283.相互補完、完璧の耐性!
(オブジェクトで場を整え、仮にオブジェクトが除去されたとしても《クリアワールド》で際限なく復活させる。なるほど確かに厄介だ。奴の性格を反映させたかのようにイヤらしい盤面を敷いてくる……が、打てる手立てがないわけではない。こういったガチガチにフィールドを支配してくるコントロールタイプへの対策も、当然に我のデッキには用意がある)
生憎と七枚の手札の中にそれに該当するカードはないものの、前述したように《仄暗き大回廊》のドロー効果で引き当てるのを狙うこともできる。活用の場面がニッチであることからピン採用であるために、ドローを重ねたところでそう都合よく──ロコルのオーラによる阻害も考慮すれば──引けるとは限らないのがネックではあるが……。
(それにあのカードは我の方も多大な代償を強いられる……一枚で解決できるとはいえそれを使うのがこの場面における正着かというと、決してそうではない)
ならばここは無理をして例のカードを引こうとするよりも自然なドローに身を任せよう。手数が増えるだけでも充分な成果なのだから、オーラの無為な消耗を抑えるためにもそれがベストに違いない。そう判断したミライはアクティブフェイズに入って最初にエリアカードの効果を発動させた。
「《仄暗き大回廊》の起動型効果を発動! 自軍の『仄暗き』ユニットの種類の数だけドローすることができる。先と同様に我の場には二体の『仄暗き』名称のユニットがいる、よって二枚ドロー!」
これでミライの手札は九枚となった。手札を温存して戦うコントロールタイプであってもなかなかに到達しない枚数である。手札における九とはおおよそ膨大な数字だと言っていい……が、そこで注意しなければならないことがミライにはある。それは『デッキ切れ』による敗北判定。
ドミネイションズのルールでは山札に一枚もカードがなくなった瞬間にそのプレイヤーの敗北が決定する。相手のライフコアをブレイクしきるまでには、最低でも一枚はデッキにカードが残っている必要があるのだ。ミライが操る『仄暗き』カテゴリはサーチやドローを多用して次のカードへ繋げていくのがコンセプト。その都合上ただでさえデッキの減りが激しいというのに、ドローできるからといって調子に乗って大回廊でカードを引き過ぎては、あっという間にデッキが枯渇してしまう。
大回廊によるドローは枚数が決まっている。場に『仄暗き』ユニットが三種類いる状況で一枚だけドローする、などという融通は利かず、その際には必ず三枚ドローしなければならない。「手札はあればあるだけいい」とはよく言うもののそれも行き過ぎては問題だ。使えるコストコアにも限りがある以上考えなしに引くだけ引いても持て余してしまうことになる──そういったミスをしないためにも、ついつい手札を増やしたくなるドミネイターの性にミライは理性で蓋をするのを忘れてはならない。
という留意点を踏まえた上で行なった今回のドローは、ミライの口元に笑みを作らせた。
「くっく。変に気負わなかったおかげかいいカードが引けたぞ。それも二枚共にこの状況にうってつけだ」
「へえ、そりゃよかったっすね。ミライちゃんが満足そうでお友達として自分も嬉しいっすよ」
「その減らず口もどこまで続くか見物だな。今度は我が盤面を敷く番だ──『仄暗き』の布陣をこいつで完成させる! 4コストで出でよ、《仄暗き修道女》!」
《仄暗き修道女》
コスト4 パワー2000 MC
聖女と指導者の間にそっと姿を現わした、これまた薄暗い雰囲気を携えた一人の女性型ユニット。名の通りに修道服を身に着けている彼女は、その古ぼけた服の裾をぎゅっと握り締めていた。
「修道女には聖女や指導者のように仲間を呼ぶ効果はない。だがその代わりこいつにはフィールドで仲間を守る効果がある──常在型効果を適用! 修道女がいる限り我の場の『仄暗き』名称のカードは相手カードの効果では場を離れない!」
「ッ! 『場を離れない』効果っすか──」
その文言に思わず苦い顔を見せたロコルに、彼女の真意に気付かずミライは調子づくようにして続けた。
「素晴らしい耐性だろう? 穴と言えば修道女のステータスが低く戦闘破壊に弱い点くらいだが、そこは既に《仄暗き大回廊》が付与する戦闘破壊耐性で埋められている。相互補完の守り! 修道女と大回廊が揃ったことで我が『仄暗き』は完璧なる布陣を築いたのだ!」
「おっと。完璧って言葉は重いっすよ、ミライちゃんが思う以上に。実際、修道女と大回廊は確かに硬くともまだ穴はあるっす」
「くく──そうだな、その通り。相手カードの効果を受けない耐性はプレイヤー自身で選び除去しなければならない類いの効果には無力だ。そこに貴様が気付かないはずもない……だが、だからと言ってそれがどうした? 対抗策を思い付くのとそれを用意するのとでは話が別だろう。相手プレイヤーに作用するタイプの効果は希少なのだ。その上で除去が行えるカードが、都合よくその四枚の手札の中にあるとでも?」
「…………、」
睨むように問うミライを、しばらく見返したロコルだったが。やがて彼女はゆるゆると首を横に振った。
「いや、残念なことにそんなカードはないっすよ。相手プレイヤー自身に除去を強要するカード……それがこの手札にあれば悩むことなんてなかったんすけどね」
「ふん、だろうな。そうそう対抗策など持ってこられない、だからこその完璧。敵が破れぬ布陣ならばそう評するに過ぎたことなど何もない。そして修道女が場に出たことでの変化はこれだけではない──《仄暗き大回廊》の常在型効果には戦闘破壊耐性のみならずパワーアップも含まれる! 『仄暗き』ユニットの数が増えたが故に、全体の強化量も等しく上がる!」
《仄暗き聖女》
パワー4000→5000
《仄暗き指導者》
パワー5000→6000
《仄暗き修道女》
パワー2000→5000
「三体いることでそれぞれの上昇値は3000。もはや非力さなど見る影もないな!」
「むむむ、三体揃って中型相当のパワーっすか。しかも除去も戦闘破壊も通じない。これはいよいよ洒落にならなくなってきたっすね……ってことでせめてもの抵抗として、こっちも復活させた《英雄叙事詩》の効果を発動! 《仄暗き修道女》のコピートークンを召喚っす!」
《仄暗き修道女・トークン》
コスト4 パワー2000
本物がそうしたように、聖女トークンの横に並ぶ修道女トークン。全体の色味が薄いこと以外はやはり修道女そっくりのそれをミライは「くだらん」と吐き捨てる。
「形こそ瓜二つでも模倣できるのは素のステータスと種族、キーワード効果のみ。それ以外の効果も陣営も、そして強化された値も参照されないのではもはや《英雄叙事詩》の生み出すコピートークンなんぞなんら脅威にもならない。……とはいえしかし、あまりぞろそろと塵芥に群れられても鬱陶しいことだ。ここは綺麗好きの我らしく、修道女と一緒に引いたこのカードで盤面の掃き掃除といこう」
そう言って、手札から引き抜いた一枚のスペルカードをミライは掲げ唱えた。
「残りの2コストを消費し、黒の単色スペル《死魂の一撃》を詠唱! 墓地に眠る黒陣営ユニット一体をゲームから取り除くことで、そのユニットのパワー以下の合計値となるように相手ユニットを破壊することができる!」
「黒お得意の破壊スペルっすか……! 破壊対象は──」
「対象は勿論! 《クリアワールド》で『蘇ることのできない』トークンを指定する!」
ミライの墓地ゾーンより、黒い何かが飛び出した。




