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302.少女たちの決着!

 淡々とした、それでいて堂々とした宣告を終えて。そしてミライがそれに何かを言う前に、ロコルは続けて自身のユニットへと。信頼するエースユニットへと新たに命令を下した。


「もう一度ブレイザーズでダイレクトアタックっす」


「な、に……?」


 ロコルが何を言ったのか。きちんと耳に入っていながら、しかし何を言っているのか理解が及ばなかったのは。無論その内容が難しかったからではなく、むしろ反対に単純すぎたから。あまりに自然に頭に入ってくるものだったために、咀嚼の間もなく脳を通り抜けていってしまったように思えたからだった。


 剣を握る手に再び力を込めるブレイザーズ。既にアタックを終えたはずの彼が動き出そうとしている様を見て、ようやくミライはハッと我に返った。


「どういうことだ──何故そいつがまだ動ける! いったい貴様は何をした、ロコル!!」


 月光剣が装備ユニットに付与する能力は既に全部割れている。その中にブレイザーズの再起動スタンドを促すようなものはない。そして彼がもうひとつ装備しているオブジェクトである《ジェットバック》も同様に、【疾駆】の付与以外には効果なんてないはず。ならばどんな理屈でブレイザーズが一ターンに二度もアタックを行なおうとしているのか、ミライにはまるでわからない。だから恥を忍んでロコルへ種明かしを頼む以外にないのだ。


「お察しの通り、いくら7コストオブジェクト言っても前述した四つの強化だけで機能としては充分以上っす。さすがの《月光剣ムーンライト》にもこの四つ以外に装備ユニットへ与える効果はない……ましてや二度の攻撃権なんてあり得ないっすよね。それは2コストの《ジェットパック》も同様のことが言えるっす。──つまりブレイザーズの再起動は『オブジェクトによるもの』じゃあないってことになるっすね」


「オブジェクトによるものでは、ない……?」


 またしてもその言葉の意味を解するのに若干の遅れがあったミライだが、しかし聡明なだけでなく感覚派としての勘というものも備えている彼女はすぐに自力で答えに辿り着くことができた。と言ってもそう大層な謎を解いたわけではない──装備しているオブジェクトが与えたものではないのなら、その能力は他でもない。ユニット自身が持っている能力だということ。


「まさかブレイザーズには──」


「またまたそのまさかっすよ、ミライちゃん。ブレイザーズ・ナイトの条件適用・・・・の効果が発動したっす! 彼の隠された力は『装備オブジェクトカードを二枚以上装備している場合』にのみ発揮されるっす──その効果は言った通りの二連撃! アタックした後に続けてもう一度アタックが可能となる能力っすよ」


「っ、そんな効果を隠し持っていただと……!」


 オブジェクトカードをサーチし、それが無陣営であれば無コストで場に出せる。ブレイザーズとはそれだけのエースであり、彼が攻めの主軸になるとすれば装備したオブジェクトの力が全てであると。ムーンライトの強力さ故に尚のことそう思い込まされていたミライなだけに、そんなブレイザーズにまだ効果があったとは。それも攻めにこそ向いた力が隠されていたとは意外もいいところであった。


 しかし考えてみれば実にお誂え向きの、如何にもそれらしい能力ではある。オブジェクトを偏重する効果を持つ彼が、オブジェクトを装備することで真の力を解放する。カードデザインとして何もおかしくない、ともすれば予測できたかもしれない隠し玉。それこそミライにもっと無陣営カードに関する知識があれば、あるいはかの九蓮華エミルにも迫るような先見の目さえあれば、こういった事態を未然に防げたかもしれない──けれど。


 そうはならなかったのだから何を言っても虚しいだけ。自分はまんまと出し抜かれたのだと、ミライは否が応でも認めざるを得なかった。


(冷静になれば「大した能力」ではない。装備オブジェクトなどという限定的な種類のカードを二枚も要求しておきながら得られるものが二度のアタック権ではなくあくまで『二連撃』とは、真の力と言ってもそこまで脅威的なものではない──)


