333.赤と青の対決!
赤陣営ならば容易く捌ける。マコトのデッキにはそれが可能だった。エミルが使った二枚はどちらも攻撃にも防御にも役立つ赤としてはテクニカルなカードであるものの、やっていること自体は赤らしい単純さ、素直さというものがある。装備さえさせられるなら毎ターン無コストで撃てる火力スペルのような《マグマポッド》に、オブジェクト破壊に加え【好戦】によってユニットまで処理してくる《壊し屋スカブル》。二枚共に強力なカードであるのは確かだが、戦法としてはやはり攻め一辺倒。当然だろう、どんなに工夫を凝らそうと赤だけで戦うとなれば普通はそういうスタイルになる。陣営そのものがそう設計されているのだからこれは避けられないことである。
(守護者ユニットの数が少ない、またその質も白や青に大きく劣る赤にとっては攻撃こそが最大の防御。実際にわたしもユニットを連続で破壊されたことで攻め手を細くさせられている……とはいえ。盤上こそが全ての赤とは違い、わたしのデッキはたとえユニットがやられても『次』に繋がるようできているけれど)
「《地底鮫》が破壊されたこの瞬間、手札からカードの効果を発動」
「む」
「自軍の種族『シーゴア』のユニットが戦闘破壊された時、このユニットは自身を無コストで召喚することができる。おいで、《ビッグジョット・クラーケン》!」
《ビッグジョット・クラーケン》
コスト6 パワー4000 【守護】
イカの化け物。としか言いようのないユニットが突如としてマコトのフィールドに出現。根を下ろすようにしてその幾本もの脚で床をしっかりと掴み、立つ。その姿は陸上にあるアンマッチさと相まってかなり威圧的にエミルには見えた。
「相手ターンに手札からの無コスト召喚……てっきりドルルーサ系列のいずれかが出てくるかと思えば、またしても青陣営のユニットか」
場の変化に反応して飛び出してくるユニットの代名詞と言えば黒陣営の種族『デスワーム』に所属するドルルーサとその仲間たちだろう。《地底鮫》の破壊に合わせて効果が発動されたからには──そして自身がそれらをデッキに組み込んでいた時期もあったことから余計に──その出現を予想するのは当たり前で、瞬間的にエミルは得意の先見性でマコトのデッキカラーが青と黒の混色であると当たりをつけたくらいだった。
ところが出てきたのは《ビッグジョット・クラーケン》。エミルの広い知識の中にも存在しない見知らぬカードであった。出されるところを見たからにはそのユニットが青陣営であることはわかるが、そんなものはクラーケンの出で立ちを見れば誰だって理解できる。そこからマコトのデッキカラーについてもだ。
「君が繰り出した四体のユニットは全て青……そして種族シナジーまで意識されているからには『青単』と決めつけてしまってもいいだろう。無論、差し色がゼロであるとは限らないが」
プレイング自体は青のカードを扱うに終始したとしても、例えばクイックチェックでの発動を目当てに別陣営のクイックカードだけを採用するという構築もあるからには、『青単』が本当の意味で『青単』とは限らない。単色で組んだ場合には速攻くらいしか取れる戦術のない赤とは違い青は陣営からしてテクニカルなコントロールタイプに分類されるが故に、なおのこと単色が真に単色かは怪しい部分がある。──別色の不意な炸裂は充分にあり得る。だがマコトが武器とするのはあくまで青だろうとエミルは見る。
と、そう見破られたのを知ってマコトは。
「……デッキカラーの推測はお互い様のこと。わたしもあなたの色がほぼ赤一色だと確信したばかりです。だから公平に言わせてもらえれば、わたしのデッキは一から四十までが全て青。他の色は一枚たりとも使っていない完全統一構築です」
「ほう、今時珍しいね。流行りの混色環境に真っ向から逆行しているじゃないか」
「あなただって今や古臭い赤単じゃないですか。わたしのように完全統一かは知りませんけど」
ドミネイションズの創成期には赤の速攻が覇権戦法だったと、ドミネイターならば歴史を誰もが習う。そして十年近く前にも赤陣営の低コストで強力なカードが一気に出たことで速攻が第一線に返り咲いた経緯がある……そうやって服の流行の如くに戦法も回帰や再起を繰り返すものだが、直近の隆盛からおおよそ数年後という今は速攻にとって谷間の時期となっている。また赤単だからこその強化や、あるいはそれこそミキシングあたりで2・3コストの有用な赤アタッカーでも量産されない限りは『ひと昔に活躍した型落ち戦法』のポジションから脱することはできないだろう。
エミルも赤単速攻が現在そういった憂き目にあることは知っているだろうに、しかしあえて赤単のデッキを組んでいる。無陣営統一かつオブジェクト偏重というおかしな構築でトーナメントの終盤に挑んでいるロコル然り、九蓮華とはそういう変わったデッキビルドを趣味にする変態ばかりなのかと思ってしまうマコトだった。
「なに、私の構築に関してはロコルほど凝ってもいなければ戦う相手を見据えた対策や、もっと言えば何かしらの考えも特にないよ。面白そうだから。ただそれだけを理由に組みたいように組んだのがこのデッキさ。私は人より早くにミキシングを堪能したからね、今更シンプルな構築に返るのはこれも流行り廃りの回帰のようなものかな。一周回ったってやつだ」
「なるほど。……わたしの場合はそこまで贅沢な理由ではないです。言ったように環境を読んで組んだのがこのデッキ。ミキシングの流行に伴い構成も攻め方も複雑になっていく昨今のファイトシーン。この流れはしばらく止まらないでしょうから、わたしはあえて流れに逆らう。言っておきますがこれは『逆張り』ではありませんよ、複雑さには単純さで迎え撃つのが吉と考えたまでのこと……」
その答えが《封水師リョクメイ》を始めとするいくつものミキシング対策を採用した青単色デッキだ。コントロール色の強い、さりとてそれ以外の動きもできる、ながらに複雑になり過ぎない構築。我ながらバランスは完璧だと自負している──とても良いデッキになったと自信を抱いている。エミルのオーラを浴びながらも果敢に攻められたのは自身の作り上げたデッキに対する信頼があるからだ。そうでなければファーストアタック並びにファーストブレイクを奪うことなどできなかったろう。
「面白い。色は正反対、組み上げる経緯も正反対。しかして私たちはなんの因果か似たような構築に行き着いたらしい」
「似たような構築……?」
「そうとも。君の青単がただの青単ではないように、私の赤単もただの赤単ではないということさ」
──やはり、何か仕込みはあるか。速攻にしてはライフを詰める動きに弱い、ということは赤単でいながらエミルの選んだ戦術は速攻ではないのだろうと推理していたマコトだが、本人の口からその裏付けが取れた。赤という良くも悪くもコンセプトが一貫し過ぎている陣営を使っていったいどんなマジックを見せてくるというのか……身構えるようにして態度により警戒を滲ませるマコトへ、エミルは穏やかに言う。
「焦らずともすぐにわかるさ。ファイトを続ければ自然と君にも見えてくる。さ、私はこれでターンエンドするよ」
「わたしのターン……スタンド&チャージ、そしてドロー」
意味深なエミルの言葉にも臆さずデッキからカードを引いたマコトは、今一度状況を確かめることにした。現状どちらが有利か。ファイトの流れを掴めているのは──。




