293.蘇る無敵
「まずは一枚目! 大司教による復活対象として我が選ぶのは当然、エリアカード《仄暗き大回廊》だ!」
「ッ、」
そうくるだろう、とは思っていたが。しかしフィールドへ蘇る薄暗い回廊を前にロコルの顔付きはどうしても険しくなる。先ほどミライはこのエリアカードを犠牲としてこちらのユニット以外の全てを完全壊滅させたのだ。それだけの大破壊をもたらした代償がすぐさま戻ってきたとあっては彼女としてはたまらない。冗談ではない、といった感じだ。無論これは冗談でもなんでもなく、ただの現実そのものであるからして《仄暗き大司教》はまだ止まらない、止まってはくれない。
「続いて二枚目の復活対象は──《仄暗き修道女》だ!」
《仄暗き修道女》
コスト4 パワー2000 MC
二枚同時復活こそが大司教最大の持ち味。それを存分に活かさない手などミライにあろうはずもない。そして蘇ったのは単に一枚のエリアカードとユニットカード、ではなくて。自身の場を見渡したミライは復活の儀式を行った大司教に習うように自らも大きく両腕を広げて高笑う。
「わはははは! わかるなロコル、貴様が切り札を用いて破った我が盤面! 大回廊と修道女による無敵の布陣がここに蘇った! 《高圧発生装置》なき今、貴様に再びこれを相手取れるか!?」
大回廊は『仄暗き』と名の付くユニット全てに戦闘破壊耐性を与え、修道女は『仄暗き』と名の付くカード全てに相手の効果では場を離れない耐性を与える。互いが互いの穴を埋めるこの組み合わせはニコイチの歯車の如くにがっちりと噛み合い、脅威的なまでの強度を実現する。そこに付け入る隙が見いだせなかったばかりに展開プランを変更し、ブレイザーズで《高圧発生装置》というルール面からの除去を可能とするオブジェクトをサーチし、ある意味での横紙破りによって解決を図ったのが先のターンのロコルであるが。その重要な役割を果たしてくれたカードはもうフィールドに残っていない。他ならぬミライの手によって破壊されてしまったために同じ方法での打開は不可能となっている。
(デッキに一枚だけのピン差しカード、とは言っても。二枚目以降の《クリアワールド》を筆頭に墓地のオブジェクトを再利用する手段は用意してあるっす。オブジェクトを活用するのもこのデッキのコンセプトのひとつなんだからそれは当たり前……ってことくらいはミライちゃんだってわかってるっすよねぇ。だからこそのあの高笑いっす)
自身の手札をちらりと確認しながらロコルは内心でそうため息のような思考を零す。現在の六枚の手札(内一枚は蘇ったブレイザーズでこのターンにサーチしたばかりのオブジェクト《ジェットパック》である)の中には、生憎と《高圧発生装置》を墓地から再設置できるようなカードはない。ならばそれを次のドローで引き当てる。それは──オーラをどれだけ消耗してしまうかという懸念を度外視すれば──決して不可能ではない。が、しかし。
とにもかくにも手間がかかる。復活用のカードをプレイして《高圧発生装置》を呼び戻し、起動のためにユニット一体を墓地へ送って修道女を片付ける……この一連のプレイによってロコルが支払うコストコア並びにユニットは決して安くなく、それでいてその行為によって処理できるのが修道女一体のみという点も褒められたものではない。
(修道女と共に並ぶ大司教のパワーは5000。《高圧発生装置》が与える二色持ちへのペナルティで充分に倒せる数字……なんすけどね。だけどこのユニットにはおそらく……)
「くっく、大司教を見るその目。やはり貴様は勘がいいな。そうだそうともその通り、大司教の復活効果には続きがある。この効果によって復活させた『仄暗き』カード一枚ごとに自身のパワーを1000上げる、という追加のパワーアップ効果がな! 上昇値としては控えめな数値ではあるが、しかしこれのいいところは──常在型のそれなどとは違ってパワーの値が固定されること。今回の例で言えば、仮にこのあと大回廊や修道女が場を離れることがあっても大司教のパワーは下がらない!」
《仄暗き大司教》
パワー5000→7000
ふん! と憂いを感じさせる雰囲気は変わらずにマッスルポーズを取る大司教。ひらひらした司教服は彼の体型を隠しているためにそこに真実筋肉があるのか定かではないが、とにかく登場時よりも力強さは確実に増している。
「つまり素のパワーが7000になったってことっすよね」
「ああ、これで万が一にも《高圧発生装置》が色に沈む地平を再び繰り出したとしても大司教は生き残る。相応のコストを支払って得る貴様の戦果がユニット一体だけだというのなら、我もそう目くじらは立てまいよ」
「………、」
律義に技名(?)を繰り返したミライにやっぱそういうの好きなんすねぇ、いかにもっすもんねなどと頭の片隅で思いつつ、ロコルは「それだけじゃーないっすよね?」と訊ねる。その全てを受け入れたような神妙な問いかけにミライはくつくつと笑い。
「大回廊の効果を忘れてはいないようだな──常在型効果を適用! 我がフィールドの『仄暗き』ユニットはその数だけパワーをプラス1000させる! つまり大司教と修道女はそれぞれ2000のパワーアップを果たす!」
《仄暗き大司教》
パワー7000→9000
《仄暗き修道女》
パワー2000→4000
大司教に促され、横に立つ修道女も(イヤイヤに)慣れないマッスルポーズを披露する。彼女の方も修道服によって体型が隠れているために──それでも明らかに痩せぎすであるが──そのポージングに相応しいだけの筋量があるのかは果たして謎であるが、しかし傍らでポーズの指導を熱心に行う大司教に関してはいよいよ肉体の力強さが軽視できないレベルにまで達していた。
「あーらら。これは随分とパワー面で引き離されちゃったっすね」
二重の強化を経ても10000の大台に達していないところに『仄暗き』カテゴリの特徴的非力さ、翻って設計段階でのパワー設定の低さをふつふつと感じさせられるが、それでも9000という数字は十二分に大きなものだ。なんの強化もなく元来のステータスでこれだけのパワーを持つユニットなどそうはいない。いてもそれこそドミネイションズにおける究極生物とまで呼ばれる赤陣営のドラゴンや、あるいは明らかにパワー設定が狂っている一部のミキシングカードくらいのものだろう。
「わかるぞロコル。無陣営もまた陣営単位でパワーが低く設計されている。そうなのだろう? ブレイザーズも効果が強力とはいえ、7コストという大型分類のコスト帯にしては5000のパワーはいささか低すぎるからな。大方『差し色に役立つ』という陣営コンセプト上、単体でエースとなり得るだけのパワーは持たせないようにという調整なのだろうが──そのおかげで繊細な我が『仄暗き』軍団でもそう労せずに蹂躙できそうだ」
「蹂躙、っすか」
「くくっ、大仰な言葉選びと思うか? だが大回廊が蘇った以上ユニットを並べるほどにパワー差は広がっていくのだ、これよりの蹂躙は絶対にして必然。その手始めをまず行なおう!」
やるがいい、大司教! 主人から下される再びの高らかな命令に、老年とは思えぬ肌のハリを得た大司教が機敏に反応を示す。
「大司教は【好戦】を持つ、よって召喚されたターンにユニットへの速攻が可能! そして大司教ふたつ目の効果──このユニットはアタックでもガードでも疲労状態にならない!」




