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237.ファイト再開、本当の勝負!

「ファイトはこれから、だと……? 何を、馬鹿な。エターナルを倒された私にまだ戦えと君は言うのか? それになんの意義がある」


 エミルの心はもはや敗北に染められている。いくらライフが残っていようとエターナルが破壊された今、彼の戦意は消え失せようとしている──それだけ『絶対』の崩壊は彼にしてみれば重く、重大なことだった。思考あたまではなく心理こころが認める失墜だ。


「これも君の言う気持ちの問題じゃないか。私とエターナルは真にひとつだったと、図らずも証明されたのだ」


「それがどうした。自分の半身であるドミネユニットが破壊されたから、もう戦えないって? そんなことを言うなら俺はルナマリアとアルセリア、二体のドミネユニットを持っていかれた。それでも戦意は潰えちゃいない!」


 そもそもだ、とアキラはエミルを指差して言う。


「お前が言ったことじゃないか。ひとつの手段に固執するなって。それはドミネイターを弱くさせるものだって。今となっては俺もそれがよくわかる。カード一枚一枚と向き合う本当の意味を、俺はお前とのファイトから学んだ。だからドミネイト召喚にだって拘り過ぎずに済んだ」


 矯正の直接的な手助けをしてくれたのはムラクモであるが、アキラが自発的に行ったそれの切っ掛けとなったのはなんと言ってもエミルである。彼が語った真意とは異なる受け取り方ではあるが、あの言葉が、あの実質的な敗北が、それまでアキラに見えていなかったものが見えるようになった契機なのだ。


 ──だから今度は俺がエミルに教える番だ。示す番だと、そうアキラは決意している。


 これは単なる勝ち負けを競うだけのファイトではなく、アキラとエミルのどちらもが新たな段階へ進むための通過儀礼であると。


「ドミネユニットだってドミネイターにとっては勝つための手段のひとつだ。そうだよな? 他のユニットと同じ、信頼すべき仲間の一人! アルセリアもルナマリアも俺はそう思っているし、だから彼女たちに拘泥しない。だってドミネユニットがいなくなったからって勝負が終わるわけじゃないんだから」


「……君は、どうして。戦意の化身たる片割れを失っておきながら、どうしてそこまで闘志を保てる? どうしてそんなにもドミネファイトに意気を燃やすことができる……」


 心からの疑問だった。思えば前回のファイトでも、勝負を決めるつもりで呼んだアルセリアをアンドルレギオによって失いながら、それに多大なショックを受けながらも、彼は膝をつかなかった。心折れることなく立ち向かってきた──挙句に受けたエターナルの連撃にも耐えようとしていた。そのエミルからしても驚嘆に値する心身のタフネスに強く惹かれたわけだが……自分と同じ才能の持ち主だと認めることができたわけだが、しかしここまでくるとでは済まされない。


 異常だ。異常エミルの目から見てもそうとしか言えない。如何に操り手の少ない特別な存在であるドミネユニットとはいえ、ドミネイターの立場からすればあくまでも手駒の一個。勝利を手に入れるための手段のひとつであるとは、アキラの言の通り。薫陶を授けた身としてエミルからしてもそれは賛同できる考え方である……けれど、そうは言っても特別は特別。特に呼び出した当人にとってそのドミネユニットは文字通りの意味での半身に等しく、それの喪失が引き起こす虚脱感とは筆舌に尽くし難い。とても言葉で表現できる類いのものではないのだ。


 普通ならば、耐えられない。異常であっても耐え難い。あるいはエミルとエターナルの結びつきが強過ぎたが故の、信頼を置き過ぎたが故の輪をかけての喪失感なのかもしれない。それは決して否定できないがしかし、だとしてもだ。アキラがアルセリアに、そしてアルセリアに力を授けたルナマリアに託す想いだって、注いだ情熱だって、決して安くはないはずだ。エミルに比べて大きく劣るような熱量ではないはずだ──それなのに何故、どうして、どうやって。その『想い』が形になったものを失っておきながら、アキラの瞳が輝く訳は。


