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314.アキラからの言葉、猛るロコル!

 ロコルはこれから、彼女の属するBブロック上位勢と戦わねばならない。休憩なしに行われる二連戦(Bブロックにおける準決勝と決勝だ)に勝利することで、ブロックの代表として合同トーナメント全体における真の決勝戦へ進むことができる──それでようやく、Aブロックの勝利者として既に決勝への進出が決定している若葉アキラとの対決が成るのだ。


 つまるところこの時点ではまだ、ロコルはその舞台に立てると決まっておらず。それはあくまで控えている二連戦に勝利して初めて手に入れられる栄光なのだ──が、まさかそのことを忘れてしまっているわけでもあるまいに、まるでロコルが決勝へ進むことは規定事項であるかのような口ぶりで話すミオ。いや、彼だけでなく既に去ってしまったクロノも、ミオの後ろで会話を見守っているチハル、コウヤ、オウラの三人も。全員がそういう態度でいることに、ロコル当人こそが戸惑いを隠せない。──しかし戸惑うまでもなくその真相は実に単純なものでしかなかった。


 彼ら彼女らはとっくに確信しているのだ。決勝に進むのは……アキラと雌雄を決するドミネイターは、九蓮華ロコルを置いて他にはいないと。


「まぁ、負けるとは思わないっていうか。思えないよね、さっきのあのファイトを見ちゃったら」


「ミライちゃんとのファイトのことっすか?」


「そ。あの試合は御三家同士の対決ってことで相当に注目されていたけど、そういう家柄の事情を抜きにしたって君たちの戦いぶりは凄かったよ。純粋に、どっちも強かった。その上できっちりと勝利を収めてみせたロコルへの評価は、当然その内容に見合って高くなる。中でもボクらは君のことを他の生徒よりもよく知っている身だしね」


 宝妙マコトも、素晴らしく強かった。しかしそれ以上にロコルが強かった。本気で戦う彼女の鮮烈なまでの強さ、それを目の当たりにしたからこそミオたちは自然にそう思ったのだ。


「他の残ってる三名にはちょっと悪いけどね。どうしたってあの子たちが君に勝つ未来が見えない。決勝戦のカードは決まったも同然だ──これはボクらの総意なんだよ、ロコル」


 マコトとのファイトで披露した鮮烈さのままに。眩いまでの実力を発揮するならば、このあとの二連戦も物の数ではない。それは確実と言ってもいいくらいに、彼らにとっては見え透いたこと。故にこそ「勝ち上がるのは間違いなくロコル」だと判断できた時点で、クロノを始めとする五人はこうして揃って優勝決定戦に向けての一足早いアドバイスへと乗り出したのだ。


 と、そういう彼らの意図を把握できたことでロコルは。


「それはまた、なんと言えばいいのか……ありがたいことっすね。センパイ方にそこまで高く評価していただいて」


「あはは。偉そうに評価なんて言っちゃったけど、願望みたいなものでもあるよね。なら君がいい。そういう願いも込みでの贔屓目でもある……なんて、ボクたち以外の大半だってロコルを勝ち馬と予想してるだろうけど!」


 託すならばロコル。アキラとは縁も所縁もない、他の上位三名よりも。決勝に進出するに相応しいのは──進出してほしいのは、やはり彼女である。まだファイトのルールも思い出していなかった頃の、覚えきれていなかった頃のアキラの、本人も思い返しては恥じらうような拙い初戦・・の場に居合わせ、その腕前よりも『可能性』にこそ強く惹かれて魅了されたロコル。その確かな人を見る目。理屈を超えて他者を信じられる性根を持つが故にアキラを見出した彼女だから、「勝ってほしい」。ただ純粋にそう願えるのだ。


