239.壮観、守護騎士団!
「誇り高き『ダークナイト』の守護騎士が三体揃い踏み。これはなかなか、相対する私から見ても壮観なものだ」
黒陣営の誇る、死してなお忠義に生きる貴き騎士団たち。『ダークナイト』のユニットは3コスト以下の軽量級が一体たりとも──少なくとも現在のカードプールにおいては──存在しない、見た目通りに重量級の種族である。その一枚一枚がレアカードと言っていいほどあまり市場に出回っておらず、また重さ故に運良くクイックで引けなければ扱いにも難儀するという、様々な意味で上級者向けのカテゴリだ。
故に、アカデミア入学当初のアキラがそうしていたように単体でも充分な活躍の見込めるデスキャバリーあたりを差し色の一員として投入するようなやり方は理に適っていたのだが。しかし今のアキラはより難度の高い構築として差し色であるはずの黒陣営のユニットに『ダークナイト』を複数取り入れて種族シナジーを活かしている──それが机上の空論に終わらず、しかと実践できていること。それも含めてエミルは「壮観だ」と言ったのだ。
その真意を理解しつつ、アキラは「ありがとう」と自慢のユニットを褒められたことへ素直に礼を述べた。
「デスキャバリーを始め『ダークナイト』たちの大きな背中の後ろにいられる安心感は相当なものだ……けど、これで終わりじゃないぞ。俺には仕上げが残っている!」
「ほう、仕上げ。確かに君にはまだ使っていないコストコアがあるものね」
「ああ! それを使ってこのカードをプレイする!」
興味深く頷くエミルに、アキラは残っている四つのコストコアを全てレストさせて一枚のスペルを唱えた。
「《フェアリーズ・フォーチュン》を発動! このカードは俺の場に二体以上の種族『フェアリーズ』のユニットがいる場合にのみ詠唱可能。その効果は『フェアリーズ』全てに【守護】と破壊耐性を与え、そしてその数だけデッキの上からカードをめくり、その内の二枚を選んで手札に加えられるというもの!」
「……! 妖精限定の強化カード、かつ、手札増強用のスペルか」
四枚めくって二枚を選ぶ……この行為は、同じくピック効果を持つ《緑応鹿》が『三枚めくって一枚を選ぶ』という比較すると狭い範囲であり、それでいて種族『アニマルズ』のユニットしかピックできないという小さくない制約が設けられている点を踏まえれば、範囲においても選ぶ自由度においても勝っており、相当に強力な効果であるとわかる。
無論、だからこそ《緑応鹿》とは別の制約。『フェアリーズが二体以上フィールドにいなければ唱えられない』という縛りが《フェアリーズ・フォーチュン》には設けられているのだ。基本的に妖精ユニットはどれも非力で、戦う能力など持ち合わせないもの。登場時効果こそ有用ではあるがそれを使い終わってしまえばただの一小型ユニットでしかなく、戦場を長く生き残れるような力などない。辛うじての例外と言えばミキシングユニットであるルゥルゥくらいのもので、彼女の【復讐】能力は時と場合によって警戒されて長く場に留まることもあるだろう……が、そんな彼女もパワー自体は他の妖精と変わらず、散る時はあっさり散る。総じて『フェアリーズ』とは生きたまま次のターンを迎えられることがそうそうない、簡単に処理されてしまうユニットであると言える。
そんな『場持ちの悪い』ユニットを二体も要求するのだから《フェアリーズ・フォーチュン》が妖精の強化だけでなく広い範囲でのピックを行なえてもなんら不思議ではない、どころか当然の利益ではあるが。しかしその唱えにくさを加味してもやはり「四枚から二枚を好きに手札に加える」というのは破格の効果であった──そういった能力に優れた青陣営にもなんら劣らぬ手札増強ぶりだ、とエミルはアキラが何を選ぶのかを待ちながらそう思う。
デッキの上を順に四枚めくって確認した彼が手にしたカードは。
「俺は《ドーンビースト・ガウラム》と《バーンビースト・レギテウ》を手札に加え、選ばなかった他二枚を好きな順番でデッキの底へ置く!」
「! 二枚ともに『ビースト』ユニットだと……、」
これでアキラの四枚の手札の内、先ほど回収された《ビースト・ガール》も含めて実に三枚が彼の切り札であるビーストだということになる。コストコアも十二分に溜まっているこの終盤においてそれは脅威的な事実だろう……けれどエミルはアキラの引き運、そして未だに衰え知らずのオーラから放たれるプレッシャーに一滴の汗を額から垂らしつつも、笑みを崩さない。先のアキラがエターナルに対してそうしてみせたように、エミルもまたアキラの切り札たちに臆さない、怯まない、竦まない──しっかりと両の足で立ち、前を見据える。アキラ自身にも、彼の築いた戦線にも、正々堂々と立ち向かうこと。『絶対』を失った自分にもそれくらいのことは。ドミネイターならば誰しもがやっていることは、できるはずだ。
「見事な運命力、見事な戦力の補充だと言っておこう。フィールドへの展開も、デッキからのサーチも。ドミネユニットを失ってなお陰りなし……否、君のプレイングと闘志はますます洗練されていくようですらある。君の成長を願い、しかしそれ以上のものをまざまざと見せつけられている私としては感嘆する以外に何もできないよ」
──だがね、アキラ君。と、エミルは薄く弧を描く唇に指を当てながら、まるで内緒話でもするような楽しげな声音で続けた。
「君のライフはたったの二。そのふたつのライフコアを先に砕いてしまえば私の勝ちだ。つまるところ君の手札に眠るビーストなど相手にせずともこのファイトを終わらせることは可能なのだよ? サーチにはなんの意味もない」
「できるのならやればいい。俺の築いた戦線を苦も無く突破できると思うものなら!」
「……ふむ」
今度は顎に手を当ててしばし考える。確かな自信が垣間見えるだけあって、意気込むだけあってアキラの布陣は非常に堅く突破困難な代物である。改めて場に出ているユニットを一体ずつ眺めてみればそれは明らかだ。
《死生大騎士ラン・デスロット》
コスト7 パワー7000 【守護】
《デスデイム・ブルームス》
コスト5 パワー3000 QC 【守護】
《闇重騎士デスキャバリー》
コスト5 パワー4000 QC 【守護】 【復讐】
《呼戻師のディモア》
コスト4 パワー2000
《宵闇の妖精ルゥルゥ》
コスト3 パワー1000 MC 【復讐】 +【守護】
《慈しみの妖精リィリィ》
コスト3 パワー1000 +【守護】
《恵みの妖精ティティ》
コスト3 パワー1000 +【守護】
これぞまさしく『戦線』。騎士たちだけでなく戦力としては貧弱極まりないはずの妖精らまでしっかりと守りを固め、ライフアドバンテージに劣る主人をなんとしても救わんとしている。堅牢かつ並みならぬ戦意に満ちたその布陣は、エミルであっても覆すに容易いものではない。
(……《獣奏リリーラ》がアキラ君の場に【守護】持ちを乱立させていた先ほどのように、守護者殺しのスペル《白絶》のような全体除去の手段で解決すべき……と、一見すると思えるが。しかしそれは間違いだな)
これまで何度となくアキラの戦線を壊滅させてきたからこそ陥りそうな錯誤に、しかしエミルは惑わされなかった。持ち前の予知の如き先見にはブレが生じ始めていても、彼の類い稀な観察眼は未だ健在。その確かな読みの力でエミルは答えを導き出す──即ちこの騎士と妖精の守護団を『真っ向から相手取る』必要など、どこにもないのだと。




