表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/510

27.再構築、獣の軍団。勝鬨の時!

「デッキの上からめくった五枚全てが召喚対象である『アニマルズ』ユニットだと……しかもそいつらは!」


「ああ、そうだコウヤ。グラバウ以外の四体は、ここまでお前が倒してきた獣軍のユニットたちだ!」


「ちぃっ……!」


 巨獣の王、グラバウ。灼熱の大地にも臆さず堂々と君臨するその威容の下、デッキに眠っていた獣の部隊が先に散った仲間の仇を取らんと戦意を爛々と瞳に輝かせながら立ち並び、コウヤと彼女の駆る獄炎の悪魔と対峙する。ガラ空きだったフィールドに今やユニットが六体。メーテールの能力を最大限に活用して再築させた自軍。その布陣の厚みにアキラは意気を高め、反対にコウヤは舌を打つ。


「わかってるだろうけど、獣軍の隊員たちは仲間がいるほどに相乗的に強くなる。俺の場には四種四体の隊員がいる──よってパワーアップ! まずはレコマンドの効果で己以外の種族『アニマルズ』のユニット全てのパワーが+1000され、そしてケイブリーの効果によって獣軍ユニットたちは全員パワー+4000!」


「くっ……!」


 強化範囲の広いレコマンドによってグラバウとメーテールも強化され、隊員限定の代わりに強化幅の大きいケイブリーによって獣軍が著しく逞しくなる。簡単に言えば、ものすごくマッチョになったのだ。メス熊であるベアールすらもムキムキになって戦闘体勢を取っているその光景の圧に思わず顔を引きつらせるコウヤだったが、しかしそこであることに気が付いた。


 そうだ。ともすればオス熊よりも筋骨隆々になっているこのベアールの効果とは、確か──。


「ベアールの登場時効果を発動! 墓地から獣軍ユニットを一体蘇生させる! 俺が選ぶのは一体目のケイブリー!」


「なんっ──」


「そして蘇ったケイブリーの強化効果適用、更に元からいたケイブリーの強化幅も上がる! よってレコマンド以外の獣軍ユニットは合計でパワーが+11000される!」


 11000だとぉ!? そう驚愕するコウヤのセリフも遠く、アキラの場はとんでもないことになっていた。


 《マザービースト・メーテール》

 コスト9 パワー2000→3000


 《キングビースト・グラバウ》

 コスト7 パワー7000 【好戦】


 《獣軍隊長レコマンド》

 コスト4 パワー4000→12000


 《獣軍隊士ベアール》

 コスト4 パワー2000→11000


 《獣軍大隊長グリズベッグ》

 コスト5 パワー3000→14000 【好戦】


 《獣軍守衛ケイブリー》×2

 コスト4 パワー2000→11000 【守護】


 コウヤのエリアカード《灼熱領域ヒートエリア》によって-2000の弱体化を受けてなおこの数値。これだけ圧倒的なパワーのユニットが揃っているフィールドは、もはや一種の芸術にも等しいだけの言い知れぬ厳かさというものが漂っていた。


「合計で24コストの踏み倒しに加えてこの戦線の過剰具合……アタシの《ヘイトスペンサー》が可愛らしいったらありゃしねえぜ」


 呼び出す先が比較的用意のしやすい手札であるスペンサーと、限られた手段でしか操作できないデッキの上であるメーテールでは、コストの重さもギャンブル性もまるで異なる。もしもメーテールの効果を絶対的に成功させるとすればデッキ内のカードを全て『アニマルズ』で固めなければならず──それはつまり緑陣営の生命線である『フェアリーズ』を採用できないばかりか、スペルカードやエリアカードというユニット以外の種類のカードすらも入れられないことを意味している。


 活かすためには構築段階から相当な制限をかけなければならない。そうでないとプレイヤーの運頼みの博打となってしまう、強力ながらにクセもアクも強いカード。効果発動のために手札を多く捨てる必要があるのも合わさって誰しもが使いこなせるものではない……それが《マザービースト・メーテール》という良くも悪くも劇薬チックなユニットなのだ。それは理解しつつも。しかし一世一代の博打が成功する様を──否、成功する様をまざまざと見せつけられた身としてはその派手な効果を恨みたくもなる。


