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332.恐るべき子供たち

 一瞬だけ漏れたエミルのオーラ。あまりに密度の高過ぎるそれに触れたことで否応なしに感じさせられた、恐ろしい気配を。不吉な予感を振り払うために、マコトは弾かれたように自身のユニットへと攻撃を命じた。


「《地底鮫》が召喚されたのはあなたのターン。わたしにターンが移った時点で召喚酔いは解けている……よって問題なくダイレクトアタック可能!」


「そうだね。そして私にそれを防ぐ手段はない」


 エミルのフィールドには効果を封じられたオブジェクトがひとつあるだけ。守護者どころかユニット自体が不在である以上《地底鮫》の進行を止めることなどできない。甘んじて鮫の鋭い歯の一撃を受け入れたエミルのライフコアが弾け飛ぶ。これで彼の残りライフは五となった。


 ふむ、とエミルは頷く。今の攻撃に搭載されたマコトのオーラ。それをじっくりと味わうようにしながら彼はデッキへと手を伸ばした。


「ライフコアがブレイクされたことにより私にはクイックチェックの機会が訪れる。ドローだ……ああ、残念ながら引いたのはクイックカードではないね。手札に加えてお終いだ」


 引けなかった。その事実にエミルは感心する。どうしても引いてやろうと必死になっていたわけではないが、それを抜きにしてもマコトのオーラ操作は素晴らしい。並のドミネイターではどう抗ってもクイックカードを掴むのは困難だったろう。そう言い切れるだけの重みが《地底鮫》の一撃に込められていた。


 恐怖に促されてのアタックの割には──いや、だからこそなのか。思いの外に卓越したアタックであった。感情を原料に、されど計算的にオーラを操る。これは家系からして思考派と感覚派の中間に位置し、両者のいいとこ取りをしているマコトだからこそ可能となるプレイなのかもしれない。そう認めてエミルは言う。


「宝妙くんも歳の割には凄まじいまでの圧を放っていたが……そしてその圧に負けないだけの精緻なコントロールをロコルは可能とするが。しかし君の場合は精緻かつ高圧。さながらリョクメイのように場面を選ばぬ巧みさと高い出力を併せ持っているね。なんとも素晴らしい。本当に近頃の子の早熟ぶりには舌を巻くしかない」


「……自分だってまだ十八でしょうに、何を言っているんです」


 エミルもまた大人たちから見た恐るべき子供の一人だろうに……否。自分こそがその筆頭であると重々に承知してもいるだろうに、この他人事めいた言い草にはマコトも呆れるしかない。彼女も自身のオーラ操作技術が既に一角以上に達していることには自覚的であるが、だとしてもエミルには遠く及ばない。その分野においてほんの少しでも彼に太刀打ちできるなどとは自惚れていないのだ。


「決して本気にはならない。自らの口でそう誓ったからにはオーラで君を完全に抑えつけたりもしない。その前提があってこその戦い方なのだろうが──ああ、だとしても君は上等だよ。一年生にしてこのアカデミアの上澄みにいると言ってもいい。どうしても不足している実戦・・の経験さえ積んでいけば、名実共に学園最強の生徒の一人となれるだろう」


「ただしそれは、ロコルとイオリ。九蓮華の双子さえいなければの話だが、ですか?」


「ふふ、そんな兄馬鹿なことは言わないさ。私はあくまで客観的に君たちを『視る』だけだよ」


「隠居者を気取っていながらこうしてわたしとファイトしているだけでもこれ以上ないくらいに兄馬鹿でしょう……わたしはこれでターンエンド。あなたのターンですよ」


 言われてしまったね、と苦笑しつつもエミルは淀みなく自らの手番を開始する。その仕草や口調にはファーストアタックを奪われた者の悔しさや焦りなどは微塵も感じられず。


「私のターン。スタンド&チャージ、そしてドロー! ……ふむ。これならチャージを急ぐ必要もなさそうだね」


「!」


「私はディスチャージ権を使わずにアクティブフェイズへ。そして溜まっている3コストを全て使いこのユニットを召喚する──来い、《壊し屋スカブル》」


 《壊し屋スカブル》

 コスト3 パワー2000+ 【好戦】


 小柄だが身の丈を越す大きな解体道具をいくつも背負うそのユニットは見た目通りに解体業を生業としているようで、登場と同時に自身が持つ効果を発動させた。


「スカブルの登場時効果。場のオブジェクトカードを一枚破壊する」


「っ、対象に取れるのはあなたの《マグマポッド》だけ……」


「その通り。効果こそ封じられていてもカードとしては盤面に置かれたままである以上、このように対象に取ることはできる。そしてあっても意味のない無用の長物になってしまったオブジェクトならば自ら壊してでも次の糧にすべきだ──遠慮なくやってしまえ、スカブル」


 キキッ! という喜色を感じさせる甲高い笑い声と共にスカブルが大槌を振り下ろし、命令通りに《マグマポッド》を叩き壊した。赤い壺が粉々に砕け散ってフィールドから退場し、そしてスカブルはそれによって新たな力を得る。


「スカブルがオブジェクトカードの破壊に成功したことで追加効果が発動。元々のパワーが4000になり、更に破壊したのが自分のオブジェクトであった場合には手札のカードを一枚コストコアへ変換できる」


 《壊し屋スカブル》

 パワー2000→4000


 元々のパワーが4000になる、とは即ち変動した数値として扱われないということ。パワー欄に+の表記があるユニットは自身の力でステータスを変更した場合、仮に後から──例えば《封水師リョクメイ》のようなユニットによって──効果を封じられたとしてもパワーは上がったままであることがほとんどである。単なるパワーアップとそれを元々のパワーとして扱うことには明確な差があるのだ。それによってスカブルはコスト論で言えばオーバースペックもいいところのパワーを手に入れたのだからマコトとしては目を剥くしかない。


「パワーアップに加えコアブーストまで……!」


「まあ、自軍のオブジェクトを破壊しているんだからそれくらいのリターンはなくてはね」


 相手プレイヤーのオブジェクトを破壊した場合であれば、スカブルの追加効果はパワーの強化だけに留まっていた。赤陣営としては貴重な除去とコアブーストを兼ねるユニットではあるもののその双方を同時に使えるデザインにはなっていない。そこがスカブルの弱みであり、しかし有用な効果を持つ彼が3コストに留まっている理由でもあった。デッキの上からではなく手札から変換カードを選ばなくてはならないという点もその一端である。


「《マグマポッド》は消えたが元から君のリョクメイで失ったも同然だったのだから大して痛くもない。その犠牲でスカブルが《地底鮫》を超えるパワーを手に入れたのは上々だろう。そしてこのユニットは【好戦】の能力も持つ。よって召喚されたターンでも相手ユニットへのアタックが可能だ!」


「……!」


「スカブルで《地底鮫》へアタック!」


 壺を壊しただけでは飽き足らじとばかりにスカブルは大鉈を頭上に構えたまま跳躍。その着地際に《地底鮫》へと思い切り振り下ろし、その胴体部を真っ二つに掻っ捌いてしまった。自身のユニットの見事なまでのやられぶりを目の当たりとしつつ、マコトは黙々と考える。


(ここまでに彼が使ったカードは二枚、そのどちらもが赤陣営のもの。まだ単色構築とは断言できないけれどデッキカラーが赤に比重を置いていることは間違いないと見ていい──それはわたしにとって)


 非常にラッキーなことだ。

 と少女は鉄仮面の奥底でほくそ笑んだ。



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