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298.出でよ月光剣、ブレイザーズの真の力!

「《誤った航路》の追加効果・・・・を適用っす! 捧げられた相手ユニットの所属する陣営によってコストコアが補充チャージされる──その数は一色につきひとつ! つまりミライちゃんが白黒のミキシングユニットである《仄暗き修道女》を捧げたことによって、自分は新たにデッキの上からカードを二枚! コストコアに変換することができるっす」


「色につきひとつ、だと……それではまさか」


 ロコルは無陣営という色を持たない陣営に所属するブレイザーズ・ナイトを捧げた。とくればこちらが得られるコストコアはゼロになるのではないか──というミライの悪い予想は、幸いなことに外れており。


「無陣営も一色として扱われるっすからそこは安心してほしいっす。ミライちゃんもチャージは行えるっすよ、自分とは違って一個だけっすけど。ちなみにこれは強制効果じゃないんでチャージしないっていう選択もありっすけど、どうするっすか?」


「ふん、貴様のおかげで《仄暗き大回廊》によるドロー加速もそこまで進んじゃいないからな。デッキ枚数にはまだ随分と余裕がある……ならば当然、チャージを行なうに決まっている!」


「OK、そんじゃお互いにコストコアをブーストさせるっす!」


 両者のデッキトップが独りでにめくれ、宙を舞い、そしてコアゾーンへと収まって魔核コストコアに姿を変える。相手はふたつ、自分はひとつ。新たに増えたそれを見てミライは片方の眉を上げた。


「ほう。レスト状態ではなくスタンド状態で置かれるのか」


「そうなんすよ。すぐ使えて大助かりっすよねぇ」


「ターン中である貴様にとってはな。いいからさっさとプレイを進めろ。その増えたコストでまだ何かするんだろうが」


「ふふ、そう急かさなくたっていいじゃないっすか。……《誤った航路》の処理もこれで終わったことだし、もちろんやらせてもらうっすけどね!」


「!」


 やはり来るか、とミライは身構える。事前の予告通りに盤面を崩してみせたとはいえ、ロコルがやったことは単にスペルカードを一枚唱えただけ。増えた2コストを含めまだ未使用のコストコアが五つもある以上──そして手札も六枚ある以上、これだけでロコルが攻め手を終わらせるなどとミライは露とも思っていなかった。なので再び彼女のオーラが隆起するのは想定内。あとはいったいどんな手を打ってくるか次第だが……。


「もういっちょスペルカード! 3コストを使用して《無意識》を発動するっす!」


 また無陣営の単色(と言うと無陣営の特性上なんだか違和感もあるが)スペル。今度はどんな効果なのかと警戒を見せたミライの前に、突如としてロコルのエースユニットであるブレイザーズがどこからともなく姿を現わした。


 《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》

 コスト7 パワー5000


「なにっ……こいつはたった今、我が修道女と共に墓地へ行ったはず!」


「それを引っ張り上げるのが《無意識》っす。このスペルは詠唱するターン中にフィールドから離れた無陣営のユニット一体を蘇生召喚させるものっすから。《誤った航路》とは違って追加効果もない、とってもシンプルなスペルっす」


「ちィっ、自ら墓地送りにしておいてすぐさま蘇生させるプレイング。それによって貴様が得られるものはつまり」


「そう、つまり! 墓地から蘇ったブレイザーズが三度みたび登場時効果を発動させるっす! オブジェクト・サーチ!」


 自らのデッキを手に取り中身を開いたロコルは、すぐにお目当てのカードを見つけて引き抜く。デッキのシャッフルに関してはファイトボードの機能に任せつつ、彼女はサーチしたそのカードをミライへと示した。


「持ってきたオブジェクトカードは《月光剣ムーンライト》。そしてサーチしたオブジェクトが無陣営だった場合、ブレイザーズはそれを無コストで場に呼び出すことができるっす──ムーンライトは当然無陣営のカード、よってコストなしで設置するっす!」


「……!」


 フィールドに突き刺さった一振りの剣。それは幅広の刀身が青白く光を放つ、まるで鉱石で出来たような一品であった。見た目はあたかも儀礼用のそれのようで、繊細かつ精緻なその造りからすると形こそ剣であってもとても武器だとは思えない──だがしかし、地面に刺さったままに刃が異様な佇まい。異常な存在感を前にして、ミライの喉は自然とごくりと音を立てていた。


「ムーンライトはさっきサーチした《ジェットパック》と同じく装備オブジェクト。特定の装備可能なユニットにだけ効果をもたらす特殊なオブジェクトカードっす」


 オブジェクトだけでは起動せず、装備対象となるユニットが場にいてこそ初めて効果を発揮するカード。聞いて分かる通りただでさえ癖のあるカードが多い通常のオブジェクトよりも一段と扱いにくい代物ではあるが、しかし好きなオブジェクトをデッキから持ってこられるブレイザーズと組み合わせるなら扱いにくさなどあってないも同然。そしてドミネイションズ全体がそうであるように、活用の難しいカードであればあるほどハマった場面では大きな脅威となるもので。


「ムーンライトを装備できるのは種族にナイトの名を持つユニットだけっす。ブレイザーズの種族は『クリアナイト』──なんで問題なく装備可能っす!」


 一旦オブジェクトとして場に出してしまえば装備自体にコストはかからない。ブレイザーズは当然の権利とばかりにムーンライトの柄を掴み、地面から引き抜いた。高潔さを思わせる青白い光が一層に強まり、フィールド全体へと波及する。ここにブレイザーズ・ナイトが「完成した」のだと、ミライは何故だかそんな風に思った。思わされてしまった。だからその質問が口をついて出た。


「そのオブジェクト。コストはいくつだ……?」


「ムーンライトっすか? っす。ちょっとオブジェクトとしては重過ぎるっすよねー……まあ、それに見合った効果はあるんで別にいーんすけど」


「7コストの、無陣営の、装備オブジェクトカード──、」


 そんなもの、見たことも聞いたこともない。特大級に取り回しの利かないそんなカードが、いったいどんな効果を持っているのか。どんな暴れ方をするのかなどまったくわからない。僅かな予想すらも付かない──これからどうなるかなど、まるで。


「残りの2コストで《ジェットパック》も設置するっす。このオブジェクトはミキシング以外のユニットならば誰でも装備可能っす。てことでこっちもブレイザーズに装備して……これでブレイザーズは【疾駆】を得たっす」


 蘇生で蘇ったが故の召喚酔いから解放され、ますます剣を持つ手に力を漲らせるブレイザーズ。オブジェクトを呼ぶ以外にはなんの効果も見せない、一切戦闘向きではなかった先ほどまでの様子とは明らかに一変した彼が醸し出す謎の迫力に、ミライは思わず一歩下がりかけて──気力でその足を押し留めた。


 怯んではならない。それは矜持が許さない……だけでなく。


 怯めば負ける。確実に、持って行かれる。

 そう予感が告げるから。


「言うまでもないっすけど、ミライちゃん。ムーンライトも自分のデッキの切り札の一枚っす。それを装備したブレイザーズがいるからにはもう、自分に負けはないっすよ」


「……『詰ませる』とはそういう意味だったか。こいつがムーンライトを装備さえすれば、そのプレイを通しさえすれば確実にファイトに勝てると。そんな絶対の自信があるという……くっく」


 面白い、とミライは口内で呟く。


「なら見せてみろ。貴様がそうまで信じるエースユニットの真の力。大型オブジェクトを手にしたブレイザーズの本領というものを、この我と大司教に!」


「──ブレイザーズでアタックするっす」



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