238.再展開、アキラの築く戦線!
「ここでディモアか……!」
そのユニットの能力はエミルもよく理解している。前のファイトでもアキラのタクティクスに一役買ったのが《呼戻師のディモア》であるからして、詳細を聞かずともこれから何が起こるかは把握できている──予想に違わずディモアの効果の糧となるべく尻尾の炎を全身に燃え広がらせて自ら散っていく《ワイルドボンキャット》。その命の輝きをハンドベルの音色に乗せてディモアは主人より名指しされた墓地のユニットの魂を引き上げる。
蘇生効果の対象とできるのは『黒陣営以外のユニット』という混色構築前提の制約を持つディモアであり、そして今彼が蘇らせようとしているユニットは黒の色を持つ。本来なら制約に引っ掛かり効果は不発に終わるが、されどそのユニットには黒だけでなく緑も含まれる。『参照とするのは持ち合わせているどちらの陣営であっても構わない』。エミルも大いに活用してきた混色カード特有の強味をアキラもまた存分に活かす。
「黒・緑の混色である《遠笛吹きのオリヴィエ》を緑陣営のユニットとして扱い、蘇生させる!}
「っ、またオリヴィエが蘇った、ということは──」
「こっちもお前には詳しく説明するまでもないな! 今度はオリヴィエの登場時効果を発動、それによって俺は墓地から『相手によって墓地へ置かれた3コスト以下の黒か緑のユニット』を二体、同名カードは一体までを蘇生召喚できる!」
「その効果で蘇らせたユニット一体につき、こちらのユニット一体を破壊できる追加効果もあるのだったね。私の場が壊滅している以上破壊効果は無駄になる……それを幸いと言っていいのかどうかは微妙なところだが」
追加の破壊がなくともオリヴィエは充分に強力なカードだ。『3コスト以下』や『相手によって場を離れていること』、そして『同名のユニットを二体対象にはできない』とやたらに制約も付いているものの、しかし二体同時の蘇生はやはり有用である。むしろ細かな縛りは付いていて当然と言えるほどに単体としても強力で、それでいて様々なユニットとのシナジーでコンボも生み出しやすい……特にそう、アキラがデッキの主軸としている緑陣営には、オリヴィエの蘇生効果を最大限に利用できるあの種族がいるのだから余計にだ。
「破壊効果は使えないなら使えないで構わない、お前も察している通り大事なのはこっちの場を整えることだからな──対象指定! 俺が蘇らせるのは共に3コストの『フェアリーズ』! 《宵闇の妖精ルゥルゥ》と《慈しみの妖精リィリィ》だ! この二体はお前が召喚した《孤高の開眼者リ・サイレンス》の効果によって墓地へ置かれている、よってオリヴィエの制約もクリアしている!」
「はは……本当にやるようになったね、アキラ君。展開力ひとつ取っても今の君は天井知らずじゃあないか」
以前のアキラにも展開力には光る物があったが、今はそれどころではない。原石は磨きに磨かれ、一個の宝石と化している。これ以上ない程に才能が輝きを放っている──何度戦線を破壊しても、崩壊させても、その度に乗り越えてくる。再び戦線を築き、布陣を敷いてくる。この驚異的な連続召喚はまさしく、緑と黒。彼が操るふたつの陣営の特性が遺憾なく発揮されているからこその粘り強さに相違ない。
「展開力はあってもここまでの復帰力は以前の君にはなかった──君の実力があの日のままで止まっていたなら、もうとっくにガス欠に陥っていたことだろう。そうならない、ということは、よく練ってきたのだね。ただ一心に私を倒すべくデッキと技量を完成させてきたのだと、君の努力の軌跡が。その尊さが『目』に見えるようだよ」
エミルは笑う。どこか挑発的に、挑戦的に。それは普段の彼が見せる笑い方と似ているようで、まったくの別物だった。アキラの展開はまだまだ終わらない。それがわかっているからこその、些かの嘲りも侮りも含まれない笑み。純粋な好戦の意志がそこには宿っていた。
