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291.復古・崩壊・絶対攻勢

「崩れた、って。おいおいっすミライちゃん。何を言うかと思えばそれこそ気の早いセリフじゃあないっすか? 何やら相当に気合を入れてドローしてたみたいっすけど。まさかその右手の一枚だけで自分のこの盤面が崩壊させられるなんて、そんなことは言わないっすよね?」


「ふ……貴様はどう思うんだ? 我の言葉が単なる虚仮脅しに聞こえるか、否か」


「……、」


 問われて、ロコルはミライをじっくりと眺める。その勝ち気な笑み、左手に大量の手札を、右手に今し方新たに掴んだカードを携えて、気迫に満ち溢れた佇まいを見せるその少女は──そんな少女の姿からは、ひしひしとその本気ぶりが伝わってくる。なのでロコルは「たはは」と諦めたように笑うしかなく。


「悪いことにまったくそうは思えないんすよねぇ、これが」


「ハッ。すこぶる正しいとも、貴様のその感覚は。今それを証明してやる」


「……!」


 まさか本当に、たった一枚のカードでこの盤面を覆すつもりなのか。戦線と言えるほど場のユニットには数もパワーも足りていないけれど、しかし《クリアワールド》と共に立ち並んだ三つのオブジェクト。この布陣を形作っている主要物がユニットでないからこそ対処が難しいはずなのだが、それを彼女は。


 ふっとミライが息を吐く。それは極限まで集中してのドローを行なった後の息継ぎでもあったし、警戒を見せるロコルへの挑発でもあった。


「考えてもみろロコル。あくまでブレイザーズ・ナイトとのコンボを重視して《クリアワールド》を切り札に据えている貴様とは違い、我の『仄暗き』デッキはまさに《仄暗き大回廊》という一枚のエリアカードこそが根幹であり本命! であるなら、だ。エリアカードの価値を認め重用する我なのだから、その逆に。相手が使うエリアカードの活躍を許さぬための策をすることだって何もおかしくはあるまい?」


「──なるほど。さっきのドローはそれを引き当てるためのものだったんすね」


「然り。その恐ろしさを味わわせようではないか──4コストで黒単色スペル! 《地盤崩壊》を発動する!」


 ミライが掲げた一枚のスペル、その効力が発揮された途端に双方のフィールドがぐらぐらと激しく揺れ出した。「なんすか!?」と慌てながらもファイトボードに手をついて倒れることを阻止するロコルへ、揺れなど感じていないかのように己が足だけで立つミライは「知りたくば教えてやろう」と説明を始めた。


「このスペルは発動に条件があってな。それは自身が展開しているエリアカードを墓地へ送ること! ちょうど貴様の《高圧発生装置》がユニットの犠牲を要求するように《地盤崩壊》はエリアの破棄を強いてくるというわけだ」


「なっ、デッキの根幹のはずの《仄暗き大回廊》を自ら捨てるってことっすか!」


「代償は軽くない。だがそれによってユニット破壊に長けた黒がユニット以外にもその牙をかけられるのだから、得られる対価も軽くない!」


「ユニット以外にも──まさか!」


「そのまさかだ! 《仄暗き大回廊》を墓地へ送り、《地盤崩壊》の効果処理へと入る! その効力は貴様のフィールドに存在するユニット以外の全てを! エリアカードだろうがオブジェクトカードだろうが区別なしに破壊するというもの!」


 フィールドを上下に動かす揺れがますます酷くなる。地面にはビキビキと亀裂が走り、オブジェクトたちは抗う術もなくそこに飲み込まれていく。そしてオブジェクトだけでなく、先んじて墓地へ行った大回廊の後を追うように目には見えない透明な世界(クリアワールド)もまた場から排除されようとしている。それを察したロコルはそうなる前に行動を起こした。


