395.アーミーアニマルズ!
手札からでもなければ墓地からでもなく、コアゾーンからの効果発動。非常に珍しいその宣言が、自分がオブジェクト破壊を凌いだタイミングで行われたことに硬直を見せるロコル。何が起こるのかを見逃してはならない。ひょっとすればそれこそが胸のざわつきの正体かもしれないのだから──肉体こそ固まっていても思考だけは加速させながら見つめる彼女の視線の先で、アキラは既にレストしている三つのコアの内のひとつを手元へと戻して。
「スペル《緑化》によってチャージされていた《アーミーウォンバット》の効果! 自分の墓地に『アーミー』ユニットが置かれた時、このユニットをコアゾーンから場に出すことができる!」
「!」
コアと化している自身の召喚能力! そういった種類の自己召喚効果は、珍しい部類ではあるもののそこまで希少というわけでもない。《アーミーウォンバット》に聞いて瞠目するような独自性はない──だが召喚条件が同名カテゴリ持ちのユニットが墓地へ行くこと。それもフィールドを経由せずとも手札からの直置きで発動するとなればトリガーとしては緩く、その上で自己召喚に際して追加コストが一切ない点。こういった効果にありがちな軽減コストを払ったり手札を切ったりという制約が存在しない完全なる踏み倒しであるのは、類時効果のカードらと比べてもウォンバットが特別優れていると言っていい部分だろう。
「来い、《アーミーウォンバット》!」
《アーミーウォンバット》
コスト4 パワー3000
モモングリムと肩を並べるようにして広場に立ったウォンバットは、軍隊と名の付くだけあって油断なく戦闘に備えているのが窺え、彼がただの野生動物ではないことを教えている。その佇まいには横のモモングリムも「ほえー」といったなんとも言えない表情(?)で感心しているようだった。
「《アーミーウォンバット》には登場時効果もある!」
「自己召喚に加えて登場時にも何かやってくれるっすか!」
「ああ、こいつは大自然の安寧を守るために結成された義勇軍の一体。当然戦地に赴いたからにはやるべき任務がある──ウォンバットの効果を発動! 墓地の『アーミー』ユニットの数だけデッキの上からカードをめくり、その中の緑単色の一枚を手札へ、一枚をコストコアへ加えることができる!」
「ドローとコアブーストの両立! 変則的な《緑化》ってわけっすか……!」
墓地に『アーミー』ユニットが多ければ多いほどめくれる数も増え、その分だけ緑陣営単色のカードを引き当てられる確立も上がることになるが、ここに至ってロコルはそれを勘違わない。いつもなら緑以外に差し色となる別陣営も──その大半は黒であるが例外的なシーンもこれまでにはあった──組み込まれているアキラのデッキ、だけれども。今回はそうではない。おそらく今アキラが使っているデッキに緑以外の色は一切含まれていない。と、ここまで緑単色のカードしか確認できていないのに加えて自身の直感がそう知らせてくれている。
つまり『アーミー』ユニットがどれだけ墓地に溢れていようと意味などないのだ。最低でも二体いればそれでウォンバットのドロー&ブーストは成り立つのだから。
「一体しかいなければ、そして一枚のめくりだけで上手く緑単色を引けたら、俺はそれをコアに変換するか手札に加えるかを選択することができる。ライフを減らさないディスチャージみたいなものだな」
ウォンバットの仕様について追加で説明しつつ、アキラは効果処理に入る。デッキの上から三枚を手に取り、その内の一枚をデッキボトムへと戻した。
「選ばなかったカードはデッキの一番下に好きな順番で置く。今回はこの一枚だけを底にして……そして選んだこの二枚の内、《森王の下支え》をコアへ。もう一枚の《アーミーオポッサム》を手札に加える」
義務として引いたカードが確かに緑単色であることを証明するためにロコルに開示したアキラは、宣言した通りに『森王』をコアの一個へ変換し『アーミー』を手札の一枚とした。
逆ではないのか、と反射的にそう思ったロコルはそこですぐさま内心で首を振った──《森羅の聖域》という専用エリアまで用いて『森王』を持ち出してきたことから、『ビースト』が禁じられている今アキラにとってその代用となるカテゴリは『森王』で違いないと思い込んでいたが……いや、アキラの口調や態度からそう「思い込まされていた」が。しかしそうとは限らないのではないか。彼にとっての『ビースト』に続く本命は『森王』ではなく実は『アーミー』の方なのかもしれない。そうであったとしても何もおかしくはないのに、根拠のない推測だけで『森王』ばかり危険度を高く見積もるのはそれこそ危険な行為であろう。
ウォンバットが見せたように緑らしいユニット同士の連携力を『アーミー』は少なくとも持ち合わせている……賢人の効果からしておそらくは単体性能こそが強味であろう『森王』とは反対と言っていい。ならばこの二種のカテゴリは質と数を補い合う関係にあるとも言え、組み合わせるには悪くない相性をしている。アキラはそれを踏まえて『ビースト』だけでなくこのふたつも新たにデッキへ組み込んだのかもしれない──。
「……?」
そこでまたしても何かが引っ掛かる。今度はよりハッキリと、漠然とした不安以上の手応えがある。まだ掴めてはいない。けれど自分は答えに手が届きかけている。否、ひょっとすれば。本当は既にわかっているのではないか──? なのにどうしてかそれを見えないように、自分自身が誘導しているのではないか。
「ウォンバットの効果処理を終えたタイミングで墓地の《アーミーカンガルー》の効果を発動! 場に『アーミー』ユニットが出た時、そのユニットと入れ替わる形で自分を蘇らせる! ウォンバットを墓地へ送りカンガルーを蘇生召喚だ!」
「っ、墓地へ捨てた『アーミー』もしゃしゃり出てくるんすか」
不意に戦闘体勢を解いたウォンバットがぴょんと後方宙返りをしたかと思えばその姿がどこへともなく消え、代わりに森の奥から高らかな跳躍で広場に現れたのが大きな袋と逞しい脚を持つカンガルーだ。彼もまたウォンバットの仲間らしくそこらの動物には見られないビシッとした出で立ちで敵陣に向き合い、それにまたモモングリムが「はえー」といった様子で感心を見せる。
《アーミーカンガルー》
コスト5 パワー3000
「カンガルーの登場時効果を発動! こいつが場に出た時、カンガルー未満のコストの手札または墓地の『アーミー』ユニット一体を無コストで召喚することができる! ただし蘇生のために入れ替わったユニットだけはその対象にできない制約もあるが、今は関係ない! 俺がカンガルーの効果で呼ぶのは《アーミーワラビー》! 墓地から蘇生召喚だ!」
《アーミーワラビー》
コスト4 パワー3000
カンガルーを一回り小さくしたような風体のワラビーが、自身を蘇らせてくれた彼と共に戦地に立つ。よく似ているだけにこの二体が並ぶと兄弟が共に戦おうとしているような印象を受ける。その光景に少しだけ反応しかけたロコルだったが、彼女は直ちに思考を切り替える。アキラとのファイト中に余計なことへ費やせるリソースなどない。特に今は彼らしい怒涛の展開力が爆発しているところに加えて……ようやく、謎のざわめきの正体というものが見え始めてきてもいるのだから尚更に。
「さあ、続いてワラビーの登場時効果を発動するぜ!」




