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330.そつのないマコト

(彼のデッキが真実『赤単速攻』の攻め方をするかはともかくとして……そうでなくとも《マグマポッド》は厄介。居座られてはこちらのアドをじわじわと食われてしまう)


 相手ユニットにも装備でき、それが赤以外のユニットならば2000のパワーダウンを強要する呪いの装備となる。その特異な効果によってまんまと《付喪水鏡》はやられてしまったが、しかしそうさせた肝心の《マグマポッド》自体は何食わぬ顔で(壺の真ん中あたりに実際顔らしき部分があるのだ)場に残っている。


 このことは《マグマポッド》が特別なのではなく、装備オブジェクトというカード種の特性である。装備対象のユニットが場から離れてもオブジェクトは残る。反対に装備されたオブジェクトが破壊されたとしてもユニットは残る。同時処理でもされない限り共倒れとはならないのだ。この特性あってこそ《マグマポッド》は「厄介なカード」となる。


 つまるところ使い減りのしない除去カードだ。パワー2000以下のユニットであれば(パワーダウンによる除去という対処のしようがない手法と相まって)問答無用の排除を可能とするオブジェクト。それでいていざという時には自軍の赤陣営ユニットに装備することで普通の装備オブジェクトらしいパワーアップも行えるのだから、議論の余地なく《マグマポッド》は便利なカードだ。使い手からすれば間違いなく、そういった評価が相応しい。相対する側からすればその評が逆転するわけだが……。


 とにかく、とマコトは思考を整理する。


(装備オブジェクトが装備対象を選べるのは一ターンに一度だけ……これもカード種そのものの縛り。つまり《マグマポッド》が一ターンで何体もユニットを処理する、なんて事態は起こらない。……それでも面倒極まりないけれど)


 あくまで被害を被るのは一体ずつ。という緩やかなペースであるなら何も大急ぎで対処に当たる必要もない……とは言い切れなかった。《マグマポッド》を除去する手段が手元にないのであれば望むと望まざるとにかかわらず機を待つしかないが、しかしそういう気の持ち方もできるマコトはともかくとして、ミライは絶対にそんなことはしない。彼女はそこまで気の長いほうじゃない──倒すべき相手は即座に倒す。邪魔な物があれば即刻に退ける。即断即決即実行が宝妙ミライの持ち味。


 であるならば、ミライの勇気を貰ってこのファイトに臨んでいる以上。マコトもまた普段の自分みたいな悠長な構え方はすべきではないだろう。


(仮にパワーダウンで除去されない3000以上のユニットで攻めようにも、単に2000のデバフを食らうだけでも困りもの。やはり早くに片付けておいて損はない──)


 たとえばパワー5000の中型相当のユニットも、パワーダウンの被害を受ければ3000という小型相当にまで弱体化してしまう。必ずしも2000以下のユニットにだけ特効があるというわけでもないのが《マグマポッド》の一際イヤらしいところであった。それらを総合的に勘案し、すぐさま除去するしかないと結論する。


 しかしマコトの手札にそれが叶うカードはなく。


(引くしかない、ってことか。ミライならそうするし、それができる。わたしはどうだろう? この怪物を相手にしながらそんな思うがままのドローが実現できるのか)


 悩むまでもない。九蓮華エミルに勝つためには実現させるしかないのだから、これ以上ごちゃごちゃと考えても仕方がない──無為な思考の積み重ねは怖気や尻込みに繋がる。最初から最後まで気を張り詰めていなければらないこのファイトにおいてそんな弛みは致命傷にもなりかねない。


 。そう決めたマコトはその前にひとまず。


「《付喪水鏡》のコストとなって墓地へ捨てられた《地底鮫》の効果が発動します」


「ほう、コストとなったカードが墓地から動くか」


 感心した口振りながらもまったく驚く様子がないエミルの、泰然自若とした態度。とてもファイト中とは思えぬその雰囲気はそれだけ彼の歴戦ぶりを象徴しているようだった。


 それがなんだとマコトは彼から受ける印象を振り切って。


「《地底鮫》の効果。それは手札から墓地へ行った際に自身を蘇らせることができるというもの。あなたのターンだろうと構わずこの子は地の底から浮かび上がってくる──蘇生召喚! 来て、《地底鮫》!」


 《地底鮫》

 コスト4 パワー2000 【潜行】


 まるきり大きな鮫といった風体のユニットである《地底鮫》。ただ深い海域の圧力に対抗するためか通常の鮫より多いヒレを忙しなく動かすその姿からは、ただならぬ活力と飢えを見る者に感じさせる。


「ふ、私のターンに蘇生召喚とはやってくれる。ガラ空きのフィールドでターンを返してあげようと思ったのだが、見事に目論見を外されてしまったね」


 きちんと《付喪水鏡》のコストに相応しいカードも用意してあるとは流石じゃないか、とエミルはマコトのそつのなさを褒めそやす。コアブーストの代わりに手札を減らしてしまうのが《付喪水鏡》の欠点だが、それを穴埋めできる《地底鮫》の存在は欠点を利点へと変えている。結果としてマコトはコアを増やしつつ盤面の維持まで叶えているのだから褒められて当然のプレイングではあるが、無論のことそう持ち上げられても当の本人は嬉しそうな顔など見せなかった。


 敵から称賛されてデレデレするような初心さや朴訥さなどマコトに持ち合わせはなく、またそれは勝負に不要な甘さである。そう断じるからこその鉄仮面であったが、エミルは彼女の無反応具合に本心から寂しそうに首を振った。


「どこまでもつれないね、観世くんは。それが君のスタイルだというのならしょうがない……少し味気なくはあるが私も粛々とファイトしよう。ターンエンドするよ」


「では、わたしのターン。スタンド&チャージ、ドロー……わたしはここでディスチャージ権を使用します」


 通常のチャージに加え、先ほどエミルがそうしたようにライフコアのひとつをコストコアへと変換するマコト。これで彼女が使用できる合計コストは4となった。これは現時点でのエミルに倍する数字であり、先んじて動ける有利を得る代わりにコストコアを溜めにくい先行プレイヤーとしては順調もいいところの滑り出しであった。


 そして肝となるドローにおいてもマコトは、狙った通りのカードを引けており。


「4コストを使って《封水師リョクメイ》を召喚」


「!」


 《封水師リョクメイ》

 コスト4 パワー3000


 しゃらん、と手に持った錫杖から音を立てつつ軽やかな所作でフィールドに降り立った一人の男。僧のような恰好をしているそのユニットをエミルは存じているようで、大きく目を見開いていた。


「やはり知っていますか。ならば必要もなさそうですが一応の義務として説明します──《封水師リョクメイ》の登場時効果を発動! 相手の場のカード一枚を封印します! この封印とは効果の発動も適用も一切許さないことを意味する。それがユニットであればアタックやガードも行えなくなります……その代わりにわたしの方からそのユニットへアタックすることもできなくなりますが。要するに対象を『いないものとして扱う』ような効果ですね」


 わたしが対象に取るのはもちろん、とマコトはエミルの場にいる一個・・を告発するように指差して。


「《マグマポッド》をリョクメイの効果で封印します! これによってあなたはもうそのオブジェクトを起動させることができない……この封印は仮にリョクメイが場を離れたとしても永続しますので、悪しからず」


「──ふふ、本当にやってくれるね」


 今引きで的確な解決をしてみせたマコトへ、エミルは悔しげな言葉とは裏腹に朗らかな笑顔を見せた。

 


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