 しかし、とコウヤはそれでも闘志を衰えさせず。


「グラバウとグリズベッグには【好戦】がある。そのアホみたいなパワーにゃ太刀打ちできねえし身代わりになる赤ユニットもいないからには《フレイムデーモン》も年貢の納め時だわな……だが、それだけだぜ。それだけのユニットを呼び出したってアキラ、お前にできるのはデーモンを倒すことだけなんだ」


 その後はエンド宣言し、コウヤにターンを回すことしかできない。そしてその時点でコウヤの勝利は確定する──何故なら彼女の手札には一枚、【疾駆】持ちのユニットカードがあるからだ。先ほどは《フレイムデーモン》の召喚を優先するために使わなかったカードだが、先のターンとは異なりアキラのライフコアは残り一。一撃で決着がつくからにはこのユニットの攻撃さえ通ればそれで終わり。


 返す刀を防ぐためにアキラはベアールの蘇生対象を守護者であるケイブリーにしたのだろうが……それすら無駄なこと。コウヤの手札には【守護】持ちをまとめて破壊する赤必殺の火力スペルも眠っているのだ。そして次のターンのチャージによって火力スペルと【疾駆】ユニットを同時に使えるようになる……コウヤが長年のファイト経験によって磨いてきたコストコアの過不足を調整する能力は卓越しており、此度も計算はバッチリであった。


 強引に攻め立てる赤陣営のプレイング。一見単純に思えるそれを押し通すためには誰より策士になる必要がある。だからコウヤは赤が好きなのだ。真っ直ぐに、しかし思慮深く。最速で勝利を目指し、されど注意深さもなくさずに。そうやって戦う赤という色が性に合っていた。才能と嗜好の一致。そして向上心。それらが合わさっている紅上コウヤというドミネイターは、だからこそ強いのだ──と、アキラは世界で一番そのことを知っている少年であった。


「わかっているさ、コウヤ。ここでターンを渡せばきっと俺は負けてしまう。確証はないけどそう確信できる……お前を、お前の強さを誰よりも知る俺だからそう思うんだ」


「へっ、そうかよ──だが、だとしたらどうする?」


「どうするって、決まってる。ターンを渡せば負けだっていうんなら──このターンで決着をつけるしかない!」


「!!」


「攻撃対象は《フレイムデーモン》じゃなく! お前だコウヤ!」


 なんだと、と目を剥くコウヤ。召喚したターンに相手プレイヤーへアタックできるのは【好戦】ではなく【疾駆】の特権。だが既に確かめた通り、アキラのフィールドに【疾駆】の能力を持つユニットなど一体もいないではないか。そう困惑する彼女にアキラは。


「だが緑には、仲間に【疾駆】を与える・・・ユニットも少なくない! そしてメーテールもその中の一体だ!」


「んだとっ……! まさかそいつは呼び出すだけじゃなく──」


「そう、自身の効果で呼び出したユニットに【疾駆】を付与する! これによって俺の場には【疾駆】ユニットが五体! そしてコウヤ、お前のライフコアも残すは五つ!」


「ッ、数は足りてるって言いてえか。だが計算し忘れてるぜ……最後のコアが砕けるまでにクイックチェックが四回入る! そんだけチャンスを与えてまさか邪魔が入らねえなんて思ってねえだろうな、アキラ!」


「そんなのやってみなきゃわからない!」


「……!」


 コウヤの言葉にも一切怯むことなく、グラバウを始めとする五体のユニットへ一斉攻撃の体勢を取らせるアキラ。間を置かず開始された彼らの進軍に、プレイヤー双方の強い思念が互いの場を渦巻いた。


(止められたら負け、止められなければ勝ち! それだけのシンプルな勝負だ──勝ってみせる! 必ず!)


(アタシのデッキにはクイックユニットの守護者が入ってる! パワーは赤の【守護】らしく非力この上ないが、今はなんだって構わない。とにかく一体だけでも攻撃を止めさえすれば……!)


 次々と砕かれていくライフコア、その度に行われるクイックチェックのドロー。そしてコウヤの手札には──。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