「割り込んでこちらも処理に入るっす! 《クリアワールド》の復活効果を起動して、蘇生召喚! 蘇るっすよ《無銘剣ブレイザーズ・ナイト》!」


「最後っ屁といったところか。構わん! 滅び去れロコルの布陣よ!」


 パリィンン、と薄いガラスが割れ砕かれるような音を立てて見えない領域が消える。それと同時に三つのオブジェクト《高圧発生装置》・《英雄叙事詩》・《トツカノツルギ》も地割れの底へ沈んでいった。──ロコルは一挙に四枚ものカードを失った。《仄暗き大回廊》の破棄込みでもミライは二枚しかカードを消費しておらず、また築いた盤面の崩壊という点も含めてこの差し引きは実際の数字以上に大きなものだった。が、しかし。彼女には《クリアワールド》が託したエースユニット、ブレイザーズ・ナイトがいる。


「ここでブレイザーズの登場時効果を発動するっす──デッキから好きなオブジェクトカードをサーチして、それが無陣営であれば無コストで場に出すことができるっす!」


「ふん、さっぱりさせてやったばかりだというのにまたオブジェクトが湧いて出てくるか……まあ良かろう。なんだろうと呼び出すがいい。二枚目の《高圧発生装置》でも設置するか?」


 デッキを取りながら「それも悪くないっすね」と返すロコルだったが、生憎《高圧発生装置》は一枚しか採用していないピン差しカード。何せ高コストの上にユニットの犠牲も必要とする扱いやすいとはとても言えないオブジェクトであるからして、まずもって《クリアワールド》を先に展開しておかないことには活用が難しい。そんな活かしどころがニッチなカードを何枚もデッキに入れないのは構築セオリーのひとつ。それはミライとてわかっているので、この軽口めいた質問は薄々と二枚目が存在しないことを察しているからこそのものだろう……と考えつつ、お目当てのカードを見つけたロコルはそれを引き抜いてデッキを置き場へと戻す。


 ちなみにこういった特定のカードのサーチはプレイヤーが望めばファイトボードが自動的にやってくれるのだが、そこをロコルはあえて手動で行う。そこに合理的な理由は特になく、単にカードを探す行為が好きだからそうしているだけだが……その僅かな時間をファイト中という緊張状態でも楽しめる、それだけで彼女にとっては充分に合理的な理由と成り得るのだろう。


 それが影響してかどうか、サーチしたカードをミライへ提示するロコルの表情はたった今構えた盤面を崩されたばかりと思えぬほどに明るいものだった。


「持ってきたのは《ジェットパック》! 『装備オブジェクト』っていうオブジェクトの中でも特殊な種類のものっすよ」


「装備オブジェクト……」


 概容は、知っている。それは確か場に設置された後、特定のユニットに装備されて初めて効果を発揮する特異な挙動を見せるカード。実物を見たことも使われたこともないミライなのでそれ以上の知識は持ち合わせないが、されどロコルのデッキはブレイザーズの効果もあってオブジェクトを厚く積んだ構築。ならば無陣営の装備オブジェクトなどという希少に希少を重ねたようなカードだって搭載されていようとなんら不思議ではない。ミライはそう結論付けた。


「《ジェットパック》はこのまま手札に加えるっす」


「ぬ? 無陣営オブジェクトなら無コストでプレイ可能だというのに、そうしないと?」


「やめとくっす。またどんな方法でオブジェクトを破壊されるかわかったもんじゃないっすからねー。《クリアワールド》を除去されちゃった以上はそうそう復活もさせられないっすし、慎重になるのが吉っすよ」


「つまりは攻め手を緩める、ということだな。好きに日和っておくがいい、その間に我は再び絶対攻勢を築く……!」


 残った三つのコストコアをレストさせ、ミライは新たに一枚のスペルカードを詠唱する。


「白単色スペル《神聖復古》! 我は手札から4コスト以下の白陣営ユニットを無コストで召喚することができる──またこのコスト指定の上限は墓地に眠る白陣営ユニット一体につき1増える! 我の墓地には三体の『仄暗き』に加え白単色ユニットが一体、合計四体の白ユニットがいる! よって上限は8コストにまでアップ!」


 出でよ、我がエースユニットよ! そう高らかに声を張り上げたミライが呼び出したのは──。



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