24.シナジーの脅威! 苦しむアキラ
「な、黒陣営のクイックユニット……それも【守護】持ちだと!?」
コウヤが知る限りでは、アキラのデッキに入っている黒のカードは数少なく。その上で主力と呼べるようなものはほとんどいなかったはずだ──確かにそう記憶している。幾度かのファイトを経て、その度に細々とデッキ構築に手を加えてはいても、『あくまで緑陣営が主力にして主役』。そこに関しては必ず共通していた。……コウヤが武者修行のために彼とファイトしなくなるまで、常に。そのコンセプトそのものは今もおそらく変わっていないだろう。
ということは、だ。
「これがお前のデッキの変化、それを顕著に表したカードだってわけだな!」
「その通りだよコウヤ。俺はもうビーストで攻めるだけじゃない、それと同じくらいに守ることも大切にするようになった。デスキャバリーはその要になるユニットだ!」
「ほー……」
ギラリ、とコウヤの目が光る。小学生ながらに大人顔負けの腕前を持つ確かなドミネイターとしての眼力が、アキラが誇る新しい主力の一枚を丸裸にせんとする。
(《闇重騎士デスキャバリー》……名が体を表してやがるな、こりゃ黒の守護者ユニットの中でも一等に強力なカードに違いない。おそらく【守護】以外にも何かしら能力を持っていると見たぜ)
《闇重騎士デスキャバリー》
コスト5 パワー4000→2000
使用者からの説明を待たずしてコウヤはデスキャバリーの全容をほぼほぼ正しく把握した。そして推察されるそのカードパワーの高さから、まともにやり合えばいたずらにユニットを消費させられるだろうとも推察する。
「ライフコアは残り二個にまで減ってしまったけど、デスキャバリーがいるからにはコウヤでもそう簡単には攻め込めないぞ」
「だから一安心、ってか? ……腹が立つぜ、アキラ。お前がアタシをそこまで安く見積もってるんだとしたらよ!」
「!?」
「なんのために他のカードをプレイする前にこいつらで攻撃したと思う!? そりゃこういう事態に備えておくために決まってるだろうが──アタシはコスト5のスペル! 《大噴火》を唱える!」
「っ、まさか……!」
こういう事態。それ即ち、クイックカードによる盤面への干渉。複数体のユニットで一気に攻める際に最も警戒しなければならないそれを、コウヤは当然の如くに見越していたのだ。アキラ以上に攻めに向いたデッキを使うからこそ高いレベルで身に付いているその対処法。攻め方は脳筋、ながらに細やかな工夫を忘れない彼女のプレイングがアキラの幸運を叩き切る。
めきめき、と音を立ててコウヤの背後の地面が盛り上がった──それはまるで、今にも爆発しそうな火山。その熱量に沸る火口のようであった。
「《大噴火》は相手の場のユニットへ4000のダメージを与える火力スペル。《灼熱領域》の処理と同じでダメージを負ったユニットはその分だけパワーが下がり、ゼロになれば墓地へ送られる。そして《大噴火》の優れている点は……4000を好きなようにアタシが振り分けられるところだ!」
「……!」
「もうわかってんだろ!? アタシの振り分けはデスキャバリーへ2000、レコマンドにも2000だ!」
ドッガン!! と撃音を立てて空へ舞い上がる巨大な溶岩。重力に従い一見して無作為に降り注ぐそれは、しかし不思議と二体のユニットのみに吸い寄せられるようにして他を避けていく。自らの頭上にそれが落ちてくることを察したレコマンドが身を低くして丸まり、デスキャバリーは顔よりも高く左手の盾を構えた──しかしどんなに防御しようと質量と落下の勢いを持ち合わせた燃え盛る岩石は如何ともしがたく。せっかく蘇ったばかりの熊隊長は呆気なくぺしゃんことなり、一発はなんとか耐えた闇の騎士も続け様に落ちてきた二発目に騎馬ごと圧し潰されてしまった。
「レコマンド、デスキャバリー……!」
「おおっとそれだけじゃないぜ。レコマンドが場を離れたことにより、その効果で強化されていたベアールのパワーがダウン! ゼロになる!」
