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391.誕生、ユニジェクト!

「一応言っておくと、手加減ってわけじゃないっすよ。あの時のエミルには『剣閃』を始めとする九蓮華の技に頼ろうっていう発想自体がなかったに違いないっす。そんな必要もなく勝てると──勝たねばならないと意気込んでいたはずっすから、むしろ頼ったら負けとすら思っていたかもしれないっすね」


「自分の特別さの証明のために、か」


「その通りっす。ドミネ貴族の頂点たる御三家、その三家の中においても頂点たる九蓮華家……の、家中でも更なる特別。それを殊更に、一等にアピールするためにっす。ま、それくらいやらなきゃ新しい世界を到来させるだとかそこで神になるだとか、そんな大それ過ぎた野望は企てられないっすよね」


 その使命を彼が背負い込んでいた・・・・・・・・のだとロコルが思えるようになったのは──それに気付くことができたのはもちろん、彼の敗北があってこそだ。あの日に負けたのがアキラの側であったなら、エミルの計画が今も順調に進んでいたならば。まだロコルはエミルをどう「討伐」したものかと頭を悩ませ、彼の内面にある本当の欲を知ることはなかったろう。そこに目を向けることなど、まずなかったろう。


「お互いに見えるはずのものから目を背けていたってことっすね。だから、センパイは間違いなく全力全開のエミルを倒した。そこに疑問の余地はないっすよ。確かに色々と限界ギリギリだった勝負っすから、エミルが九蓮華の技を使っていたら……それも勝負の最初から惜しみなくそうしていたなら結果は変わっていたかもっす。だけど、当時のエミルがそんな真似をするわけがないんすからそんな『たられば』を想像したってしようもないっすね。考えるだけ無駄ってもんすよ」


「ああ、そうかもな。でもやっぱり当事者としては考えちゃうんだよ。あの日のエミルがもしも暴威だけじゃなく細やかな技も、自分の天凛さいのうだけじゃなく九蓮華が積み上げた手練手管あれやこれも駆使できる男だったなら。俺はもっと苦戦させられて──」


 ──それだけもっと、楽しいファイトができていたんだから。


「……!!」


「そう思うと、すごく惜しいだろ?」


 ああ、この人は。ぞくぞくと背に伝う震えがどんな想いを表しているのか自身でも把握できぬままに、ロコルは感動していた。こんな人がいるのか。こんな人がいていいのか。こんなにも純粋で、こんなにも真っ直ぐで、こんなにも気高くドミネファイトに向き合える人間が、ここにいる。目の前に。自分と同じ時代を生きている。この出会い。この運命。この先のこと。


 なんたる幸運、なんたる幸先。最善最良の巡り合わせ──怖いくらいの幸福が、手元にある。ロコルはより強く思う。


 負けられない、と。


「センパイ」


「うん?」


「エミルを止めてくれたこと、本当に嬉しく思うっす。センパイに託すしかなかった自分の不甲斐なさを噛み締めると同時に、センパイが生まれてきてくれたことを深く天とセンパイに感謝するっす」


「な、なんだよ急に」


 大仰どころではない物言いに若干慄いたようにするアキラへ、ロコルはそれに構わず言葉を続けた。


「あまりにも大きすぎる恩っすけど、いつかは返し切るつもりっす。どうやったらそんなことができるのか皆目見当もつかないのが痛いところなんすけど、必ずっす──その一環がこのファイトでもあるっす」


「!」


「ご期待に添えて。最高に楽しいファイトをセンパイにプレゼントするっすよ。その『ついで』に敗北も、っす」


「はは──やれるものならやってみろ、ロコル!」


「おうともっす! スタートフェイズを終えてアクティブフェイズへ移行! 自分は手札からこのカードをプレイするっす!」


 ファイトボードへ置かれる一枚のカード。その途端に、聖域の森と化しているフィールドに変化が起こった。アキラの側に生い茂る木々の風景を残したままロコルの側にタイル張りの白い壁と床が出現したのだ──それはまるでどこかの実験施設といった具合に非常に無機質で、非情なまでに殺風景な空間であった。


「3コストを使って! エリアカード《万象万物場》を展開!」


「《万象万物場》……!?」


 耳馴染みのないカード名。アキラにはロコルが展開したエリアの知識などなかったが、けれど瞬時に、克明に理解できた。この白い世界が持つ恐ろしさが知識よりも先に感覚で伝わってきた──。


「この瞬間、《万象万物場》の常在型効果が適用されたことで! フィールド上のオブジェクトは全て『ユニットとして扱われる』ようになるっす!」


「何──オブジェクトを、ユニットとして? いったいそれは」


 どういう意味だ、と困惑のままにアキラが問う前に。ニッと歯を見せたロコルは高らかに宣言を行った。


「《守衛機兵》をレスト・・・させて・・・! ダイレクトアタックするっす!」


 オブジェクトをレストさせる。これまた聞き慣れない文言に対し脳の処理が一拍遅れるアキラを待たず、機兵は命令された通りに稼働を始める。本来はガード能力しか持たないはずの彼はしかし、物体に命を宿す特別な空間から新たな力を与えられたことで攻撃能力まで手に入れている。守りにしか使われないはずのロッドを大きく振り上げて敵へ接近した機兵は、自身に設定された専守防衛のプログラムもなんのとそれを思い切り叩きつけた。


「ぐ……!」


 プレイヤーを守るべくそこへ割って入ったライフコアの一個が粉砕され、光の粒子を残して消えていく。オブジェクトにライフを削られた! 通常ならあり得ない不可思議な現象、けれど確かに目の前で起きたその事実にアキラは目の回るような想いを抱かされる。


「ユニットとして扱う、っていうのは……こうやってアタック権を得るってことか!」


「その理解でいいっすよ──だけど注意点があるっす。機兵の攻撃に【守護】を持つ賢人が反応できなかったことから察しもついているだろうっすけど。ユニットとしての扱いを受けていてもオブジェクトはオブジェクト。『通常のバトルは発生しない』っす。なんで、守護者でもオブジェクトのアタックをガードはできないっす。例外としては《万象万物場》の効果でユニット扱いされている同士……つまりはセンパイの場にオブジェクトがあれば、それをレストさせることでガードが可能っすよ」


「……なるほど。オブジェクトが得るのはアタック権だけでなくガード権も、なんだな。そして通常のルール通りアタックのためにレストしていたなら相手ターン中のガードは叶わないと」


「ふふ、正解っす。ただし、ユニットとしてのガードと《守衛機兵》が持つ『相手ユニットのアタックを止める』効果は別物っすから、レストしていてもそっちの能力は問題なく発動できるんでそこもご注意を」


 ユニットとしての力を得ていてもオブジェクトとしての能力を失くしたわけではない。そう知ったアキラがレスト状態にある《守衛機兵》を見やれば、彼は確かに疲労レストしていてもその機械で出来た瞳部分をいやにギラギラとさせているではないか。


「むむ……なんだかずるいな、それは」


「あ、それからちなみに。ユニット扱いオブジェクト──長ったらしいんでユニジェクトと呼称させてもらうっすけど、ユニジェクト同士のバトルではパワーの比べ合いは起こらないっす。比べるパワーを持ち合わせてないんでそこは当たり前っすね」


「パワーを比べないって、それじゃバトルの勝敗はどうやって付けるんだ?」


「全部相打ちっすよ。【復讐】持ち同士のバトルみたいに、全力でぶつかり合ったをお互いを修復不可能なぐらいに壊して終わる……そこに一方の生存はないっす」


 それがオブジェクトとオブジェクトの戦いである。と、ロコルは説明をそう締めた。



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