「使うのだろう? ルゥルゥの効果も」
「当然! ルゥルゥの登場時効果を発動、墓地から彼女が持っている種族と同じ『キメラ』か『フェアリーズ』のユニットを一体蘇生する! 俺が選ぶのはもちろん墓地に眠っている最後の妖精、《恵みの妖精ティティ》だ!」
けらけらと純朴さと悪意の混じった笑い声を立てるルゥルゥがフィールドの一角に広げた闇。その中から飛び出るようにしてティティが姿を見せ、そして効果は連鎖する。
「ティティの登場時効果も発動! デッキから二枚ドローし、その内の一枚を手札へ加え、もう一枚をコストコアへ変換する!」
「ふ──徹底している。君も随分と容赦のないことだ」
これでアキラの未使用コストコアは八個、残り手札は四枚となった。展開しながらリソースを確保していく、どんどんと手を伸ばしていく。丹精を込めて作ったデッキの理想的な流れを、彼は引き寄せている。それはプレイングと運命力が高い次元で合致していなければ為せない、成し遂げられないもの。即ちカード単位ではなくデッキ単位での支配。ドミネイターとしてのあるべき基本にして理想のファイトを、アキラは行っているのだ。
アキラの手が進むにつれてエミルの笑みも深まっていく──高まっていく。
「ここで《慈しみの妖精リィリィ》の効果も適用、次に召喚するユニットの必要コストを俺の場の『フェアリーズ』ユニットの数だけ軽減する! フィールドにはリィリィ自身を含めて三体の妖精がいる、よってこのユニットを4コストで召喚! 出でよ闇の騎士団の重鎮、《死生大騎士ラン・デスロット》!」
《死生大騎士ラン・デスロット》
コスト7 パワー7000 【守護】
デスキャバリーを彷彿とさせる、しかし彼以上に巨大な暗黒色の全身鎧を身に纏った偉丈夫の騎士──デスキャバリーの所属する闇の騎士団のお目付け役であるラン・デスロットは、跨る騎馬もまた巨大で黒々としていた。もはや馬とは思えぬその威容を持つ生き物の腹を蹴っていななかせたデスロットは、己が武器たるこれまた黒に塗り潰された大剣を天高く掲げて勝鬨の声を上げた。
「デスロットの登場時効果を発動! 自軍の黒陣営ユニットを一体破壊し、そのコストに応じて種族『ダークナイト』のユニットを場に呼び寄せる!」
「ほう、またしても破壊を代償に展開を行なう黒のカード。少なからず扱いにくさも持つカードをよくもそれだけ手足の如く操れるものだ……それで、君が新たに呼ぶ闇騎士とは?」
「お前もよくご存知のデスキャバリーと、もう一体さ。まず破壊対象にオリヴィエを指定! そのユニットの持つコストが5以下であれば墓地から『ダークナイト』を一体蘇生、6以上であれば更に追加でデッキからも『ダークナイト』ユニットを呼べる!」
墓地とデッキ両方からの特殊召喚、それも種族さえ合っていれば呼び出しに他の制約は付かない。流石に7コストの大型かつ自ユニットの破壊まで要求するだけあってデスロットの効果は強烈だった──アキラは宣言通りに墓地からはデスキャバリーを回収し、そしてデッキからはこの一枚を場に出した。
「来い、二体の闇騎士! 《闇重騎士デスキャバリー》に、《デスデイム・ブルームス》!」
《デスデイム・ブルームス》
コスト5 パワー3000 QC 【守護】
デスキャバリーやデスロットと比べて明らかに細身の、花の香を漂わせる麗騎士。愛馬を持たぬ彼女は他二人と違って己の足で戦場に立ち、柄の細い槍をピッと鋭く振るって構えを取った。デスキャバリー共々、戦気充分。三体の鎧の騎士が並び立つ様からは凄まじいまでのプレッシャーが放たれている。
──アキラの戦線はまさしく「布陣」と称すに相応しい光景となっていた。




