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387.目に見える違和感

 光に包まれた《深山の案内人》の姿が立ちどころにフィールドから消える。それに伴ってファイトボードに置かれたカードがデッキへと戻り、その代わりとしてアキラの手には新たなカードが握られた。デッキが自動シャッフルによる音を立てる傍らで彼はその一枚を盤面へと繰り出す。


「デッキに戻った《深山の案内人》のコストは3! そのプラス2、コスト5以内の『森王』ユニットをデッキから召喚できる──俺が呼んだのは、こいつ! 《森王の賢人》だ!」


 《森王の賢人》

 コスト5 パワー5000 【守護】


 メキキっ、と地中の根が軋むような《守衛機兵》よりも遥かに鈍重な足音を立てて。鬱蒼と茂る木々の奥から広場に姿を現わしたのは、人型ながらに決して人ではないユニット。背の高い樹木すらも追い越すような上背を持った、逞しい肉体をした化け物であった。機械仕掛けの可変式ロッドで武装する機兵に対してこれぞまさしく「こん棒」と呼ぶべき木製の巨大な武器を握り締めるその腕は、剥き出しの暴力が形になったような見かけをしている。


「これが、森王っすか!」


「その一体だ。森王とは聖域を守る強大な主たちのこと。賢人はその中の参謀的なポジションってところかな」


「さ、参謀」


 この見た目で? とロコルは唖然とする。賢人という名に反して彼の外見はどこからどう見てもバリバリの武闘派である。考えるよりも殴った方が早い、などと脳筋なセリフがこの上なく似合う……だがそれはあくまでも身体的特徴だけを見た場合で、賢人の眼差しはまさしくその名の通り高い知性を感じさせる静かなものであることにロコルは気が付いた。


「賢人の登場時効果を発動! こいつが場に出た時、相手のフィールドのユニット一体を手札へ戻し! そしてその後、相手プレイヤーは自身の手札をランダムに一枚捨てなければならない!」


「っ、バウンスとハンデスの畳みかけとはやってくれるっすね……!」


 ロコルの《守衛機兵》が防ぐのはあくまでユニットのアタックである。効果破壊や墓地送りといった除去にまでは手が回らない。それはバウンスに対しても同じで、賢人の効果に対して機兵が出る幕はない。これは機兵の落ち度というよりも賢人の能力が優れているのだと評すべきだろう──元よりバウンスとは対策の難しい除去法であるために、仮にロコルが追加で出したのが《守衛機兵》以外の何かであったとしても賢人を止められたかは怪しいところだった。


(標準的なスタッツかつ【守護】持ち! それでいてこの効果、となれば納得っすね──ビーストを封じられてもセンパイが大してしょげない理由としては充分な性能っす)


 つまり《禁言状》を今すぐにどうにかできなくとも、戦線を繋ぐには『森王』の力があれば事足りるという計算なのだろう。それに適したエリアカードも既に展開していることだし、そうやって盤面を互角以上に保ちつつ《マガタマ》共々に《禁言状》を破る手を用意する。アキラはそういう算段を立てており、そしてそれを実現できる自信もあるのだ。だから彼のオーラはこんなにも波に乗っている。そうロコルが理解したところで。


「手札へ戻すのは、もちろんロコルの場の唯一のユニットである《ロストボーイ》! それからその五枚の手札の中から一枚を墓地へ捨ててもらおうか!」


「くっ……、」


 賢人が空手の方の腕を振るって突風を起こせば、《ロストボーイ》は小柄な身を舞い上がらせてフィールドから退場。ファイトボードから弾かれたカードが勝手にロコルの手札へと戻り、直後につむじ風に変化した賢人の起こした風が彼女の手元を襲う。バシンッ! と耐え切れずに手札から飛ばされた一枚はまるで狙ったかのようにたった今カードへ戻された《ロストボーイ》であった。


「う……これじゃあ召喚し直しての再利用もできないっすね」


「俺としてはどうせなら別のカードを落としたかったところだけどな」


「おっとと、これだけ荒しといて情報アドまで欲しがるなんて。センパイも立派にイヤらしくなったもんすね」


「当然だろ? 他でもないお前にそうなるよう鍛えてもらったからな」


 まあ、墓地で活きる類いのカードが落ちなかっただけラッキーだと思うとしよう。などと言いつつアキラは自身の墓地に触れて。


「こんな風にされたら厄介だもんな──『相手のフィールドからユニットが離れたこと』で墓地の《黒夜蝶》の効果を発動! 自身を蘇生させる!」


「!」


 《黒夜蝶》

 コスト2 パワー1000


 類似ユニットである《暗夜蝶》とは色味の違う黒を纏った一匹の美しい蝶。軽やかにフィールドを舞うそれを見ながらアキラは言った。


「守護者である《暗夜蝶》と違って《黒夜蝶》にキーワード効果はない。だけどその分、自己蘇生に『ファイト中に一度だけ』の制約もなくなっている。まあ一ターンに一度かつ自分ターンのみっていう《暗夜蝶》にはなかった制約もくっ付いてはいるけどな」


「……毎ターン出てくる使い減りのしないユニットってことっすか」


 なるほど、戦闘面の能力こそ皆無であってもそれだけがいいのであれば守護者である《暗夜蝶》にも劣らぬ優れたユニットだ……と認めつつも、ロコルには疑問があった。


 アキラが展開しているエリアカード《森羅の聖域》は場の『アニマルズ』が破壊されて墓地へ行く際、それをコストコアへ変換することで阻止する。《黒夜蝶》は名称通りに蝶型ユニットだがその種族はもちろん『アニマルズ』。墓地へ送られてこそ持ち味を発揮するこのユニットと《森羅の聖域》はどう考えたってミスマッチ。シナジーのないカード同士ということになる。


(聖域によるデッキからの直接召喚……俗に言う『リクルート』効果の発動条件は場の『アニマルズ』をデッキへ戻すこと。こういった効果にありがちな破壊や墓地送りじゃないのは、『アニマルズ』をコア化する第一の効果とシナジーがあり過ぎないようにというデザイン上の配慮に違いないっす。複数効果を持つカードが自分の能力だけで何もかも噛み合う、っていうのはよっぽどにとして作成されていない限りそうはないことっすからそこは何も不思議じゃないんすけど……)


 問題はそれを取り扱う側。プレイヤーたるアキラが《森羅の聖域》と明らかに食い合わせのよろしくないユニットを採用している、という点だ。


 デッキ内の一部の噛み合いの悪さに目を瞑った構築など古今東西のどこにでもありふれているだろうし、そんな構築にしなければならない事情というものも千差万別に転がっていることだろう。だとしてもデッキビルドとして美しくない、不恰好なそれであるのは事実。美観を抜きにしてもそのアンチシナジーがファイトのどこかでプレイヤーを苦しめることを思えば全ての「歯車」が規則正しく回るようにするのはドミネイターの義務であると言ってもいい。


 殊更にユニット間の連携が重要となる緑陣営をメインとして扱っているアキラがまさかそれをわかっていないはずもない……確かに彼のような天に愛されているとしか思えない運命力の持ち主は──エミルなどがそのいい例だ──往々にして常人の知識や一般的な理論を超えた構築を実戦に持ち込みがちだとはいえ。全種一枚ハイランダーというその極みのようなデッキで運命の一戦に臨んだアキラとはいえ、だからといって彼は常識や通説といったものを足蹴にしたり蔑ろにするだけの男ではない。


 ならば、この一見しての違和感とはつまり──。



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