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4.決着! 勝者は……

「俺のターン! スタンド&チャージ、ドロー!」


(ほお……怯まずにカードを引きやがったか)


 切り札がやられたことに動揺こそ見せたものの、すぐにそれを収めて行動を開始したアキラを黒い少年は意外に思う。もう少し引きずるかと思ったが、案外この素人は逞しい精神を持っているらしい……それでいい、と彼は思う。動揺そんなものでつまらないミスなどされてしまっては興醒めどころではない。


(最後までしっかりと闘志を抱いて戦ってもらうぜ──そうして俺様の勝利をより価値あるものとして飾りな)


 あくまでも食らうべき獲物として見られていることなど知りもしないアキラは、今この時ばかりは敵である黒い少年よりも、フィールドに主演の如く居座る黒陣営のユニットへと目が釘付けであった。


「《暗黒童子マゼラ》……俺の《ビースト・ガール》やコウヤの《フレイムデーモン》みたいなカードが、あいつにもあったのか」


 そりゃそうだな、とアキラは自分の考えが甘かったことを認識する。ドミネイターであれば信を寄せるカードの一枚や二枚、デッキに組み込んでいて当たり前である。それをここぞという場面で活かせる者こそが強いドミネイターなのだろう。


「この六枚の手札でマゼラを倒せるか……?」


「倒さなきゃはっきり言って負けっすよ。なんと言ってもマゼラの能力は起動型の効果っすからね」


「起動型の効果?」


「っす。ジェミニやデンキバードみたいな登場時にしか発動できない効果とは違って、アクティブフェイズの好きなタイミングで発動させられる任意効果のことっす。マゼラの場合は強力な代わりに毎回手札コストを要求されるみたいっすけど、それも蘇生能力と噛み合っていて隙がないっす!」


「なるほど……捨てる手札さえあればターンの度にユニットが二体タダで湧いてくるようなものなんだな。確かに早めに倒さないとお手上げだ」


 黒い少年の手札もまた六枚。次のドローやライフコアの恩恵を思えば発動のための手札がなくなる、などということはそうそう起こらないだろう。だとすれば一番はマゼラをさっさと倒してしまうことであるが、しかし。


「マゼラはコスト5の割にパワーは3000と控えめな数値っす。緑陣営の同コスト帯なら余裕で蹴散らせるっす──でもスタンド状態のユニットには攻撃ができない。これじゃ緑のカードの『バトルに強い』っていう強味が活かせないっす」


「いや」


 状況は絶望的であると不安そうにする少女に、アキラは静かに首を振った。


「このデッキは……数枚の切り札を活かすために作ったデッキ。きっと見る人が見れば拙い構築なんだろうけど、俺にとっては最高の相棒だ。だからなのかな? 俺の手札にはもう、再々逆転のためのカードが揃っている!」


 行くぞ、と手札から引き抜いたカードをアキラは召喚する。


「来い、コスト3! 《ビースト・オブ・イノセント》!」


「またビーストの名称を持つカードだと」


 その名にピクリと反応を見せる黒い少年。彼の抱いた警戒心は実に正しく。


「イノセントの登場時効果発動! 墓地のビーストと名のつくカードを一枚、手札に戻す!」


「おお! 切り札を回収したっす!」


「はっ。墓地からの補充とは緑陣営にしちゃいい効果を持ってるじゃねえか。それでパワー2000とはスタッツも悪くねえ……だがそれでも中盤に使うにゃ重い・・な。お前のコストコアは残り二つ! コスト四の《ビースト・ガール》を呼び出すには次のターンまで待たねえとなぁ」


「それはどうかな?」


「!」


「黒の特色が破壊と蘇生なら、緑の特色は仲間同士の助け合いにある。それを見せてやる──スペルを発動・・・・・・!」


「っ、ここでスペルカードか……!」


 スペルとは、召喚すれば破壊されない限り場に残り続けるユニットとは種類の異なる『使い切り』のカード。基本的に一度発動すれば効果をなくし墓地に置かれるが、場面によっては一枚で状況を一変させるほどの派手な効果を持つものもある。


「唱えたスペルは《バトンタッチ》! 自分の場のユニット一体を、同じ陣営のユニット一体と入れ替える! その時コストは元のユニットの+1までに限定されるが、勿論! コスト3のイノセントの代わりに呼び出すのはコスト4の《ビースト・ガール》! 条件は問題なくクリアだ!」


「ちぃっ、まさかスペルで非正規の召喚(※コストコアを使わない召喚法全般を指す)をしてきやがるとは……!」


「そっちだって蘇生で同じことをしたんだから大目に見てくれよな──いけっ、ガール! 【疾駆】を持つお前は召喚酔いなんかに縛られない! 《血吸い人形》にアタックだ!」


 ぎらり、と手札を介して蘇った獣少女がその爪を光らせながらフィールドを駆ける。一瞬で間合いを詰めた彼女の連撃を前に、もはや抵抗するだけ無駄と悟っているような不動ぶりで注射器人形は大人しくやられた。


「これでガールも効果発動の条件を満たした! 対象は《暗黒童子マゼラ》だ──ダブル・クラッチ!」


 相手ユニットとのバトルで勝利した時、ガールは疲労レストが解けると同時に更に一体追加で破壊することができる。その能力によって戦闘後にも関わらず獣少女の動きは一切衰えず、転身。風のような速さでマゼラの傍を通り過ぎていった。ひゅう、と風に揺られて捲り上がった札。その下には思いの外あどけない少年の顔があったが、彼は不思議そうな表情のままに倒れ伏した。痛みも感じさせないほどに鮮やかな切り口を敵に残した爪をぺろりとひと舐めする獣少女の姿は、その暴力的な行いに反してどこか妖艶であった。


