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342.青と赤の鬩ぎ合い!

「鉄屑浚い撃破! リヴァイアサンが新たにユニットを破壊したことにより、わたしは追加でもう一枚ドローします。これでわたしの手札は六枚」


「リヴァイアサンと大量除去を可能にするスペルのコンボ……これはこれは、かなりの破壊力だね」


 一方的な虐殺を行ないながら連続ドローまで付いてくるのだから、やられる側はお手上げのコンボだ。リヴァイアサンが【好戦】持ちであることと素のパワーが高いことを最大限に活用した戦い方。これにはエミルも素直に舌を巻くしかない。【好戦】も《リキッドミーティア》が与える効果もあくまで対ユニットのためのそれなので、戦線の壊滅に続いてエミル本人が襲われる心配こそないが……残り少ないライフを更に削られてしまう恐れこそないが、だが呼び出したばかりの三体のユニットを失ったというだけでも被害としては甚大もいいところ。加えて──。


「リヴァイアサンと相性のいいカードは《リキッドミーティア》だけではないんだろう。復活効果まで兼ね備えている上に、こういったコンボも複数用意されているとなると──なるほど、なんとも厄介なユニットだ。君がそう仕立てている。切り札を切り札らしく運用する術に、練度を感じるよ。君は本当に《回遊するリヴァイアサン》を信頼しているんだね」


「……もちろん。わたしはリヴァイアサンを信頼していますし、使わせたら右に出る者はいないと自負もしています。何故ならこのデッキは授業や先の試合で使っていたものとは違う、わたしの本気が詰まった代物。ミライを支えるためにどうしてもファイトに勝つ必要がある、そういう時にのみ使うと決めた本命デッキなんですから。──あなたのお遊びのデッキくらい蹴散らせなくてどうします」


「はは、蹴散らすとは大きく出たものだ。とはいえ鎧袖一触の文字通りに盤面を崩されてしまった身としては言い返す言葉もない」


「でしょうね。反論がおありならどうぞ、口よりも手で。ドミネファイトの腕で示されたらいい」


 そうしよう、と飄々と頷くエミルの笑みは未だ消えない。ファイト前から常に浮かんでいる薄ら笑いがその顔からなくならない──ライフコアの数でも手札の数でも上回り、フィールドにだって彼を守るユニットはいない。そんな状況を作り出したリヴァイアサンにねめつけられながら、それでもまだ。どこまでもただ楽しそうに笑う。エミルには余裕がある。己の勝利をまるで疑っていない、そのことが佇まいにありありと現れている。


「ならばずっと笑っているといい。命運尽き果てるその時まで、ずっと……わたしは残った2コストを使い《怪魚リザーリオン》を召喚」


 《怪魚リザーリオン》

 コスト2 パワー2000 【潜行】


 マコトの場に新たに現れたのは、ビチビチと忙しなく身体を跳ねさせる派手な原色のあしらわれた魚だった。インパクトで言えば横にいるリヴァイアサンの巨体には遥かに劣るものの、小さな身でありながら動作の力強さは一丁前。ピラニアのそれに似た鋭く細かい歯をがちがちと打ち鳴らす様からは意欲を見る者に感じさせる──敵を食い殺さんという絶大な意欲を。


「リザーリオンは固有の能力を持たない至ってノーマルな『シーゴア』ユニット。ですが【潜行】のキーワード効果を持っていてスタッツも標準的な、いつ呼び出しても間違いのない非常に扱いやすいユニットです。デッキ作りは尖らせるばかりでなく、時にはこういった小さくもどんな型にだってハマるピースが必要になる……同意していただけるでしょう?」


「無論さ。ピーキーなだけではどのみちプロではやっていけないのだから、少なくともプロ志望が大半であるこのドミネイションズ・アカデミアに所属する生徒であれば当然に、ただ闇雲に最高値を求めるだけの構築なんてしてはいけない。心より同意するとも」


