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363.周到な攻めと気力の守り!

 言葉を紡ぎながらエミルは、自身に手札の三枚──それらは先のオベリスクの効果によって回収されたカードたちであるために内容が判明している──の内から二枚を選び、そしてそれを墓地へと捨て去った。


「!?」


「《レッドバレーの失せ物追い》の効果。登場時に手札を二枚捨てることでこのユニットは【疾駆】を得る」


「条件適用の【疾駆】ユニット……!」


 3コストで呼び出せるパワー2000の『アイアンスミス』。という赤のユニットとしては少々物足りないながらに決して悪くはないスタッツをしている失せ物追いの真価は、しかしやはり低コストでありながら【疾駆】を持つことにこそあるだろう。速攻を可能とするためには安くない代償も支払わなくてはならないものの──されど「手札二枚」という追加コストを、エミルは逆に利用しようとしている。マコトにはそれがわかった。


「へえ、その目。捨てた瞬間にカード名を読み取ったね? いい眼力だ──ここからの展開まで瞬時に察せられた点も含めて、いやはや。やはり若い子の成長力は凄まじい。容易く一足も二足も飛び越えていくものだね」


 如実に変わったマコトの様子を見て嬉しそうにしながら、その身からドミネイターの闘気オーラを揺らめかせながらエミルはプレイを続ける。


「手札を捨てたことで条件クリア。失せ物追いは【疾駆】ユニットとなり、これで即座のアタックが可能だ。とはいえ君の場には【守護】と【復讐】を合わせ持つ《紫毒鰭のクインマンタ》がいる。このまま無策に突っ込ませても相打ちを取られるだけ。残念ながら君のライフには届かない……他の一手・・がないことにはね」


「っ……、」


「そう、そこで活きてくるのが失せ物追いの効果で捨てたこの二枚。スペルカード《噴出》とユニットカード《根こそぎの巨人》。除外ゾーンから手札を経由して墓地へ戻ったこれらで何ができるのか。それはもう既に見せたことだからよくおわかりだろう」


「……《噴出》は自身を墓地から除外することによって、1コストでユニットを蘇生召喚できる。その条件として蘇生対象と同名のユニットカードも共に墓地から除外しなければなりませんが……」


 いつでも使える効果ではない──より有効的な活用を狙おうとすればかなり難度の高い、癖のあるカードだ。三通りの効果を持つスペル。そこに惹かれて採用したとて、手打ちと即打ちの効果はともかくとして墓地効果に関しては結局一度も使わずにファイトが終わることだって珍しくないだろう。


 けれど彼に限ってそんな手落ちはあり得ない。


 準備は万端だ。たった今失せ物追いの効果で捨てられたことで現在エミルの墓地には二枚の《根こそぎの巨人》が眠っている。更に彼がこのターンに使用可能なコストコアも丁度あとひとつだけ残っている。ここまで状況が整っていれば。整えられてしまえばエミルが何をしようとしているかなど火を見るよりも明らかであった。


「墓地の《噴出》を除外し、1コストを支払うことで効果発動! 墓地のユニットを除外することでそれと同名のユニットを墓地より蘇生召喚する──私が指定するのは当然! たった今捨てた《根こそぎの巨人》! 一枚目の巨人を除外して二枚目の巨人をフィールドへ呼び戻す!」


 《根こそぎの巨人》

 コスト7 パワー3000 QC 【重撃】


「……ッ!」


 地面から生えるようにして再び姿を現わした巨人をマコトは睨む。この異様をこうして仰ぎ見るのも三度目のこと。だからとて親しみは湧かないが、いい加減に巨人が醸す恐ろしげな雰囲気にも慣れてきたようだった。しかし如何にその風貌や気配に驚きこそしなくなったと言っても、彼が出てくるたびに起こる被害・・については慣れようがなかった。


「《根こそぎの巨人》の登場時効果を発動──相手フィールドのユニット一体を破壊し、そのパワーを自身のパワーに加算する! 破壊対象は勿論|《紫毒鰭のクインマンタ》だ!」


