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285.好敵手

「我が墓地より《ブラック・トリケラル》をゲーム外へと取り除き! トリケラルの持つパワー4000以下になるよう貴様のユニットを選び、破壊する! 食らえぃ!」


「っ……!」


 ゲームから取り除かれたカード(これを追放状態と言う)は基本的に、そのファイト中には利用ができなくなる。墓地やコストコアゾーンとは違って『ゲーム外』という領域に触れる手段はドミネイションズにおいて存在しない。よって墓地から取り除かれた《ブラック・トリケラル》をミライが再使用する展開はまず来ないと言っていい……それは墓地活用を戦術のひとつとする黒陣営をデッキカラーに据えている彼女からすれば決して安くない代償であるはず。


 何せ破壊に並び蘇生が得意なのが黒という色の文字通りの特色であるからして、墓地が肥えていれば肥えているほど──ユニットが大量に眠っていればいるほど、戦い方の幅も厚みも増すのは当然の理屈。その戦力を自ら減らしてしまうのだから黒のスペルとして《死魂の一撃》は存在自体がアンチシナジーであると言っていい。


 だが、シナジーに反するからこそこのスペルは強力だ。貴重な墓地ユニットを追放してしまうこと。そしてそのユニットのパワーが高ければ高いほど破壊対象を選びやすいこと……つまりはステータスに優れた、より強いユニットを手放すことで初めて相手にも大きな負担を強いることができる。こういった様々な面での扱い辛さを有しているが故に、2コストと軽量スペルながらに複数除去を見込める性能に仕上がってもいるのだ。


 ステータスの高いユニットをにしなければ真価が発揮されない。その観点からいくと『仄暗き』という素のパワーが低めに設定されているカテゴリをメインにしているミライのデッキとは、そこでもシナジーに反しているように一見は思えるが。けれどこれは考え方が逆だとすぐさまロコルは気付いた──戦術の土台となるエリアカード《仄暗き大回廊》が展開されるまでの間、殴り合いに弱い『仄暗き』だけでは盤面の維持が利かない。戦線の押し合いができない。そこをカバーするために採用されているのが黒単色ながらにパワフルな《ブラック・トリケラル》であり、そういったユニットを糧にできる《死魂の一撃》という除去スペルなのだろう。


 この運用はまさしくミライの思う通り。構築段階から想定された理想通りの動き。フィールドで暴れるだけ暴れたトリケラルは、その復活能力を使い切った後にもスペルの弾として活かされる。骨の髄まで、魂の一滴までもが主人たるプレイヤーのために費やされる……それもまた実に黒陣営らしいユニットの活躍の仕方だと、ロコルは思った。


「《ドッペルズ・トークン》と《仄暗き聖女・トークン》! 破壊対象はこの二体だ!」


 《ドッペルズ・トークン》

 パワー3000


 《仄暗き聖女・トークン》

 パワー1000


 トークンのパワーを強化するオブジェクト《トツカノツルギ》がなくなったことでステータスを落としている二体の合計パワーは4000、ちょうどトリケラルのそれと一致する数字であった。ミライの墓地より飛び出したトリケラルの魂と思わしき黒い何かがドッペルズと聖女トークンに着弾。その何かごと二体はまとめて蒸発するようにしてフィールドから消滅してしまった。


「怨殺撃破! 本当ならドッペルズに加え破壊するのは厄介な登場時効果封じを持つ《ロストボーイ》の方が望ましかったんだがな。しかし破壊したところでそいつは《クリアワールド》の効果で何度でも蘇るのだから徒労になる……それに比べカードを持たないトークンは破壊されても墓地に行かず、ただ消え去るのみ。《クリアワールド》でも復活させることはできない。当然、残ったその修道女トークンもそれは同じだ」


 トークンという存在であるが故の利点、欠点。それは決して覆せるものではない。それが有用に働く場面もありはしても、少なくとも今この瞬間に関して『破壊されればそれまで』というトークンの特徴はロコルにとって不利に、ミライにとって有利に働いている。


「追放状態以上に再利用の目途がないっすからね、フィールドから消えたトークンなんて」


 痛いところを突かれたとばかりに「やれやれ」と肩をすくめてみせるロコルは、その内心で《トツカノツルギ》よりも《英雄叙事詩》の復活を優先させたのは誤りだったろうかと考える──もしも選択を逆にしていれば、ドッペルズも偽聖女もパワーが1000ずつ上がり、そうなれば《死魂の一撃》でこの二体がまとめて撃破されることもなかった。……しかし仮に復活させたのが《トツカノツルギ》だったとしても、それはそれでどうだろう。ミライにはまだ七枚も手札があるのだ。あの中にはロコルが違う選択をした場合にも対応できるだけの策があると見て然るべきではないだろうか?


 もしも前の自ターンで《ロストボーイ》を蘇生させず、ふたつのオブジェクトを揃えることを優先していたとしても同じことが言える。それならそれでミライはその状況に応じた手を打ったに違いない。事実、このターンに彼女は《ロストボーイ》の効果を活かす機会を与えてくれなかった。そういった細かなプレイングをできるのが宝妙ミライというドミネイターなのだから、結局のところどんな順番で復活させたところで結末は似たようなものだったろう。つまり自分に瑕疵はなし、とロコルは結論付ける。


 そのある種のをミライは見咎めた。


「思いの外に……明るい顔をするじゃあないか。理解が及んでいないわけでもあるまいに。我が戦線の恐ろしさと、これより己の辿る敗北の運命を、わかっていないわけでもあるまいに。何故貴様はそうも呑気なんだ?」


「え……そんなこと言われてもっす。じゃあなんすか、絶望に打ちひしがれながら、半ば諦めたような悲壮感を全身に漂わせながらファイトしろってことっすか?」


 いざ自分がそんな体たらくを晒せばミライは激怒しそうなものだが。そう思いながら訊ねたロコルに、やはりミライは盛大に顔をしかめて。


「貴様がそうなってもまず信用しない。何かしらを騙ろうとしているのだと疑ってかかるに決まっている……信用はなくとも貴様に対するそれくらいの信頼は、あるつもりだ」


「ライバルとしての、っすか。それとも同級生の友人としての?」


「無論、前者だ」


「ふふ、まあそうっすよね。ちょっと残念……でもそっちだとしても割と嬉しいっすね」


「そうだろうそうだろう。この宝妙ミライに好敵手と見定められる喜びは格別なものだろう」


「や、別にミライちゃんに限らずマコトちゃんとか、あとはイオリもっすけど。まあなんというか、そういう『ライバル』と呼べるような相手がいるのって、すごくいいなって思うんすよ」


 と出会うまで。そのドミネファイトへの愛に心を打たれるまで、ずっと一人だったロコルだ。彼女の味わった寂しさは天凛の才者エミルの孤独にもなんら劣らぬものだったろう──兄と同じく、一人きりでいた当時こそそんな自覚など一切持っていなかったが。その事実をに気付かされたことも含めて、まったく似た者兄妹である。やはり血は争えないものだと半年前に大笑いしたのを思い返しながら、ロコルはミライへ。愛すべきライバルへと語りかける。


「向かい合う『今』を大切にするっす、ミライちゃん。この先もずっと楽しく一緒にファイトができるように──自分にできる精一杯で、全力で、あんたを倒す」


「……!」


 うねりを見せたロコルのオーラが、フィールド全体へと吹き荒ぶ。体を押されかねないほどの力強さを受けて、ミライもそれに応えんと意気を吐く──。



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