 彼女の瞳は既に次なる標的を見据えている。


「ガールでダイレクトアタック!」


「っぐ、くそったれめ!」


「す、すごいっす! マゼラを倒した上にライフまで削ったっす! これは勝負あったっすか……!?」


 ライフコア、残り二。しかも宣言通りの再々逆転を許してしまった。想定以上の反旗、それに押されている自身に苛立ってギリリと歯を噛み締める黒い少年は、アキラのターンエンドに合わせてすかさずデッキからカードを引いた。


「俺様のターン! ──勝負ありだと? 俺様が何を召喚しようと構わずにライフを詰めればそれで勝ち……大方そんな風に考えてるんだろうが、笑わせるなよ。見やがれこの手札を。こんだけありゃ身を守る術なんざいくらでもあるに決まってんだろ!」


「身を守る術……?」


「おうともよ、それがこいつらだっ! 来いよ、《ボイド》! 三体を連続召喚だ!」


 《ボイド》

 コスト2 パワー2000 【守護】


 円筒形の組み合わせで出来た無機質めいた生物が三体連なってわさわさと現れる。彼らはコスト2でパワー2000と標準的なサイズの小型ユニットであるが、特筆すべき点はもうひとつ。


「あれは、【守護】の能力を持つ守護者ユニット!」


「守護者……それって確か」


「そうっす! 相手ユニットのアタックを防ぐことのできるユニットのことっす。守護者を倒し切らないことにはライフを削れないっすよ!」


 これはヤバいっす、とさっきまでの勝ちを確信しかけていた威勢もいずこやら、あわあわと慌てだす少女。そんな彼女に対してアキラは静かだった。守護者三体の壁を前にしてもまったく動じていないその出で立ちに、目敏く黒い少年は気付いた。


「お前、その顔付き。まさか……」


「──俺のターン。スタンド&チャージ、ドロー」


 その言葉に応じることなくスタートフェイズを淡々と終えたアキラは、一枚のカードをプレイする。


「スペル、コスト3の《昂進作用》を唱える。対象は《ビースト・ガール》」


「またスペルっすか! ええと、確か《昂進作用》の効果は……」


「自分ユニット一体のパワーを一ターン限定で1000上げて、しかも戦闘や効果で破壊されなくする。そしてそのユニットはスタンド状態のユニットにもアタックできるようになる……だったな。はっ、緑陣営らしい戦闘での強さを更に伸ばすためのスペルってわけだ」


「おー! 確かに緑らしいパワフルな効果っす! これで《ビースト・ガール》はパワーアップするんすね──いやいや! パワーアップさせたところで三体の守護者は越えられないっすよ!?」


(そうだ。《ボイド》のいいところは破壊された時、手札のユニットカードを捨てることで墓地から即座に回収できる点。つまり【守護】のユニットを毎回並べられるところにある)


 《ビースト・ガール》の再スタンド&破壊効果はバトルに勝たなければ発動しない。あえてガードせずに一撃だけは受けて、もしも他に【疾駆】持ちを出してくるようならそちらを防ぐ。そういうつもりでいた黒い少年だが、《昂進作用》によって最低でも二体は《ボイド》を破壊されることが確定してしまった。それでもライフは守れる、はずだが。


 しかしアキラの眼差しが、その勝利を目前としたような力強い眼差しが、彼の希望的観測を否定する。


「行け、《ビースト・ガール》! 《ボイド》へアタック!」

「ガードする意味もねえか。だったらそのまま破壊されてやるよ。だがユニットを捨ててやられた《ボイド》を手札に戻すぜ!」

「構わない。ガールの効果で自身をスタンド! そして効果によりもう一体ボイドを破壊する!」

「ちっ……ユニットを捨ててこいつも回収だ」


「ああっ、これじゃ毎ターン守護者が出てきて邪魔するっす! その間に黒お得意の《ビースト・ガール》を破壊できるカードでも引かれたら……!」


「それはあり得ない。何故なら、決着はこのターンでつくからだ!」


「「な!?」」


 嫌な予感が当たった黒い少年と、まったくの予想外であった少女。反応こそ似通っていたがその驚き方の差は、アキラと敵として向かい合っているかどうかの差だったのかもしれない。


「《ビースト・ガール》で再攻撃! 《昂進作用》の効果は続いている、狙いは最後の《ボイド》だ!」


「っ、こいつも回収……」

「ガール、再々スタンド!」

「なにぃっ!?」


「マゼラと違ってガールには一ターンに一度という制限なんてない。攻撃して、ユニットを破壊さえできれば何度だって再び立ち上がる! もうお前の場に破壊効果の対象となるユニットはいないが──それこそ構わない! 今度はダイレクトアタックだ!」


「っぐぁあ!」


 残り一。いよいよ後がなくなった己のライフに冷や汗をかく黒い少年だが、彼の嫌な予感はまだ続いている。


(奴は決着をつけると言った。つーことはあの残りの手札の中には──)


「残ったコストコアを全て使って、三体目の《ベイルウルフ》と二体目の《デンキ・バード》を召喚! 登場時効果発動、《デンキ・バード》は《ベイルウルフ》に【疾駆】を与える!」


「身を守るための守護者はもう全滅してるっす……! これで!」


「これで終わりだ! いっけえ、《ベイルウルフ》!!」


「ぐ、ぅおあああああああおあおおおおお!!」


 黒い少年、無念のライフアウト。これにより、このドミネファイトの勝者は若葉アキラとなった──。



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