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299.完成度

 ミライは自身の誤算に自覚的であった。ここにきて、ロコルの言う『詰み』の形が見えてきてようやくそれを自覚できたのだ。


 ロコルが操る無陣営単色デッキという変わり種の強味とは、まさに変わり種であることにある。何よりも意表が突けること。相手に心理的な一撃を与えられるという利点に関して変則は定石に勝る。変わっていれば変わっているほど、定石から外れていればいるほどに一撃の重みが大きくなるのは言わずもがな。なので、数を集めることすら一般人には難しい無陣営カード。集められたとしても主軸色を補助する差し色としての役割を与えられがちな──実際に無陣営はそういったコンセプトで成り立っていることは明白なのだからこれは紛れもなく定石である──それを使って、それだけを使って。色のないデッキで戦うこと。その行為の変則性の度合いはであり、畢竟それこそがロコルの求めているものだとミライは考えていた。


 相手を驚かすこと。ペースを崩させ、ファイト展開を優位に運ぶこと。本来ならあり得ないシチュエーションやまったく想定していないデッキと戦わされることでいつも通りのプレイができなくなるドミネイターは、決して少なくない。明確にプレイングに瑕疵が生じるとまではいかずとも多少なりとも影響を受けてしまう、という区切りで言えば大半がそうだと言っても過言ではないだろう。ミライとて例外ではなく、無陣営単色というこれまでファイト経験のない未知なる相手に対し誤解や先入観。無用な気負いや、あるいは逆に警戒せねばならないところへの無関心。そういったミスがなかったとはとても言い切れない。むしろ「こうすべきだった」と反省するべき点が自身でもいくつか思い浮かぶ以上は、ここは自罰的にミスだらけだったと評するほうが適切である。


 そのことを踏まえて、自覚した。変則性に振り回された、その事実を前提として。しかしロコルのデッキの強味とは「それだけ」ではない。変わり種として相手のミスを誘発させる点も間違いなく強味であり旨味であれど、けれど最大の利点はそこにない。


 しっかりと強いのだ、ロコルのデッキは。それを操るロコルは。変則に頼るだけでない定石的な強さも合わせ持っている──確立させている。その思いもよらぬ完成度・・・の高さ、それを完全に見誤っていたとミライは認めざるを得ない。


 まだあまり無陣営ユニットの数がいないからだろうトークン殺法も、色を多く使う相手にこそ有利に働く《誤った航路》や、切り札から切り札に繋いでいく計算されたファイトの流れも。それらがミライに教えてくれる。昨今のドミネシーンを研究し、急速に流行りつつあるミキシングへの対策を組み込みながら、己の望む展開に持っていくための手段も用意して、勝ち切る秘策も仕込む。デッキ構築に要求される全ての要素を高い次元で結実させているのがロコルであり、彼女のデッキであると──変わり種だから強いのではない。変わり種でも基礎を拾い、要点を抑え、定石を守り。それを無陣営のみで実現させていること。


 つまりは彼女のデッキビルド能力の高さこそが強さなのだと、ようやく理解できた。


(無論、我の『仄暗き』デッキとて完成度で劣っているとは思わん。後れを取っているなどとは断じて思わんが、しかし──)


 しかしこうして向かい合う上で、戦う上で。意識の差というものはあったろう。ミキシングとのファイトを見据えて対策していたロコルと、無陣営への対策など考えたこともなかったミライと。向かい合う前から、デッキ構築の段階からそこに差はあった──そしてミライが先入観を捨て切れずにいた今の今まで、その差は開き続けていた。より影響が広がっていた。互いに必殺の布陣を完成させつつも攻めきれず、それでいてロコルの方はひっそりと、ちゃっかりと。盤面の奪い合いの裏で着実に「勝ち切る秘策」を仕上げていたこと。ミライよりも早くにその段階に達したという、それがこのファイトの全てを。ロコルとミライの間にあった差を表していると言っていい。


(ただし貴様はまだ勝っていない。我より一歩先んじたのは事実だが、そこに追いつけないと。追い越せないと決まったわけではない……!)


 ロコルの宣言通り本当にミライが詰まされているかどうかは、ロコルのエースユニットが。ブレイザーズ・ナイトが教えてくれるだろう。月光の輝きを宿した大剣を手にフィールドを駆け迫るその姿に、ミライは一切怯むことなく叫ぶ。


「我のライフコアは貴様と同数の四! ブレイザーズと修道女トークンのアタックを受けてもまだ半分残るぞ!」


 そして言わずもがなコアがブレイクされるたび、クイックチェックという反撃のチャンスも訪れる。またしてもオーラ勝負となるが、その激突に勝つ自信がミライには充分にあった。先は不覚を取ったが同じ失敗は二度としない。ロコルがそうやって反撃の目を掴んだように、自分もそれをやり返してやろうではないか──という意気込みをそっくりそのまま読み取ったかのように、昂りを見せるミライに対して実に静かにロコルは言った。


「残念っすけどミライちゃん。そういう段階はとっくに終わってるんすよ。だから『詰ませる』と言ったんす」


「……!?」


「《月光剣ムーンライト》がユニットへ与える効果は四つもあるっす。まずひとつ目はパワーをプラス1000させるおまけもいいところの効果。強化の数の内に数えなくてもいいようなものではあるんすけど、とにかくブレイザーズのパワーは6000になるっす!」


 《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》

 パワー5000→6000


 パワーアップと言うにはあまりに控えめな上昇値だが、それでもブレイザーズの力が増したのは確かなようで、地を蹴る彼の脚がほんの少しだけ力強くなった。だがこれはロコルも言ったようにまさしくおまけでしかない効果。月光の剣がもたらす変化の真価はここからだった。


「ふたつ目! そのユニットのブレイク数をプラス1するっす!」


「ブレイク数の増加──つまり現在のブレイザーズは実質的に【重撃】ユニットである、ということか!」


「そうっす。【重撃】持ちが装備すれば一度のアタックでライフコアを三つブレイクできるようになるっすよ。もちろんブレイザーズはそうじゃないんで、ふたつ止まりっすけどね。それでも充分な破壊力っす」


 まったくその通りだとミライは強く歯を噛み鳴らすことで返事とする。ブレイザーズのブレイク数が増えたということは後発の修道女トークンのアタックも含め、攻撃を通してじえばこのターンに最低でも三つのライフコアが削られることになる。そうなれば残されるライフはたった一、まさに敗北の一歩手前。どちらも少ないことに変わりはなくともライフにおける一と二の差は絶対的だ。さすがにそこまで追い込まれて焦らないほどミライは豪胆ではない──そこで余裕を見せられるのはよっぽどのバカか、あるいはそんな窮地からでも確実に勝てるという自信が持てるだけの超常的な腕前を持つ才者くらいのもの。


 前者はもちろん、惜しむらくも後者でもない。とミライは自信家かつ激情家でありながらも客観的に己をそう評価しているために、むざむざと三つもライフコアを奪われるのはご免であった。


「ならば大司教でガードする!」


 故にダイレクトアタックを通してはいけない。様子見でアタックを受けるにしても修道女トークンの方でいい、とミライは判断を下し自身のエースユニットへガードを命じた。


 が、しかし。


「な……なんだと!?」



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