 一ターンに二回のアタックが可能。こういった能力を持つユニットの中にはブレイザーズのように続けて攻撃しなければならない者がいる。間に他のユニットのアタックやカードのプレイを挟めず、必ず連続で攻めねばならない。二度目の攻撃を放棄してしまえばそのターンにはもう動けず、通常のユニットと変わりなくなってしまう……言わずもがなこういったタイプは『好きなタイミングで二回のアタック権を切れる』タイプと比べて自由度において遥かに劣り、割と使い勝手が悪かったりもする。条件適用でようやく得られる効果がそちらであるとなればミライの評価は実に正しく、ブレイザーズの隠された効果とは即ち隠し玉というよりも日の目を見る機会が単に少ないだけだと言えなくもない。


 ただしロコルはそんなニッチな効果を然るべきところで活用できるドミネイターであり、そして何よりも。ドミネイションズを広く見れば「大した能力」ではなくともブレイザーズのそれは、彼が武器とする《月光剣ムーンライト》との相性が抜群に優れてもいて。


「月光剣によるすり抜けのダブルブレイク、クイックチェック封じ! 《ジェットバック》で速攻能力を付与した上でブレイザーズ自身での二連撃……! こ、こんなもの──」


「──防げるはずがない、っすか? そうっすね、だから自分はあの段階から詰ませるために動いていたんす。そしてミライちゃんはぽっかりと空いた落とし穴に気付かなかった──気付けなかった。ライフコアが四つになった時点で、《無意識》を持っているところに《誤った航路》が来た時点で。それを引くことを許してしまったあの時に、ミライちゃんの敗北は決まっていたんすよ」


「……!」


 ブレイザーズ・ナイトが必殺の剣となるには準備を要する。彼の能力で武器を集めるためにも最低でも二度は場に呼び出す必要があり、7コストユニットであるブレイザーズでそれを成すことは決して容易ではない。今回はそれに加え、ミライが敷いた大回廊と修道女による無敵の盤面を崩すために一旦は違うオブジェクトをサーチしなければならず、余計な手順が増してしまった。ロコルとしても途中はそれなりに苦しい展開だったことに間違いはないのだ──しかしそれでも彼女はミライの必殺をいなしつつ、自身の必殺を通してみせた。オーラでの押し合いはともかく、カードでの斬り合い。その技量にこそ大きな差があったと、それもミライは認めざるを得ない。


「オブジェクトを厚く積んでいるのはミライちゃんの推測正しく、無陣営にそもそも汎用的なユニットがそういないってのも確かっすけど。でもそれだけじゃなく、ブレイザーズの効果でどんな状況でも打開できるように。そのためにこのデッキには色んな種類のオブジェクトを採用してあるんす」


 ミライの盤面を《高圧発生装置》が一枚で解決してくれたように、ありとあらゆる苦難を想定してオブジェクトを幅広く選んである。活用がニッチになりがちだからこそ相応しい場面では甚大な働きを確約してくれるそれらのカードを、ブレイザーズという万能サーチが必要な時に持ってきてくれる。だからこそ彼はロコルのデッキのエースユニットであるのだ。


「もしも《高圧発生装置》が入ってなかったらミライちゃんの戦線の突破にはもっと時間と手間がかかって、詰ませる準備なんてやってる暇もなかったはずっす。危ないところだったっすよ」


「はっ──ほざけロコル」


 その時はその時で、手間こそ余分にかかったとしても別ルートで詰ませていたはずだ。ロコルにはそれができる。そしてブレイザーズの脅威を、最後までロコルのデッキを正しく見抜けなかった己にはそれを防げる道理がない。そう自嘲的にミライは笑って──。


「我の負けだ」


 月光剣がもうふたつ、彼女のライフコアを斬った。



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