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35.実技テスト! 若葉アキラの不調

 長めの昼休みが終わり、指定されたファイトルームに集合した新入生一同。学食で一緒に昼ご飯を食べた流れのままコウヤ、ミオと共に他の生徒に混ざってアキラは授業の開始を待っていた。すると一時ぴったりにやってきたムラクモが──女性教員ジアナも引き続き同伴している──全員を見渡せるルーム内の壇上へ立ち、例の如くに淡々と言い放った。


「揃っているようだな。午前では座学のテストだったが、午後からは実技面を測らせてもらう。知識だけでなくプレイングの腕が落ちていないかも見なければ測り直しの意味がないからな……まあ、ファイトルームに呼び出されている時点で諸君らも何をさせられるか察しくらい付いていただろう。身構えはできているものと見做して早速始めさせてもらう」


 ムラクモが口にしたのは本試験で行われたのと似たような形式での、生徒同士のランダムファイトによる実技テスト実施であった。彼が言ったようにそれを予想していた者は多かったようで、驚くでもなく素直に自身のデッキを取り出す周囲の生徒たちを見て慌ててアキラもそれに倣った。そのわたわたとした様に「まったく予想できてなかったんだな」とミオは呆れ、コウヤは苦笑する。


「対戦相手はこちらで選ぶ。ジアナ先生と保全官の指示に従うように」


 その言葉を皮切りに広い第一ファイトルームの各所でファイトが始まった。ミオとコウヤもそれぞれの相手の下へと案内され、一人取り残されたアキラが次々始まるファイトの中でなんとなく居心地の悪さを感じていると、間を置かず彼も呼ばれた。


「お待たせしましたアキラ様」


「アンミツさん!」


「私がご案内いたします。どうぞこちらへ」


 初日の授業の場に居合わせているだけだけでなく、こうして案内にまで付き添う。アンミツの「アキラを世話することが役目である」という発言は少々大袈裟な物言いではあっても決して誇大なものではなかったようだ。全生徒を隈なく補助することが仕事ではあっても、彼女ら黒服は一人一人に主要で見る生徒が設定されているらしい──アンミツの場合はそれが自分なのだ、とアキラは理解した。


 他にも彼女が目をかけている生徒はいるのかもしれないが、少なくとも今のところはほぼほぼアキラに付きっ切りである。


「あちらの彼がアキラ様の対戦相手となります。ご武運を」


「あ、ありがとうございます」


 恭しく礼をして下がるアンミツに自分も頭を下げてから、フィールドを挟んで男子生徒と向かい合う。無表情だが迫力に満ちた様子に、彼のファイトの準備が既に終わっていることを悟りアキラもまた無言でデッキをファイト盤の上に置いた。


(見るからに手強そうな子だな……DAに受かっているんだからそれは当然か。だけど俺だってそこは同じ。何戦するのかはわからないが、とにかくまずは一勝をあげるぞ!)


 まるで目を逸らしたり臆した方が負け、と言わんばかりにアキラは相手と睨み合いながら命核ライフコアを七つ展開、手札が五枚になるようにドロー。先行を決めるライフコアの瞬きは相手側に起こった。


「「──ドミネファイト!」」



◇◇◇



「それで、見事に三連敗ってわけ?」


「うん……」


 互いに三戦を終えて、他の生徒たちのファイトを眺めながらの小休憩。合流したミオと話すアキラの肩はがっくしと落ちていた。それもそのはず、一戦目の相手にギリギリで競り負けたのを皮切りに、続く二戦目と三戦目でも惜しいところで勝利を逃してしまったのだから。他の生徒に比べて実技テストへの心構えができていなかった。その点では確かに後れを取っていたアキラではあったが、しかしそんなことは連敗の言い訳にならないしできない。だから彼は落ち込んでいるのだ。