 巨大な一撃タイタンズ・ノック! 三度目の発動にして初めて明かされる巨人の技名。それを聞く暇もなく大きく太い怪腕が振るわれ、マコトのフィールドへ。より正しくはそこにいるクインマンタへと叩きつけられた。「どちゃっ」という呆気のない水音が立つ。たったそれだけを残してクインマンタはこの世から消え去ってしまったようで、巨人が掌を上げてもそこにはもう何もなく、誰もいなかった。


「クインマンタ圧殺撃破! これによって《根こそぎの巨人》はクインマンタのパワーを吸収する! と言っても──」


 《根こそぎの巨人》

 パワー3000→4000


「──たったの1000。パワーアップと銘打つには憚られる上昇値でしかないがね。だがとしては充分だ」


「そうでしょうね。なんと言っても《根こそぎの巨人》を復活させたのはパワーの吸収が目的ではなく、わたしの場から【守護】持ちのユニットを排除するため。速攻能力を得ている《レッドバレーの失せ物追い》のダイレクトアタックを通すためなのだから」


 イグザクトリィ、とウインクを向けながらエミルは頷く。絶妙に腹の立つ仕草に──また彼の見目麗しさにキザな態度がよく似合っているだけになおのことムカつく──これもまた「くだらないことに気勢を削がれないか」という試験なのか、あるいはまったくそれとは関係ないエミルのなのか悩ましく思いつつ、マコトはそんな彼に自分もまた頷きを返して。


「いいでしょう。クインマンタを獲られたことでわたしの場はガラ空きに戻った……失せ物追いを止める手段が失われた。甘んじてその一撃を受け入れようじゃありませんか」


「ほう、随分と冷静なのだね? 次のアタックが通れば君のライフは残り一になる。私のライフを下回る敗北の間際へと追いやられるというのに」


「でも、一残る。ゼロではない……敗北が決まったわけではない。だったらそれこそ充分です」


 初めてのオーラが搭載されたアタック。それに耐えて引いてみせたクイックユニットの守護者を、しかしあっさりと葬られたこと。奮闘も虚しく追撃を許してしまうことは、素直に悔しく思うが。だが許してしまったものはしょうがない。四の五の言ってもどうにもならないのだから、それだけエミルの腕が良いのだと認めて『次』へ備えなければマコトの勝機は完全になくなってしまう。


(実際、途轍もないプレイングだとしか言いようがない。《真っ赤な奔流》から始まりワイバーンと失せ物追いによるトリプルブレイクに至る、それまでの間に《噴出》と巨人を再度墓地へ仕込んでの追加の除去まで用意する。入念かつ周到、そして赤陣営とは思えないほどに複雑な戦い方をああも涼しい顔で……)


 同じ真似はできない。自分には無理だと、そこは認めて。認めることで思考を切り替えて次の機会を──すなわち失せ物追いのブレイクで訪れるクイックチェックのチャンスを此度も逃さない。おそらくまたオーラが搭載されるであろう一撃に耐え切り、反撃の糸口となるカードを掴む。それが大事になってくる。


「クインマンタを引いてみせたように、次のブレイクでもクイックカードを引き込むと。既にその決意が成っているわけだね。ああ、必ずや引けるだろう。今の君なら、今の君のオーラならそれは決して難しいことじゃない──ただしそれは、次の一撃が先の一撃と同様の重みしかなければの話だがね」


「……!」


「言ったろう、試練だと。余裕綽々に耐えられるようではなんの意味もない。君の変化に合わせ、成長に合わせ。私もまた尺度足り得るように調整はするさ。『少しだけ』のオーラに更に『もう少し』上乗せさせてもらう。さて、それでも観世くんは可能性を掴めるかな?」


「掴みます」


 少女の勇敢なりしノータイムの返答。それを聞いたエミルは、宣言通りその身から発せられるオーラの量をもう一段階引き上げた。



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