「というわけで、クロノに倣ってボクからも言えることはひとつだ。『がんばれ』! ロコルのこと、二階席から応援してるからね」


「あは──どーもっす、泉センパイ。エールに応えられるよう頑張らせてもらうっすよ」


 明朗で快活な、けれど彼女なりのというものをしっかりと感じさせるロコルの返事に満足そうにしたミオは「んじゃそういうことで、またね。行こ、チハル」とこれまたあっさりと先に席へ戻ったクロノを追いかけて通路を去ろうとする。


「あ、待ってよミオくん──あの、ロコルさん」


「ん、なんすか新山センパイ?」


 咄嗟にミオを追いかけようとしたチハルだったが、それを中断してロコルへと向き直る。その改まった雰囲気から二人に続いて彼からもアドバイスが貰えるのかと続きの言葉を待ったロコルに対して、おずおずと口を開いたチハルは。


「僕なんかができるアドバイスなんてなさそうだから、アキラくんの言葉を伝えるよ」


「センパイの──?」


「うん。ロコルさんと戦えるのを、トーナメントでの一番の楽しみにしてるって。彼、始まる前にそう言っていたよ」


「自分と戦えるのが、一番楽しみ……? センパイがそんなことを」


 若葉アキラとは平等な人間だ。ある意味では残酷なくらいに、ドミネイションズに関わることでは──ドミネファイトに関わることでは忖度も偏向もなしに人を平等に見て、平等に扱う。等しく真摯で、等しく優しく、それ故に……誰に対しても優しくない。誰しもを等しく扱うとはそういうことなのだ。


 無論だがアキラに向けたロコルのこの評は、決して責めているのではない。むしろ褒めそやしている。真に特別であったエミルですらも自分自身のことはそれ以上の扱いをしていたというのに、アキラに関してはそれすらもない。完全に均等で、唯一掲げているのはファイトを通しての『相互理解』。それだけを特別なものとして信じる彼は、信じ抜ける彼は、目指すまでもなく既に理想のドミネイターであると。常に平等であれるアキラだからロコルの目にはそう映る──彼女はその姿勢を心より尊敬しているし、尊敬したからといって真似できるものではないとも思っている。だけど。


 そんな彼が今日は。この大会においては。明らかにたった一人を特別扱いしている。ロコルという少女が勝ち上がってくるのを待ち望んでいる──。


「ほ、本当にセンパイがそう言ってたんすか?」


「うん、確かに聞いたよ。だから僕は宝妙さんとの試合を見る前から、Bブロックを勝ち上がるなら君しかいないって思ってたんだ。あのアキラくんがそこまで言うくらいなんだから、きっとロコルさんは必ず彼の前に立つんだろうって」


 君自身もそのつもりなんだろう? と。そう静かに訊ねるチハルへ、ロコルは「もちろんっす」と端的に、力強く答えた。


「待ち受ける二連戦を自分が勝って当たり前なんて、そんな驕ったことは口が裂けても言えやしないっすけど。でも勝つ気は満々っす。センパイにだってそのつもりで挑むっすよ」


「うん、それくらい強気の方がアキラくんも喜ぶと思う。そ、それじゃ行くね。ミオくんたちと一緒に僕もう応援してるよ!」


 あざっすーという気安いお礼を背中に、もう影も形も見えないミオを追いかけるチハル。彼の後ろ姿が曲がり角の向こうへ完全に消えてから、ここまで沈黙を貫いていた彼女たちが口を開いた。


「さて、ようやく騒がしい男子連中もいなくなったことですし」


「どうせなら試合の前にアタシらのアドバイスも聞いてけよ、ロコル」


「是非ともっす、紅上センパイに舞城センパイ」


 残った二人の先輩──同性ということもあってロコルとは男子三人組よりも親しい関係性にあるコウヤとオウラ。ただの先輩後輩というより友人同士とでも言うべき距離感にある彼女と彼女たちは、しかしこの時はきっぱりと互いに上下関係を区分して接していた。


「喜びなさいロコル。わたくしからはもっと『具体的な助言』を授けて差し上げますわ──」



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