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348.攻めあるのみ、マコトの気概!

 静止したワイバーンなどそこらのトカゲも同然。そう言わんばかりに巨人が組んだ腕を振り下ろす。二本の巨木が絡み合ったような質量を持つアームハンマーの一撃により、明らかに背骨が曲がってはいけない方向に曲がってしまったワイバーンは断末魔の声すらろくに出せずに撃墜された。


「巨人のパワーは3000、ワイバーンは10000。力の差は歴然だが効果破壊にパワーの差は関係ない。更に巨人は倒したユニットが強力であればあるほどに自身を強くする!」


「っ、」


 不可思議な怪力によって抵抗もできずに地に墜とされたワイバーン。そこへすかさず巨人の足裏が降ってきて、消えかけだった命を完全に抹消。その血しぶきから巨人は新たな力を得る。


 《根こそぎの巨人》

 パワー3000→13000


「まだエンドフェイズを経由していないために《死に物狂いのワイバーン》のパワーは10000のまま、よって《根こそぎの巨人》は10000のパワーアップ! ワイバーンを上回る甚大の怪物となった!」


「くっ……」


 リヴァイアサンを超えるワイバーン、を倒したことで更に超えた巨人。その圧巻の13000という数値にはさしものマコトもプレッシャーを感じ、表情を歪める。なんと言ってもワイバーンと違い巨人にはターンを跨ぐたびの弱体化など起こらない。それでいてワイバーン以上のパワーを得ているのだから尋常ではない。巨人もまた【重撃】を持つダブルブレイクが可能なユニットだという点も含めてマコトからすれば脅威以外の何物でもなかった。


「せっかく奪ったワイバーンも都合のいい餌にされてしまった、ということですか」


 考えたくもないことだが、こうなることも想定しての《根こそぎの巨人》の採用だとしたら……無論ただの考え過ぎだとは思うがしかし、決してそれを否定しきれないのがエミルという男であるために、やはりそのデッキビルド能力は計り知れない。ワイバーンは言わずもがな、巨人だって使いにくさのあるカードだ。なのにそれらがこうもエミルの下で生き生きと暴れてマコトの盤面をかき混ぜて狂わせる。一から十まで掌の上とでも言うのか。そんなことはない、と信じたいが──。


「そう険しい顔をしなくてもいいだろう。こちらだって敵に回ったワイバーンを切り捨てているんだから無被害ではない。それに、言ったように残りライフに乏しい現状だ。敵のままにワイバーンを放置なんてしたら敗北待ったなしなのだからどうにか手を打つのは当たり前じゃないか」


「よく言いますね」


 仮にワイバーンを放置したとしても、エミルにはクイックチェックというピンチを脱する最善の手段が残されている。それで一度目の《根こそぎの巨人》を呼び寄せた先ほどのようにまだ見ぬクイックカードでマコトの攻め手を止め、ライフアウトを防げていた算段は高い──どれだけ彼の引き運を完封しようとマコトが意気込んだところで、ほんの少量のオーラでそれを「斬り伏せて」しまえるエミルの技量は既に証明された通り。本当にライフコアが尽きる危険性があったならば彼は再びなんとしてでも……否、必要なカードを引き当てていたことだろう。


 その場合はそうなった上で墓地の《噴出》は温存されていたことになるのだから、ますますもってマコトが勝ち切れていたかは怪しいところだ。ブレイク数こそ数の上では足りてはいてもそれが机上の空論の終わっていた可能性が大いにある。そのことがわからぬマコトではない。故に彼女には、追い詰められたので仕方なく《噴出》を用いたのだというエミルの主張が単なるおためごかしにしか聞こえなかった。


「心にもないことを吐く口には耳を傾ける価値がない……もちろん、返す言葉だってありません。今度こそ何もすることがないのであればターンを終了してもらえますか」


「ははあ、つくづく嫌われてしまったものだね。もっとも、会話すら嫌になったのならその理由は私の『心にもないセリフ』ではなくもっと別にあるのだろうがね」


「…………」


「わかったわかった、手番を移そう。私はこれでエンドする。君のターンだ、好きにしたまえ」


 言われなくても、と心の中だけで吐き捨てるように返してマコトはデッキの上へ手を伸ばす。


「わたしのターン、スタンド&チャージ。そしてドロー!」


 ワイバーンにふたつもコアを削られたせいでライフの有利はほぼなくなってしまったが、相も変わらず手札の枚数では倍するだけの差がついている。マコトが六枚に対しエミルは三枚……ブレイクしてしまえばクイックカードを引かれなかったにしても手札を増やさせてしまうのが懸念と言えば懸念だが、それを恐れていてはドミネファイトには勝てない。リスクを承知でリターンを得に行けるかどうかが勝敗を分ける。そういう度胸なくしてドミネイターは務まらない、だから。


「攻めさせてもらいますよ。何度防がれようと、何度反撃を食らおうとも──このライフある限りは止まらない」


「!」


「スタートフェイズを終えてアクティブフェイズへ移行。この開始時に墓地にいる《回遊するリヴァイアサン》の効果が発動──リヴァイアサン、再復活!」


 《回遊するリヴァイアサン》

 コスト8 パワー8000 【好戦】 【潜行】


 またしても墓地よりフィールドへと舞い戻るマコトのエース、リヴァイアサン。金切り声の雄叫びを上げて復活の号砲とした彼は、すぐに敵陣の巨人の存在に気が付き臨戦態勢を取った。一度殺し合った怪物同士が再び対峙し、場には筆舌に尽くせぬほどの緊張感が張り詰めた。


「回遊の名の通り往復には限りがないか……だが、この状況では復活したとてリヴァイアサンに何ができる?」


 如何に【好戦】持ちで巨人へのアタックが可能だからといって、先と同じようにそうしてしまえばリヴァイアサンが一方的に葬られるだけ。何せ此度の巨人はリヴァイアサンなど物の数ともしない高パワーを得ているのだから、相打ちでアドが取れた先ほどとは似た状況のようでいてまったく異なっている。


「何ができるか? いいえ、それは考え方が違う。リヴァイアサンはまだ何もしなくていい……何もせずともただそこにいるだけでわたしのエースは意義を生む」


「ほう?」


「お見せしましょう。まずは3コスト使って《咎血トガチクラゲ》を召喚」


 《咎血トガチクラゲ》

 コスト3 パワー1000 【復讐】


 ふよん、と半透明の身体を震わせてマコトのフィールドに浮かぶ青白いクラゲ。その部分から伸びる触手の先には大きく鋭い針があった。


「『シーゴア』の低コスト【復讐】持ちユニットか」


「だけどその能力が活かせるのは次のターン以降。今はまだ《咎血トガチクラゲ》にもできる仕事はない……そう考えているのならそれも間違いです。続いて4コストでこのスペルを発動、《海中の嵐》!」


「《海中の嵐》……!」


 ご存知でしたか、とエミルのカード知識の広さにほとほと呆れるように、されどそれ以上の攻め気をもってマコトは言う。


「《海中の嵐》はわたしの場に種族『シーゴア』ユニットが二体以上いる時のみ詠唱可能なスペル。その効果は自軍の『シーゴア』ユニットが持つキーワード効果を全体で共有するというもの。つまり!」


「つまり【復讐】持ちの《咎血トガチクラゲ》の存在により、同種族であるリヴァイアサンと古鯉も【復讐】ユニットとなる」


「ザッツライト。ですよ、九蓮華先輩」


 意趣返しも兼ねてそう返したマコト。主人の意気が高まるのに呼応するように、彼女の場の三体のユニットもまた結束の下に強化を果たした。



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