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382.予感と予測と読み合いと

「俺はこれでターンエンド!」


 コアブーストを行なったアキラだが、増えたコアがレスト状態である以上はもはやこのターン中にできることもない。彼は《緑化》一枚のプレイだけに手番を終えてエンド宣言を行い、次はロコルの初ターン。


「自分のターン。チャージしてドローっす!」


 起動スタンドするものがないためにスタートフェイズにおいてチャージから入るのは先行プレイヤーと同じだが、後行プレイヤーには初ターンからのドローが認められる。それによって六枚となった手札を眺め、ロコルは少しだけ眉間にしわを寄せた。


 手札の内容があまり良くない。そこまで目に見えて悪い──例えば色事故が起きているだとか高コストが固まっていて何もプレイできないだとか──というわけではないのだが、直近の試合における初手と比べるとどうにも勢いに乗り辛い。アキラという強敵を相手には序盤からなプレイングをしたいところなので尚のことに満足とはいかない並びだ。だがまあ、仕方ない。既にフィールド上にはお互いのオーラが渦巻いて牽制し合っている。初手が悪いのはおそらくアキラのオーラに運命力を削がれているせいだろうが、こちらのオーラだってアキラに少なからず影響を与えているはずだ。


 直にぶつけ合う前からオーラ勝負は始まっている。これはオーラの総量、操作技術共に一定以上の高みにあるドミネイター同士が対峙すれば必然のことであった。


 思い切ったプレイができない分、やれる範囲で堅実にいく。その慎重さも悪くないだろうと思考を切り替えてロコルは口を開く。


「アクティブフェイズに入る、その前にディスチャージ権を行使するっす。ライフコアをコストコアへ変換!」


 損失補充ディスチャージ。ライフコアのひとつを犠牲にコストコアか手札のどちらかを補充する権利。後行プレイヤーが先んじて切れるそれを早速に使用したロコルはコストコアを増やすことを選んだ。手札よりもコアを優先するのは定石通りの行動でなんら珍しいものではないが、無論のことロコルは単に定石だからと無思考でそれを選択したわけではなく。


「溜まった2コストの内、まずは1コストをレストさせてこのカードをプレイするっす──無陣営ユニット《ロストボーイ》!」


「! そのユニットは」


「お、センパイもミライちゃんとのファイトを見てくれてたみたいっすね。なら効果はご存知だろうっすけどちゃんと説明させてもらうっすよ。《ロストボーイ》は相手がパワー1000以下のユニットを召喚した際、自身を犠牲にすることでそのユニットを墓地送りにできるっす」


「しかも登場時効果持ちであってもそれを発動できずに、だったよな」


「その通りっす。一応言っておくと《ロストボーイ》はセンパイが序盤に行うプレイング。種族『フェアリーズ』を始めとした小粒なユニットたちでアド稼ぎしていくのを邪魔するために投入したカードっすよ」


「なるほど、最初からそのつもりで……道理で俺にはキツいはずだな」


 ミライ戦でその能力を知った際から薄々とそうではないかと思っていたアキラだ。それが正解だと知って驚きこそしなかったが、しかし焦りはあった。想像以上にロコルはこちらのデッキに対してアジャストさせてきている。これは覚悟していたよりも戦りにくいファイトになりそうだと内心で冷や汗を流したところで。


「残りの1コストを使ってこいつも場に出しておくっす。無陣営オブジェクト《マガタマ》を設置っす!」


 ころん、と軽い音を立ててロコルのフィールドに現れたそれは、名の通りに特徴的な曲線と穿たれた穴の目立つ勾玉そのものだった。場に置かれたからには何かしらの効果を発揮するだろうと待ったアキラだが、しかし《マガタマ》はうんともすんとも言わず。首を傾げた彼にロコルは笑いかける。


「知ってるっすか? センパイ。勾玉と言えば古代の人たちが重宝した装身具。材料として思い浮かぶのは瑪瑙めのうなんかが一般的っすけど、でも元々はに穴を通して身に着けていたらしいっすよ。その意味は狩った獲物の力をその身に宿すためだったとか……それが転じて祭祀用の道具になったっていうのが有力な説っす」


「…………」


 突然始まった講義。ともすれば場違いにも思えるそれの意図を、アキラは察している。


「自分も古代に習おうと思うっす。獣の牙を折る。センパイに勝つっていうのはつまりそういうことっすよね?」


「そうだな、ロコル。だけど折れないからこそ獣の牙は不屈のシンボルなんだぜ。たとえそのデッキが俺のデッキに対してどれだけ完璧な対策を有していたとしても! そう簡単にいくとは思うなよ」


「OK、ファイト中のセンパイらしい返事で自分も嬉しいっす。それでこそ勝利のし甲斐がある……自分はターンエンドするっす!」


 少量のコストコアでやりくりをしなければらないファイト序盤はどれだけ効率的にプレイしようとも使えるカードに限りがある。最軽量のユニットとオブジェクトを並べるだけに留まったロコルは──それでも一ターン目の展開としては十二分だと言えるが──とあることに少々嫌な予感を抱きつつも手番を明け渡す。


「俺のターン、スタンド&チャージ。そしてドロー!」


 む、と引いたカードを確かめてアキラは小さく唸る。本当ならここで彼もディスチャージ権を行使し、溜まった4コストで中型相当のユニットを繰り出したいところだったのだが。パワー1000以下のユニットを封殺する《ロストボーイ》を乗り越えるためにもベストは間違いなくそれだったのだが、残念ながら思った通りのカードを引けなかった。近頃急速に戦績において安定感というものを得ているアキラは、引き運についても同様にファイトの序盤からでも、また多量のオーラを消費しなくても狙ったカードを引ける。そういうドミネイターになりつつあるのだが……今回に関してはその限りではないようだった。これは明らかに彼の身体に圧し掛かるロコルのオーラが原因である。


 そこでアキラには二択の選択肢が浮かぶ。彼は逡巡もなくすぐにその内の片方を選んでみせた。


「俺もディスチャージ権を使わせてもらう。ライフコアを手札へ変換する!」


「!」


 コストコアではなく手札を増やすという、ロコルとは反対の定石から外れたプレイ。それも一度しかディスチャージの許されない先行プレイヤーからすれば余計に重要なその選択で、迷いもなくアキラは手札を採った。


「それだけ引きを急いでいるってことっすか!」


 前述の通りに緑は陣営のコンセプトからしてコストコアのブーストに長けている。なのでディスチャージでコアより手札を優先させることも他陣営に比べて多少はやりやすく、よってアキラの選択はロコルからしてもある程度理に適ったものと見做せる──ただし。


「こっちこそそう簡単には引かせないっすよ」


 アキラが何を引きたがっているかは、わかっている。パワー2000以上かつ【好戦】ないしは【疾駆】のキーワード効果持ち。そういうユニットを欲しているのだ。それは無論のこと《ロストボーイ》に何もさせないまま排除するためであり、それからもうひとつ。おそらくはなるべく早くバトルを発生させたいためでもあるのだろうとロコルは予想していた。


(墓地の《黒夜蝶》が《暗夜蝶》とは異なる、けれど似たような条件で場に蘇るのだとすれば──これは充分に考え得ること。自分の予感は決して的外れではないはずっす!)


 こんな早い段階から緑の本懐たるユニット同士の連携。それを活かした連鎖的な展開を許してはいけない。そう抑え込みにかかるロコルと、それに負けじと撥ね退けんとするアキラのオーラの鬩ぎ合いが始まった。



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