レコマンドの種族強化によって《灼熱領域》の下でも辛うじて生き残っていたベアールだが、肝心のレコマンドが先にいなくなってしまったことで彼女も力を失い、後を追うようにばたりと倒れて消滅した。
「くそっ、ベアールまで!」
「一体の能力を頼りにしすぎりゃこういうことになる……本当ならもっと共倒れさせたかったところだが、まあ及第点だな。何せアキラ、これでお前の場は壊滅しちまったんだから」
「くっ……、」
殺風景になった自分の場を見て拳を握り締めるアキラ。やられた、と彼は思う。コウヤは最初から《大噴火》によるケアを当てにして攻めてきていたのだ。もしもそれを事前に見抜けていたからといって防ぐことなどできなかったが、そのことがかえってマズいのだ。
現在、このファイトのペースは完全にコウヤの手の中にある。
(デスキャバリーはエリアカードでパワーを下げられても【復讐】があるから最低限の仕事はできる──はずだったのに。まさか出した途端に除去されるなんて。……やっぱりコウヤは強い。この一ヵ月の間に、俺が知っている彼女よりも更に強くなっている)
これまで彼女が使っているところを見たことがないユニットにスペル、そしてエリアカード。そのひとつひとつを昔からの相棒のように自然に操っており、しかもスペルとエリアカードの相性がすこぶるいい。決まったパワー以下のユニットを破壊する《火粒砲弾》も、複数体のパワーダウンを狙える《大噴火》も、赤以外のユニットのパワーを軒並み-2000する《灼熱領域》と組み合わせることでその性能が跳ね上がっている。
こういうカード間の相性の良さを『シナジーがある』と称すのだとロコルに教えてもらっているアキラは、その時に聞いた『強いドミネイターはデッキ内に多くのシナジーを組み込んでるもんっす』というセリフも同時に思い出していた。まさしくコウヤは強いドミネイターとしてそれを実践しているのだ。ようやくデッキのコンセプトをまとめた段階でしかない自分とは、立っているステージの違う相手。間違っても対等などとは言えない、最も近くて最も遠いライバル。
それが紅上コウヤ。
若葉アキラの幼馴染にして親友の少女──。
「未使用のコストコアがまだひとつあるんだが、これっぽちじゃ何もできねえな。仕方ねーからこれでターンエンドだ。……新しくユニットこそ召喚できなかったが、アタシの場には未だ三体が健在。そしてアキラのライフコアも大幅に削れた。順調も順調、流れは確実にアタシに向いてるぜ──それがわかってて笑ってるんだろうな?」
「え……俺、笑ってるのか?」
言われて初めて気が付いた。自分の口角が上がっていることに。意識せずに笑みを浮かべてしまうほど、心の底から何かが──いや、『何か』などとわからないふりをする必要はない。
隠しきれないほどの闘志が湧いてきている。それをアキラは自覚した。
「その不敵な表情。同じ笑い方をオウラとのファイト中にもしてやがったな……そうやって笑いながら、お前はあいつに一泡吹かせたんだ。アタシを相手にも同じことができんのか?」
「わからない。でも、やってみようと思う。どんなに形勢が悪くたって、流れが相手に向いてたって。そこから逆転してみせるのがドミネイターだ!」
俺のターン! 気迫に溢れる声でそう宣言したアキラはドローを行ない、先ほどのライフコアの連続クラッシュによって増えた計八枚の手札をじっくりと眺める。このカードたち、この窮地における最善策とはどんなプレイなのか。
(……! 《ビースト・ガール》が来てくれた。手札には《昂進作用》もある。けど……ダメだ。《灼熱領域》の効果でガールのパワーは2000にまで下がる。《昂進作用》で強化してもパワー3000、コウヤの場のどのユニットにも勝てやしない。いつものコンボで打開できる盤面じゃない、ならば──ここはガールには頼らずに!)
彼の決断は間を置かずして下され、選ばれたカードは──。




