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248.勝負所、アキラの決断!

 レギテウをるかどうか。破壊とブレイク、どちらによりリスクがあるのか──。


(どちらかと言うなら破壊がトリガーである確率の方が高いか……だが『どちらでもない』というもうひとつのリスクを思えばその二択に惑わされ過ぎても仕方がない。そう、一番よくないのはこと。場にビーストを残すのは避けた方がいい、そう考えたから私はグラバウを退けたのだ。ならば初志貫徹、推理のしようもない問いに悩むくらいなら決めたことをやり遂げるが吉!)


 誘われた思考の迷宮を彷徨い歩いた末の、導き出した帰結。エミルの体感としてはじっくり、現実時間としてはほんの刹那の瞬きの内に得た答えを二問目への解とする。


「レギテウのダイレクトアタックは通さない! ミュールティスでガードだ!」


 守護者による防衛を選択。エミルの宣言に従って動き出した書物天使は新たなページを開き、そこから巨大な腕と化した黒水を発射。瀑布の如き水量が砲弾の速度でレギテウを飲み込んだ。その勢いと物量には俊敏な巨狼もどうすることもできず、あっさりと押し潰されて破壊されてしまう。


「レギテウ圧殺! これで君に残されたビーストは手札の二枚のみだな、アキラ君」


「ああ、そうだな。だが同時にミュールティスもガードのために疲労レストした。お前を守る壁はもうないぞ」


「ふ……」


 その通り。しかしそれがどうした、とエミルの不遜の笑みが言う。


 アキラの指摘通り動かせる守護者こそもういないが、されどエミルには四つのライフコアという猶予・・があるのだ。それがもたらすクイックチェックこそが最大にして最強の防御手段。ディモアによるワンブレイクだけでアキラが支払った代償を思えばその証明は既になされている──コア一個の奪取で、グラバウとレギテウという切り札の二枚を失った。得られたリターンに対してとても正当な損失とは言えず、再びそうなるリスクをあと四度繰り返さねばアキラに勝利はない。となれば、どちらが厳しい状況に置かれているかは一目瞭然。


「こういった状況からでも運命力の圧倒によって勝ててしまえるのが、私たちのような『覚醒』の兆し持つ者だ──しかし互いにそうである以上ここから私が一方的にやり込められる展開などあり得ない。現に私はミュールティスという強力なクイックユニットを引いてみせた。同じように、あと四回。私は渾身の力で以てカードを引かせてもらうよ。まさか全てのクイックチェックを封殺できるなどとは、君も思っていないだろう?」


「……厳しいだろうな。お前相手にそこまで都合よくいかせるなんてことは、それこそ俺が覚醒者ってのになって世界チャンピオンにでも君臨しない限りは不可能だろう。最低でもあと一、二回は厄介なカードを引いてくるはず。そう覚悟しているよ」


「ふむ。つまり五度のブレイクに対し二、三度のクイックによるカウンターか。同じ見解だ、今の君とのせめぎ合いであればそれくらいが妥当な割合だろう……さて、もう一度訊ねるがアキラ君。その絶望的な概算が自分でもできていながら、それでも君は止まらないのだね?」


「その問いに答える前にひとつ教えておくぜ、エミル。レギテウには自身が場にいる状態で他のユニットが破壊されればその数に応じて攻撃回数を増やすっていう能力もあった。仮にレギテウのアタックをスルーしたとしても、その後にミュールティスでデスキャバリーを戦闘破壊していた場合、再びレギテウは動き出してお前はひとつ余分にライフコアを奪われていた。それを知らずに防いだんだからやっぱりお前の『読み』の力はさすがだよ。その判断は間違いなく正解ではある」


「何かあるだろうとは推測していたが攻撃権の増加とは恐ろしい。素通りさせなかった自分を褒めてあげたいところだが──しかし、気になるね。『正解ではある』。この言い方にはどこか引っかかるものがある……」


「だろうな。そう、つまり。どちらを選んだところで、ってことさ」


 どちらを選んだところで──? その言葉の意味をエミルが理解するだけの間もなく、アキラは騎士団へと命じる。


「デスロット! ブルームス! 二体でレストしているミュールティスへアタック!」


「何!?」


 エミルは驚く。デスロットとブルームスはプレイヤーへのアタックが禁じられた守護者ユニット、なのでアタックするならユニットであるミュールティスを標的にするしかない。だがまずもって何故そんなアタックを敢行するのかがわからない。


 《神秘の氾濫ミュールティス》

 パワー6000→8000


 《死生大騎士ラン・デスロット》

 パワー7000


 《デスデイム・ブルームス》

 パワー3000


 二体は共にパワーでミュールティスに及んでおらず、バトルを仕掛けたとて返り討ちに遭って終いである。……返しのエミルのターンになれば守護者が二体いたところで無意味、と断定するのは先ほどの攻防からするとわからなくもない。しかしだからといって特攻させて散らせるのではヤケクソもいいところ。それこそ無意味な行為でしかないのだから、つまるところこのプレイングには何かしらの意味がある──こうせざるを得ない意義がある。そういうことなのだろうとエミルは思うが、その正確な理由が見えない。


「わけがわからない、だがバトルを行なうからには弱者必滅! ミュールティスは君の騎士二体をわけもなく撃退する!」


 まず大騎士であるデスロットが武勇を示さんとばかりに騎馬の腹を蹴って突進。それに続いて麗しき花の騎士ブルームスも吶喊、どちらも強大な敵にまるで怯むことなく武器を手に挑み──そしてレギテウがそうだったように、圧倒的水量の反撃に遭い攻撃を届かせることなく撃沈。共に墓地へと押し流されてしまった。


「デスロット、ブルームス、まとめて撃破! そしてデスロットが退場したことでその常在型効果が無効となり、デスキャバリーは効果破壊耐性を失った! ……いやまったく、私の視点からでは君のやっていることは損ばかりのようにしか見えないが。きちんと説明をつけてくれるのだろうね?」


 もしもこれが大した理屈もないような……例えば意図不明の攻撃によって相手の動揺を引き起こしたかった、などといった姑息な手でしかないのであれば呆れる他ないが。しかしよもやここにきてアキラがそんなせせこましい手法を取るはずもないことは彼と戦っているエミルこそが最もよくわかっている。故に、ちゃんとした理屈はあるはずなのだ。そう期待して次の行動を待つ。


 するとアキラは、そんなエミルの請うような視線に対し、例のあの瞳で。どこまでも真っ直ぐに輝く琥珀色の眼差しで応えた。


「ここからが俺にとっての二者択一。選択の時だ」


「ここからが、選択だって? レギテウを先行させたのも、そして二体の騎士を特攻に散らせたのも、君にとっては選択ではなかった──選ぶべくして選んだ規定事項でしかなかったと、そういうことかい?」


「そうなるな。お前がミュールティスなんて厄介なユニットを呼び出したからには俺はそうするしかなかった……だからまあ、選択とは言っても。そんなお前と戦っているんだから答えは決まっているようなもの。本当はこの選択だって選ぶべくして選ばなきゃならないものなんだが」


「…………」


 アキラの言うことが、エミルにはわからない。何が言いたいのかはなんとなくわかるが、それ以外の全てが曖昧模糊とした霞の向こうにあった──やはりアキラには、アキラの『目』には。特別な血を持つ自分にも見通せないものが見えている。それはきっと、九蓮華エミルが授かった観察眼とはまた違う。別の「何か」が宿る若葉アキラだけの力であり、才能なのだろう。


「行くぜエミル。お前が俺を信じてくれたように、俺もお前を信じる! だから選択は──だ!」



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