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306.ロコルとイオリ、双子の密談!

「それで、なんなの? こんなところで話がしたいって……一応言っておくけど、次が自分の試合だからあんまり悠長にはできないよ」


「そんなことわかってるよ。勝ち進んでるからってうっさいなぁ」


 と、講堂内の通路(ロコルが腹痛と戦っていた玄関口から続いている例の通路とはまた別のものだ)でここまで自分を連れてきた相手に対して訝しげな目を向けるロコルと、その態度にイラっとした様子を見せるイオリ。双子の姉弟または兄妹である二人は、双子らしく他の者には決してしない砕けた口調で、表情以外はそっくりな顔を向かい合わせて「秘密の話」を始めようとしていた──イベント中は誰も通りかからないポジション。そんな場所をわざわざ選んだからには、他人には聞かれたくない・聞かせたくない会話をするつもりだと言われずともロコルだって気が付いている。ただそれがイベントの真っ只中で、それも自身の出番が控えている状況で行う必要のあるものなのかと懐疑的なだけで。


「なんだよ、心配してやってるのにさ」


「心配って……なんの?」


「絡まれてたろ、例のあの二人に」


「ああ、そっちのことね」


 てっきりこれから臨もうとしている二連戦。決勝直前の最後の難関に対するものかと早合点しそうになったロコルだったが、考えてみればただの激励なら人目に付かないところに移動する意味もない……まあ捻くれ者で、なおかつロコルに対してライバル意識を隠そうともしていないイオリだ。それでも肉親として応援したい情はありつつ、しかし実際にそうしているところを人に見られるのは恥ずかしいと必要もないのに誰にも見つからない場所を探すくらいのことはしそうである──が、今回の用件はもう少し真面目なものであったようだ。


「それ、誰から聞いた? さっきまでエミルと一緒にサボってたでしょ?」


「兄さまはサボってたんじゃなくて休憩してたんだよ。イオリもそれは同じ。別に必ず観客席で全試合を見届けろって言われてるわけでもないし、サボりにはならないよ」


「ふうん。まあそこは別にどうでもいいけど」


 本当にまるで興味なさげな調子で言う彼女にイオリはますますムッとした顔になったが、文句をつけるよりも会話を先に進めることを選んだようだった。この後にロコルの試合が控えているのは本当のことなので、長話をしている暇がないのも確かなのである。


「執事だよ。あいつだけは講堂に置いておいたんだ」


「ああそっか、執事からの報告ね……」


 九蓮華家の執事は家内のことに限らず多種多様な仕事をこなせるプロでなければいけない。その存在意義はどのような状況下においても九蓮華の人間を保護・補助することにあり、それはここドミネイションズ・アカデミアでも例外ではなかった。一挙に三人もの九蓮華の子がDAへ通っているというこれまでにない事態に対し彼らもまたこれまでにない特殊態勢を取ることを当主へ提案。それが許可されたために、二名の執事。イオリのお付きと新たにロコルのお付きとなった男女が生活保全官として学園内に常駐することになったのだ。


 つい半年前にはエミルの件で情報戦並びに実際に交戦(恐ろしいことにドミネファイトのことではない)までしているDAの保全官と九蓮華の執事たちなので、彼らの採用にあたってはそれなりに情報部内での悶着もあったようだが、その詳しい内容をロコルとイオリは知らされていなかった。とにかく二人が承知しているのは、保全官以外にも自分たちの手足として扱っていい人間が学園内にいるということだけだった。


 ロコルは長く家を離れていた上に、出ていく直前に一部の執事に対し悪いことをしてしまったというバツの悪さもあってあてがわれた彼女を顎で使うようなことはまだしていないが、イオリの方はなんの遠慮も無しに──それこそ家でもそうしていたままに──もう一人の男性を使ようだ。そういうことがさらりとできるあたりが自分よりもずっと当主向きだとロコルはなんの皮肉でもなくそう思う……一見すると横柄な真似に思えても彼はそれが許されるだけの立場にいて、将来的にはもっと偉くなるのだ。その偉さに見合った態度が取れるかどうかというのも家格や面子を保つためには重要なことである。


(御三家の枠組みを真になくせるとすれば自分らの子や孫の代──金言っす。エミルの挫折もあってとにかく変えていかなきゃって思いばかりが先行してたっすけど、確かにどれだけ革新的なことをしたってすぐに今のシステムがなくなるわけじゃない。立ちどころに一新させるなんて不可能……というかそんな真似したら界隈全体が大変なことになるっす。そういう不要な迷惑を方々にかけるのは自分だって本意じゃないっすからね)


 つまりイオリにはやはり当主になってもらって、次代へより良く繋ぐために尽力してもらう必要がある。と脳内ではいつもの口調に戻りつつロコルはその思いを強くした。具体的なことはまだ話し合っていないし将来像を共有しているわけでもないが、エミルの敗北と当主候補辞退にはイオリも思うところがあったらしく、彼にも如実に変化がある。それがこうもはっきりと伝わってくるのはたった双子同士のシンパシー故か、はたまた別の理由があるのかはロコルにもわからなかったが──まあ、それはともかく。


「報告があったっていうなら『絡まれた』ってほどじゃないってこともわかってるんじゃないの? 普通にファイトして、自分が勝った。それだけだよ」


「ロコルにとってはそういう認識でも向こうは絶対そうじゃないだろ。いいから教えてよ、宝妙と観世からなんて言われたのさ。一から十まで成り行きを聞かせてもらうよ」


「んー……わかった」


 思いの外真剣に問い詰めてくるイオリに、当主候補としての責任感というものを感じ取ったロコルは後回しにしようと考えていた彼への説明を今やっておくことにした。何故後回しにしたかったのかというと、彼にミライと交わしたやり取りのどこまでを打ち明けたものか迷いがあったからだ。


 言ったようにロコルはまだイオリと将来について腹を割って話し合ったことがない。彼女の展望である『ドミネ高家という枠組みの撤廃』を伝えていないのだ。家に戻ってきたと言ってもロコルが当主になりたがっているわけではなく、その上で何かしらを企んでいるとはイオリだって薄々に勘付いているだろうが、彼がそれを問い質そうとしたことはこの半年間一度もない。再会後からこっち微妙な距離感を保ち続けているのがイオリとロコルだった……けれどしかし、いい加減にしっかりと向き合うべき時が来たのだ。そう思ってロコルは、イオリを信じることにした。


 おそらく彼としては現当主のように立派な九蓮華の『顔』になることを目指しているのだろうが、では困るのだと伝えておかなくてはならない。


 決意の下にファイト後の会話も含めてミライと交わした言葉の一部始終を話したロコルは、黙って耳を傾けるイオリが動揺もなく非常に落ち着いている様から自分の決断が正しかったことを悟る。


「──と、いうわけ。意外と言っていいのかどうかはわからないけど、とにかくミライちゃんの協力は得られそうって感じかな。あの感触からするとね。だから自分の夢も決して夢物語じゃないと思うんだけど……イオリ的にはどう思う?」


「…………」


 ロコルの問いに対してしばらく考えて、それからイオリは眉根にしわを寄せてこう言った。


「協力、ね。イオリがどうするかはともかくさ。宝妙ミライのことも置いておくとして……でも観世マコトについてはどうなの? もしも宝妙と組めたとしてもそこで観世が離反するなら最悪の場合、御三家は観世家の一強となってもおかしくない。そしてイオリには、とてもじゃないけど観世がロコルに協力するとは思えないな──」



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