「三戦ともここぞっていう時でミスしちゃったんだよな……どうしてだろう? 本試験ではこうじゃなかったっていうのに」


 大切な場面でのドローやクイックチェックが上手くいかない。適切だと思ったプレイが裏目に出る。本試験ではなかったそういう細かい不調に、今日のアキラは大いに悩まされていた。コウヤとのファイトで強く感じた、あのデッキとの一体感。それが先の三戦ではまったくといいほど感じられなかったのが彼にとっては特に気掛かりであった。


「それはアキラの気が抜けてるからでしょ」


 授業中だというのに美味しそうに棒キャンディを口内でころころと転がしながら、あっけらかんとミオはそう言い切った。その言葉にアキラは目を丸くさせて、それから少しむっとしたように。


「俺の気が抜けてるって? そんなことはないよ、むしろ今は気合が入りまくってるくらいなんだから」


 昨日は父と母からの激励を受けて家を出て、今朝だって授業初日を頑張るべく張り切って部屋を出たのだ。客観的に見ても今の自分は気合充分……そのはずだ。そこに油断や慢心なんて微塵もないと語るアキラにミオは「それはそうかもだけど、そうじゃなくってさ」と言いながらぐいっと顔を寄せた。彼の口から甘いイチゴのフレーバーが漂いアキラの鼻をくすぐった。


 思わず仰け反って距離を取りつつ、訊ねる。


「な、なに?」


「……うん、やっぱり。その顔つき、どー見ても気が抜けてる。ていうか『浮かれてる』って感じ? そのせいで気合も空回りしてるんじゃないの? だからファイトの流れを掴めないんだよ」


「浮かれてる……」


「そ。DAに受かったこと。新しい環境での生活。これまでとはまったく異なる授業に教師に生徒ライバルたち……そういう諸々にアキラは浮足立っているんだ。ボクから見ても今のアキラは全然違うもん。本試験ではもっとヒリついてたよ? それをボクは他の受験生よりもずっと怖い・・って思ったんだから」


 ファイトの直後だというのに、今のアキラにはその怖さが一切感じられないとミオは言う。それにアキラは愕然とした──否定できない。張り切って初日に臨んでいるつもりではあるが、しかし本試験に挑んだ際と同じだけの緊張感を持ってやれているかというと、必ずしもそうとは断言できなかった。


 要は今の自分はドミネイターとして研ぎ澄まされていないのだ。そのせいでファイトの感覚が鈍り、デッキとのコミュニケーションも万全に取れず、結果としてプレイングや運命力にも陰りが出ている。それが三連敗の原因であるとすれば、アキラとしても非常に納得がいく話だった。


「ボクはかるーく三連勝した。そしてほら、コウヤもこれで三連勝だ。ボクたちは本試験と変わらず研ぎ澄まされている。いや、あの日よりも更にだね」


「……!」


 ファイトに勝利したコウヤが拳を高く突き上げる様を見て、アキラは思う。目標にしている彼女はあんなにも遠い。たった一度運良く勝てたからと言って、やはりコウヤと自分の差は歴然である。隣の飛び級少年も同じくだ。共にDA生、ながらに決して同格などではない。その自覚は元からあったはずだろう──ならば「まずは一勝」などと軽く言えてしまえるのはおかしいではないか。


 なにがなんでも勝つ。そのくらいの意気込みでいなければ、ライバルたちに差をつけられるばかりだ。


「ん……いい顔になってきたね。ちょっとだけ怖さが戻ったよ、おにーさん」


 こっちだよー、とファイト終わりのコウヤに手を振って合流を促すミオ。その横で真剣な顔つきで自らのデッキに触れていたアキラの耳に、再びムラクモの声が届いた。


「全員三戦したな。各々最低でもひとつは白星を挙げていることと思うが……残念なことにこの中に二人・・、まだ一勝もできていない生徒がいる。──若葉アキラと新山チハル。俺の前に来い」


 突然の呼び出しにハッと顔を上げれば、壇上のムラクモの目が鋭くアキラを射貫いた。


「喜ぶといい。DA生の名折れと言っていいほど情けないお前たちには、俺が『特別なファイト』をさせてやる」


 いつも以上に温度を感じさせない彼の言葉に、アキラの背筋にゾッと冷たいものが走った──。



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