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381.開幕、アキラVSロコル!

「先行は俺だな」


 自分の命核ライフコアが明滅したのを見てアキラは動く。先行プレイヤーは先に行動が許される代わりにドローを行なえないという制約ルールがある。それに従い、アキラはデッキからカードを引くことなくターンを開始させた。


「スタートフェイズにチャージをして、アクティブフェイズ。この1コストを使って緑のスペル《緑化》を詠唱する」


 デッキの一番上のカードをコストコアへ変換することをチャージと言う。チャージされたカードの陣営によってコアの色が決まり、カードのプレイにおいてはこの色合わせが必須である。最低でも1コスト分は対応した陣営の色を用いない限りユニットやスペルといったカードの種類にかかわらず使用が叶わない。手札にあるカードとチャージされたカードの色が揃わず何も行動できないことを俗に『色事故』と称しドミネイターからはひどく恐れられているが、運良くかそれとも構築の妙か、アキラのコアゾーンにチャージされたたった一個の魔核コストコアは緑陣営のスペルカードである《緑化》の発動に適した緑の光を放っていた。


(色事故の回避! 全ドミネイターが当然にクリアすべき基本にして永遠の課題……わかってはいたっすけど、さすがっすね)


 決勝の晴れ舞台。プレッシャーからいつもより固くなってしまってもおかしくない場面において普段通りの実力を発揮できるかどうか。とりわけメンタル面が重要視されるドミネファイトにおいてこの点は非常に重大だ──友人とのファイトであれば色事故なんて滅多に起こさない人物でも、負けられないと意識すればするほどにかえってそういった不運ものを引き寄せてしまうことが往々にしてある。それも含めての運命力であり、実力の一環として見做されるのがプロの世界で、そこを目指さんとするドミネイター全員の宿命でもある。だからロコルは感心したのだ。


(色に限らずセンパイが事故る・・・気がまったくしないっす。まるでその可能性が見えてこない──つまりは絶好調っすね!)


 元々、今日という日においてアキラの様子は明らかに好調であったが。しかしこの決勝でこそ彼のコンディションはピークを迎えているようだ。どれも激戦と評して差し支えないAブロックでアキラが見せた数々の試合、そのどれと比べても。どのアキラと見比べても、確実に今この時こそが『最高』。一枚のカードのプレイ、たったそれだけからでもロコルには重々にそれが伝わってきた。


「《緑化》は手札からカードを二枚捨てることでデッキからドローできるスペル。その効果により俺は一枚ドローして手札に加える……そして《緑化》の追加効果! 手札から捨てた二枚がどちらも緑単色のカードだった場合、その内の一枚をコストコアへ変換することができる。俺が捨てたのは《黒夜蝶》と《アーミーウォンバット》、両方ともに緑陣営のユニットだ。よって《アーミーウォンバット》の方をコアへ変換! ただしこの効果で増えたコアは疲労レスト状態でコアゾーンに置かれるため、即時に使用することはできない」


「……!」


 一ターン目からのコアブースト。緑陣営は確かにそれに長けた色ではあるが、《緑化》はそれだけでなくドローを行ないつつ更に墓地ゾーンにまでカードを溜めることのできる機能的・・・なスペルである。墓地とは必ずしもカードの墓場を意味しない。蘇生を得意とするだけに死したユニットが多ければ多いほど展開力が増す黒陣営を筆頭に、墓地利用の方法は各陣営に少なからず存在し、そしてカードプールの増加と共にその手段は日ごとに多種多様になっていっている。今アキラが墓地に「仕込んだ」ユニット、《黒夜蝶》もまたそういったカードのひとつである。能力の詳細までは知れずともロコルにはそれがわかっていた。


(初見っすけど、名称からしてほぼ間違いなく《暗夜蝶》のお仲間っすよね。自己蘇生効果持ちのあのユニットと似ているってことは《黒夜蝶》もそれに類した能力を有していると想定しおくべきっす……どこかのタイミングでおそらく蘇ってくると)


 とまあ、こうやって墓地へ捨てたカードひとつ取っても攻め手の一個として数えなくてはならない。それ故にコア、墓地、そして手札と一枚で三つの領域に作用を及ぼせる《緑化》は使われる側からすればイヤなスぺルなのだ。その作用の大きさの分、発動のためには手札を二枚も捨てねばならないコストとは別の重さもあるので、単に強力なカードというよりも活用できれば便利なテクニカルなカードだと評価するのが打倒なところだろうが……更に言えば、それをごく自然に使いこなしている様子のアキラはその点においても流石だと言えるが。けれどロコルは「アドバンテージを取られた」とは思っていない。


 否、正確には。

 一方的・・・にアドを稼がれたわけではない、と思っている。


(《黒夜蝶》だけじゃなく《アーミーウォンバット》の方もっす。どっちも自分の知らないカード。つまりは今までにセンパイが使ったことのないカードってことっす)


 少なくともロコルの見える範囲では、彼が使用するところにお目にかかったことのないユニットたちだ。種族こそ彼が愛してやまない『アニマルズ』であるのに違いはないようだが、《緑化》も含め初ターンに覗かせたカードが揃いも揃って未知の代物であるという事実は小さくない衝撃をロコルに与えた。


 決勝に合わせて、対ロコルを見据えてデッキの中身に変更を加える。それは確定だとして、では変更の『幅』はどれくらいか。そこが問題だったのだが。


(これは……自分の危惧の範囲を越えて、思いの外に大胆な変更かもっすね)


 その追加効果の条件から《緑化》は最近よく見られる単色構築を支援する類いのカードでもある。それを使っているということはもしかするとアキラは、最も使い慣れた緑・黒という彼にとっての基本構築とも言える組み合わせすらも崩している可能性がある。だとすればAブロックの決勝まで使用されていたデッキとはもはやまったくの別物だと思った方がいい。そこまでがらりと内容を変えてくるとは予想外だったロコルだが──しかし驚きこそあれど彼女に焦りはなく。


(大丈夫。緑かつ『アニマルズ』っていうセンパイらしさは健在。そしてセンパイがセンパイである以上──切り札がビーストユニットであることにも変わりはない。これは絶対のことっす)


 何故そこまで断言できるのかと言えば、知っているからだ。アキラがどれだけビーストというカテゴリを大切にしているか。特別に扱っているかを、ビーストを活かすための構築を一緒に考えたロコルだからこそ誰よりも理解できている。アキラが自分で組んだデッキにビーストを採用しないなど考えられない。ロコルの知る彼なら決してそれだけはできないだろう。


 構築に変更を加えるにしても変えられない、替えの利かない芯というものはあるはずだ。そもそもがビーストでファイトに勝つことを第一にしてドミネイターの道を歩み始めたのがアキラなのだから、過たず彼にとっての芯とはビーストカテゴリそのもの。つまり、デッキの支柱たる部分はロコルの知らぬカードへとすげ代わっていても、肝心要の主柱は変わらずそのままだろう、ということだ。


(《ビースト・ガール》を始めとしたセンパイの十八番たちは絶対に飛び出してくる……そしていずれは《エデンビースト・アルセリア》も)


 ビーストを糧に君臨するビースト。異次元の超獣たるあのユニットを呼び出されてはさしものロコルも苦しい。故に。


(悪いっすけど、そうはさせないっすよ。このファイトでビーストたちには一切・・の活躍をさせないっす!)



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