240.最適解
(ポイントは『ダークナイト』には《死生大騎士ラン・デスロット》によって、そして『フェアリーズ』には《フェアリーズ・フォーチュン》によってそれぞれ破壊耐性が付与されているという点)
妖精専用のスペルは【守護】だけでなく耐性も与えた。デスロットもまた部下を呼び寄せるだけでなく、より長く戦場を駆けるための加護も授けた。つまりリリーラの時とは異なり、今のアキラのフィールドは仮にもう一度《白絶》を唱えたとしてもなんら干渉を受けない、より強固なものとなっているのだ。
(元より《白絶》は守護者専門の除去カードという用途の狭さもあってピン差し(※デッキに一枚だけ採用すること)のカード。墓地から回収する手段もないことはないが、それを目指したところでああも破壊耐性でガチガチに固められては全体除去の出る幕ではない……)
《白絶》がそうであるように、全体除去のカードとは大抵においてその手法が『破壊』に偏っている。より確実に除去を通せる確率の高い『墓地送り』で全体除去が行えるカードは非常に希少であり、コスト面や制約から実戦使用に耐え得るものとなると更に限られてくる。そうでなければ破壊の全体除去のバリューが著しく下がってしまうのだから当然と言えば当然の調整がされているわけだが、だからこそエミルが使った《孤高の開眼者リ・サイレンス》が墓地送りで不特定多数を処理できる能力を持っていることにアキラはあれだけ衝撃を受けていたのだ。
(まあ、そんなサイレンスでもクアドラプルミキシングとして召喚に四色も要求した上で、緑陣営には除去が働かないという明確な穴がある。ここで《白絶》ではなくサイレンスを召喚したとてアキラ君の場を壊滅させることはできない……【守護】を持った妖精が全員生き残るのなら精々が半壊といったところかな)
サイレンスにはパワーの合計が7000以下になるようにユニットを選んで破壊する起動型効果も持っているが、そちらは破壊である以上通用しない。四色混色のユニットですらも解決させられない程に強固な盤面……とくれば、エミルの結論がそうなるのも必然であった。
(相手にしない。下手に切り崩そうとするよりもここは無視が安定だ。何せアキラ君のライフコアは二個、ユニット同士を争わせるよりも隙を突いて削り切る方がよほどに早く決着がつく)
どんなに強固な壁だろうと真正面からぶつからず、横から回り込んでしまえば脅威などあってなきようなもの。アキラが手札にため込んでいる『ビースト』ユニット同様、ここでの最適解はとにかく馬鹿正直に付き合わないことだ。
「俺はターンを終了する!」
「では私のターンだ。スタンド&チャージ、ドロー」
このドローによってエミルの手札はアキラと同じく四枚、内二枚はスペル《都落ち》によって墓地より回収した無陣営のエリアカード《クリアワールド》と青黒の混色呪文である《色彩衝突》。それらの内、特に《色彩衝突》をじっと眺めてエミルは言う。
「手札への回収と蘇生を同時に行える《色彩衝突》は言うまでもなく強力なスペル。だが、サイレンスですらも会心の一手とはならない現状、これで再びサタノサティスやポリテクスを呼んだところで意味はない。彼らも強力なミキシングユニットであることは確かだが、今は状況に適していない。──ならばこうだ」
エミルは手札にある《色彩衝突》とは別のスペルカードを抜き放ち、プレイする。
「三つのコストコアをレストさせ、こちらも青黒のミキシングスペルである《再起塗装》を詠唱する。このカードは手札からスペルカードを墓地へ捨てることでデッキから二枚のドローを可能とするもの。更に、捨てたスペルがミキシングであればそのドローを三枚にしてもよい」
「っ、そっちも手札増強カードで来たか!」
二枚の消費で二枚ドローできるならトントン、三枚ドローできるなら単純に手札が一枚増える便利なカード。手札コストとするためのスペルを用意できなければ腐ってしまう懸念もあるとはいえ、ユニットもスペルもミキシングで溢れているエミルのデッキであればそういったリスクも最小限で済む。逆に言えばそれだけ尖った構築をしていなければ活かしきれない、アキラの使った《フェアリーズ・フォーチュン》と比べても一層に扱う者の手腕が問われるスペルではあるが……エミルがそんな基礎的な部分で足を取られるはずもないことは、今更考えるまでもなくアキラにはよくわかっている。
そしてここで引いてくるカードも、彼のことだから──。
「手札から《色彩衝突》を捨て、ミキシングのボーナスにより私は三枚ドロー……よし、来てくれたね」
ルナ・アルセリアを失っても気勢を保っているアキラとは違い、シン・エターナルを失ったエミルの気力は目に見えて落ち込んでいる──オーラが誰の目から見ても明らかなほどに目減りしている。一時は舞台どころか大講堂中に充満し建物を壊しかねないくらいに甚大に蠢いていたのが嘘のように、アキラをそのオーラごと覆い尽くしていたのが幻だったかのように、今となっては趨勢が逆転してしまっているが。
けれどもエミルのオーラに呑まれながらもアキラが自身の意気と運命力を守り通したように、エミルもまた互いの立場が入れ替わろうとも決して運命力を折られはしていなかった。それをこの時、アキラだけでなく観戦者一同も知った。最大にして絶対の切り札を失ってなお、九蓮華エミルとは誰よりも強きドミネイターであると。
「私はたった今ドローしたばかりのこのユニットたちを召喚する。来い、青単色ユニット《スリムリーパー》! ミキシングユニット《暗愚聡明レクセル》!」
《スリムリーパー》
コスト2 パワー1000 【潜行】
《暗愚聡明レクセル》
コスト3 パワー2000 MC 【潜行】 【復讐】
かつてミオも使った青陣営のユニット《スイムリーパー》が小型化したような同類ユニットであるスリム。そしてトラウズと色・種族の組み合わせを同じくするこちらも同類ユニットであるレクセル。新たに呼び出されたその二体に共通しているのは『【潜行】持ちにしかガードされない』というすり抜け能力を有していることだった。
「【飛翔】とは違って【潜行】はアタックに関してはどのユニットからも受けてしまうが、しかしガード不可というだけでこの盤面において価値は充分。闇の騎士団も守りに目覚めた妖精たちもお生憎、誰も君の盾とはなってやれない」
「……! 最適解をこんな簡単に用意してくるか!」
この二体を相手にはエミルの言う通り、せっかく並べた守護者ユニットもなす術がない……半ば予想できていたこととはいえこの鮮やかな手並みにはやはり舌を巻くしかなかった。
だが、とアキラはまだエミルの答えが完全解答には至っていないことを指摘する。
「【潜行】はあくまで同じ【潜行】ユニットからしかガードを受け付けない能力であって【疾駆】や【好戦】みたいな速攻が行えるものじゃあない。レクセルもスリムもこのターンは召喚酔いで動くことができないからには、ガード不可だからって何も怖くないぜ」
「──おや、アキラ君。知らないのなら教えてあげよう。そういうセリフを人は『フラグ』と言うのだと」
「!?」
「【守護】に長けた白陣営に、されど守りの力を攻めに転化する《シールドマーチ》という切り札があるように。青という色にもまた手管を弄するだけでなくシンプルに攻め入るための秘策があるのだ……!」
これで今度こそ終わらせよう! とエミルはレクセルらと共に引いていた三枚の内の最後の一枚を使用する。
「3コスト、《リキッドブースター》を超動!」