 と言いつつもエミルは……かつて・・・のエミルは、自身が持つ圧倒的な運命力によっていつでも誰が相手でも望むカードが引けたし、好きに暴れることができていた。そのためにマコトが語る『一般的な構築理論』の正しさを認めつつもそれは『弱者の正しさ』であるとして自分が世話になったことなどまったくなかったわけだが──まあ、それはともかく。


「なんと言ってもこの場面、ライフコアの寂しい私にはそうぽんぽんと【潜行】ユニットを出されるだけで苦しい。それだけでもリザーリオンの価値は確かだろうさ」


 今召喚されたリザーリオンも、そしてリヴァイアサンも揃ってキーワード効果【潜行】を有している。ドミネイションズでは【潜行】持ちユニットのアタックは同じく【潜行】持ちでしか防げない。残りライフの少ないエミルにはなんとも嫌な能力だ。類似効果である【飛翔】とは違って相手ユニットからのアタックに関しては受けてしまう脆さもあるが、とはいえ復活効果のあるリヴァイアサンにとってはそれも大した問題にはならない。その前提があるからこそ、マコトはエミルに負けじと口角を上げて応じた。


「元々【守護】持ちの少ない赤陣営を使っているんですからガードなんて気にせず、赤お得意の猛攻でどうにかすればいいでしょう。それができるなら、ですが」


「うむ……確かに蘇るたびに破壊すれば、【疾駆】持ちでない以上はリヴァイアサンからのダイレクトアタックに晒される心配もないが。だとしてもそこまでリヴァイアサン一体にかかりきりになっている時点でその餌食になっているようなものだ」


 復活にリソースの必要がないリヴァイアサンに対し、それを倒すためにエミルは毎度手札とコストコアを消耗することになる。ディスアドバンテージ甚だしく、遠からずリザーリオンのようなリヴァイアサン以外のユニットからライフを守り切れなくなるのは目に見えている。マコトの挑発に乗ってそんな泥沼に嵌るわけにはいかなかった。


「だが、赤を使っている以上は下手に守りに入るよりも攻めてこそ。その意見にも私は同意する。君と、君が操るリヴァイアサンを、力で越えてみせようじゃないか」


「──お好きに。わたしはターンエンドします」


「では私のターン。スタンド&チャージ、そしてドローだ」


 ライフの減少こそなかったが、マコトにはかなりのアドを稼がれてしまった。鉄屑浚いの喪失と合わせてエミルの負った傷はそれなりに深いと言えるが、しかし彼にも五枚の手札という可能性がある。盤面こそ空っぽでもやれることは当然ある──あとはそれをどれだけ有効的にぶつけられるか、だが。もちろんかつての絶対者であるエミルのこと、よもやそこで停滞などするはずもなく。


「5コストを支払いスペル《真っ赤な奔流》を詠唱する。このスペルはフィールド全体を焼く。生き残れるのは赤陣営のユニットだけだ」


「全体破壊スペル──それを、既に!」


「ああ、握っていたとも。初期手札の段階からね。ここが切り時だと判断したよ。なんと言ってもこのスペルは使用されたコストコアが全て赤だった場合、効果がより凶悪に変化するからね」


「変化……!?」


「赤のコストコアだけで起動されたこれは追加のコストとして手札一枚を捨てることを要求する。それによって火力が増し、たとえ赤陣営のユニットであっても助からなくなるんだ。赤単構築でもそう簡単には唱えられない問題児、とてもカードさ──だけどその代わり、破壊されたユニットの数だけ私は『そのターン限定で使えるコストコア』を手に入れられるという嬉しいおまけも付いてくるがね」


「っ……!」


「私は手札を一枚捨てて──まずは一旦。全てを焼き尽くしてしまおうか」


 歯噛みするマコトの目の前で、どこからともなく溢れ出てきた灼熱が一瞬にしてフィールドを埋め尽くした。



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