 力を無くさない理由は、どこにあるのか。


 同じ立場にいる同じ才能の持ち主。九蓮華エミルと若葉アキラには、どんな違いがあってこの差が生まれているのか──。


「答えを見つけたいならファイトするしかない。その果てにきっとお前の知りたいものがある。見たいものが、そこにある。『目』の力に頼りっきりじゃ見えっこない何かが、必ずな」


「この『目』には見えないもの、か……ああ確かに。私が本当に見たいのはそういうものだ。私の描いた未来を飛び越えてくる君ならば、見せてくれるのか? 新世界よりももっと素晴らしいものを……?」


「俺が見せるんじゃあない。俺とお前で『一緒に』見るんだ! 誰を傷付けることもない、お前が悪者になる必要なんてない、本当の理想ってやつを!」


「……!」


 いいだろう、ならばそれを確かめよう。全てを諦める前にもう一度だけ信じてみよう──信じたいと願ってみよう。今一度立つ足に力を込め、背筋を伸ばし、真っ直ぐに前を見る。アキラを見る。眼差しに返す眼差しが、ファイト再開の合図となった。


「続けようか、アキラ君。意義のないファイトなどとはもう言わない。これよりは私の存在意義を知るためのファイトに、どうか最後まで付き合ってくれ」


「もちろん。俺のターンの続きからだ!」


 アキラのライフコアは残りふたつ、エミルのライフコアは残り五つ。これだけの攻防を重ねておきながらまだエミルは壮健そのもの、対してアキラの方は油断の許されない瀬戸際にいる。不利なのは誰がどう見てもアキラだ──が、彼ならばそんな多少の有利不利などまるで問題にしないとエミルにはもう知れている。


「と言っても、ここからどうしてくれるのだ? ドミネユニットはドミネユニットによって破壊された場合、もうそのファイト中に呼び出すことができない……互いに最大の切り札には頼れないわけだが」


「アルセリアはエターナルと共に消えてしまったけれど! だけど俺にはまだこのターン中に使える九つのコストコアと、五枚の手札がある!」


 フィールドは共にがら空き、ならばここはいち早く戦線を築く以外にない。アキラの手札の一枚は《ビースト・ガール》だが、彼女はこの盤面に呼んでも大したことはできない。ならば、アキラの言い様からしてガール以外の有用な札をしっかりと握っているのだろう。と、エミルは持ち前の推察力でそう予想し、そして『目』が機能不全に陥っていようと経験によって裏打ちされた彼の予見はやはり正しくて。


「まずはこいつだ、《ワイルドボンキャット》! 召喚!」


 《ワイルドボンキャット》

 コスト1 パワー1000


 小さな篝火のような淡く温かい炎を尻尾の先に纏った子猫が、くるりと宙を一回転してアキラのフィールドへ降り立つ。《ベイルウルフ》以外でおそらく唯一投入されているであろう緑陣営の1コストユニットの、今更の登場。通常であれば最序盤でしか輝かないそれを意気揚々と呼び出したアキラのプレイングの意味を、エミルは察している。


「まさかここにきてボンキャットの自身をコストコアへ変換するという特殊能力を使うはずもない……1コスト。それだけで呼び出せるユニットだということが重要なんだろう?」


「やっぱりお見通しか? いいぜ、だったら最後まで見届けてくれよ──お次はこいつだ、《呼戻師のディモア》!」


 《呼戻師のディモア》

 コスト4 パワー2000


 黒いローブで全身を覆い、深くフードを被った性別不詳のユニットであるディモア。その懐から取り出されたハンドベルが細い手でゆらりと振られ、りぃんと厳かに鳴り響く。それは冥府へ落ちた友を呼び戻す音色。


「ディモアの登場時効果を発動、場のユニット一体を代償として墓地より蘇れ──《遠笛吹きのオリヴィエ》!」



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