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403.切り札を引け!

「俺はこれでターンエンド。スタートダッシュを切れるものなら切ってみろ、ロコル!」


「いいっすよ、存分に背中を追いかけさせてあげるっす──自分のターン! スタンド&チャージ、そしてドロー!!」


 このスタートフェイズでロコルのコストコアは六つになり、手札は四枚となった。次のターンには追いつかれるとはいえ今この瞬間、ロコルはライフ・コスト・手札という、プレイヤーの持つリソースが目に見える数字となって表れる重要な三要素の「全て」においてアキラを上回っていることになる。いずれもが1という最小の差でこそあるが、上回ったと言ってもほんの僅かでしかないが。しかし僅差だろうがなんだろうがアキラより先にいるのは、勝利を目指すレースで前を走っているのは間違いなく自分であると。そう奮起を込めて誇り、ロコルは手札から一枚のカードを抜き出した。


「まずは空っぽになったフィールドに活気を取り戻さなきゃっすよね。3コスト使ってこの無陣営オブジェクトを設置するっす! 来い、《万端の鬼酒》!」


 でん、と場に出現したのは巨大な瓢箪であった。飲み口を封じる栓と繋げられた赤紐でくくられたその様は、如何にも物語に出てくる鬼が愛してやまぬ酒の入れ物といった風情である。またしても登場した未知のオブジェクトをアキラが用心の目付きで眺めると、ぽんっと軽い音を立てて瓢箪の栓が取れた。


「《万端の鬼酒》の条件適用効果! このオブジェクトが無色コストだけでプレイされている時、登場時効果を使用できるっす! というわけでその効果を発動! 自分はデッキからカードを一枚ドローすることができ、そのカードが無陣営のユニットかオブジェクトカードだったなら無コストでプレイしてもいいっす!」


「!」


 たとえ無陣営カードが引けなくとも手札増強にはなるのだから損はない。無コストでのプレイが強制でもないために相手プレイヤーに引いたカードを開示する必要もなく、場合によっては無陣営であっても手札に溜めておくこともできる、融通の利き方も含め非常に便利な効果だ。実質的にこの効果が使用されているということはドローが無陣営カードであるのがほぼ確定している点──何せコアゾーンに三つも無色コストがある時点でそのデッキは普通ではあり得ない構築になっている可能性が大なのだから──も合わさって《万端の鬼酒》はまさにロコルのためにあるようなオブジェクトだと評していい。


 だがその噛み合い・・・・以上にアキラが反応を示したのは、現在のロコルの使用可能な総コストが6止まりであり、そのタイミングで踏み倒しが可能な展開をしてきたという部分だった。


(ロコルの無陣営デッキの切り札。登場時に好きなオブジェクトをサーチできる《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》のコストは7! このターン中には召喚できないそれを、《万端の鬼酒》の効果で引き当てれば場に呼び出すことができる!)


 それは何よりも「スタートダッシュ」の文言に相応しいプレイングだと言える。ここでエースを呼び出し、その能力で更なる切り札を呼び込むことができたなら、ロコルは独走状態になる。そう言い切ってしまっても過言ではない程度には優位を得られることだろう……それは次のターンでのアキラのプレイ次第でもあるが、そこで追い縋れるにせよ突き放されるにせよ、後手に回されること。追いかける側でありながらアキラが対応に追われる側になるのは避けられない。言わずもがなドミネファイトにおいて対応者になるのは──それが極度のコントロールデッキの円熟者でもない限りは──基本的に不利を押し付けられているに等しく。


 故にロコルは引きたいし、アキラは引かせたくない。であるからには、また起こる。


 オーラの衝突。運命力の比べ合いだ。


「ッ……! 鬼酒の効果でドローっす!」


 降り注ぐ重圧。此度はアキラが開発したオーラを小さく圧縮させて撃ち出す独自技の『射撃』ではなく、通常(と言っていいのかどうかは定かではないが)の妨害だった。オーラの弾丸の飛来に備えて、二度目は切り裂いてみせんと『剣閃』を構える姿勢を取っていたロコルのそれをおそらく見抜いて妨害方法を切り替えたのだろう。そうでなければアキラは今回も『射撃』に頼っていたはず。その咄嗟ながらに上手く相手の心理を読み取ってのオーラ操作はロコルからしても見事としか言いようがなくて。


(くっ、対抗意識を燃やして『射撃』に勝とうとしたのは間違いだったっすか──いや、どちらかと言えば守りへの意識よりも攻めっ気の強いセンパイのこと、何も懸念がないのなら二連続でオーラの弾丸を撃ってきていたのは確実! つまりそれを読んだことを読まれたのが本当の失敗っすね……!)


 重い・・。『射撃』も技術としては脅威的なものであったが、しかしそういった工夫に頼らずともアキラのオーラによる抑え込みのプレッシャーは相当なものだ。場合によっては怪物エミルの理不尽とまで称される運命力すら凌駕してみせる彼なのだから、そんな彼を応援していた身として。その成長に一役も二役も買った自負のあるロコルなのでそれくらいのことは承知していたが──むしろ誰よりも正しく彼の力を認識している自信すらあったが、しかし知っているからといって何もかもに、いついかなる局面であろうと完璧に対処できるとは限らない。双方のプレイヤーが生み出す流れというものに図らずも左右されがちなドミネファイトとなればそのことは殊更に際立つ。


 彼女を知る者からは「巧者」と称賛を込めて高く評価されるロコルであっても、だからとて全てを想定通りに進ませることなど到底不可能である。それはこのファイトの中の出来事だけでも充分に証明されていた。


「だけどッ!」


 常に最善、なんて、そんなことはエミルにすら。どころか世界最高のドミネイターと名高い『最古の覚醒者』にだってできっこない。あり得っこない。それは奇跡を通り越した夢物語。人と人が本気でぶつかり合うドミネファイトにそんな都合のいいものは寄りつくしまもない。そう、ロコルは信じている。だから。


 失敗したっていい、失態を演じたっていい。最善どころか次善にも届かないことだってあるだろう──しかしそこから盛り返すのが、取り返すのがファイトの面白さで、ドミネイターのあるべき姿。そう思うから、ロコルのオーラは振り絞られる血気と共に激しく流動する。


 狙った『射撃』をすかされて出遅れた『剣閃』を、それでも力いっぱいに振るう。自身を抑えつけんと降り注ぐアキラの重圧を、真っ直ぐに。ひたすら真っ直ぐに切り開く。斬る技術よりもただただ思いの丈を、感情の強さをそのままに乗せて振り抜かれたその太刀筋はどこまでも愚直であり。まるで普段のロコルらしからぬものとなっていたが……きっと今はそれが良かった。彼女がそこに込めた想いは多少の出遅れを物ともなしいだけの、問題にしないだけの勢いと力強さがあった。


「引いたっすよ……! 自分の手の中にあるのは、センパイが危惧した通り! このデッキ最大のエースユニット──無名の孤高剣士《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》っす!」


「っ……!」


「当然無コストで召喚するっす!」


 《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》

 コスト7 パワー5000


 透き通るような白い体で、同じく透き通る様に白い刀身の剣を逆手に持った騎士ナイト。ロコルの無陣営デッキを代表する絶対的なエースにして彼女を勝利へ導く偉大な戦士が、このファイトにも顔を見せた。観戦中に彼の力を目の当たりとしていたアキラにはここから何が起こるか、ロコルが何を手にするのかが言われずとも察することができていた──。



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