がいて、その効果によってブレイザーズのアタックを止めるというのであればムーンライトを装備した彼であっても止まらざるを得ない。「完全ガード」とロコルが称した機兵の抑止能力はその文句が大袈裟ではないくらいに優れており、だからこそ万が一『ビースト』の召喚を許した際の防衛線として、更には《収斂門》とのコンボで相手ユニットのシャットアウトという作戦まで作戦の内に組み込んだのだ──それはきっとムーンライトを持ったブレイザーズという己最大の切り札であっても機兵なら止められる、という事実が大いに影響をもたらした判断だったろう。


 果たしてアキラのデッキに機兵のような、能力によって敵ユニットの動きを止めるカードは採用されているだろうか? その可能性は低いと見做しているロコルは意気揚々と、あたかも場を飲み込むように、流れを掌握しているのは自分だと誇示するように四本目の指を立てて言った。


「四つ目! ユニットへ付与する最後にして最強の強化が、ライフコアをブレイクしてもクイックチェックを行わせない。デッキに触れることも許さない完璧な『クイックチェック封じ』の能力っす!」


 月光剣に切り裂かれたコアはプレイヤーへなんの力も残すことなくただ散り行くのみとなる。それが沈黙の剣技「フルムーンスラッシュ」。静かなりしその一閃を浴びたが最後、静寂を保ったままに終焉が訪れる。月光の魔力が敵にもたらすのは未来永劫の闇なのだ──と、指を収めたロコルはしかし人差し指の一本だけを伸ばしたままにそれをアキラへと向ける。その様はまるで宣告のようであった。


「勝負はここから、とは言ったっすけど。うかうかしているとすぐ終わっちゃうっすよ? 月光の剣を握ったブレイザーズにはファイトを終わらせるに充分の力があるんすからね」


「ロコルの無陣営デッキ……そのキル力・・・を保証しているのがムーンライトとブレイザーズのコンビだもんな。それを揃えさせてしまった時点で俺は相当に苦しいってわけだ」


 相手のライフを削る速度。ドミネファイトで勝利するためにとりわけ重要なその項目で高い点数を叩き出すのが、ロコル肝入りのこのコンボである。無陣営カードのみでデッキを組んでいるとなればキルスピードを伸ばすのもまた難しいはずが、しかしブレイザーズによって彼女はそこすらもクリアしている。コントロール色を強めつつもライフを奪う力も落とさない。その両立が叶っているからこそロコルは宝妙ミライに打ち勝ち、その後の二連戦を制し、こうして決勝の舞台でアキラと対峙しているのだ。


 それを踏まえて少女は考える。


(センパイは『ビースト』をデッキから外した。それは『ビースト』を糧に呼び出されるドミネユニットのアルセリアとルナマリアも同時に戦力から外したということ──さすがにそれだけ駒が落ちていれば攻撃力・・・の低下は必至。センパイの持ち味である爆発的な猛攻も従来通りとはいかない……つまり! キルスピードの一点においては現状、ムーンライト擁する自分の方が明確に上ってことになるっす!)


 緑単色よりも無単色のデッキの方が瞬間火力で勝る。陣営の特色を知っている者からすればなんとも不思議な出来事ではあるが、けれど間違いない。


 アキラがこれまでのファイトで見せてきた、ここぞという場面での猛攻による連続ブレイク。彼が数多くの勝利を手にしてきた要因……それに最も寄与していたのが『ビースト』ユニットであり、そこから展開されるドミネユニットであったことは確かで。それを丸ごと欠いた今のアキラにはいつものような攻撃性がなく、いくら『森王』や『アーミー』で補おうにも埋めきれない穴ができていることも確かなのだ。そこを鑑みればアキラよりもロコルのキルスピードが勝っているという解釈は決して的外れなものではなく、むしろ至極正しい戦況分析だと言えるだろう。


 ただし。


(自分の方が瞬間火力で優れていると……その正しさを証明するにはまだ足りていないっす)


 分析を真に正しいものとするには、あと一手の不足がある。ロコルにはまだ引かねばならないカードがあるのだ。それを掴むことができて初めて、彼女は勝利への王手をかけることができる。


 再び思うままの運命を切り拓けるか、否か。

 勝利の栄光はそこに懸かっていた。



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