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235.アルセリアVSエターナル!

「っウ……!?」


 闘志も佇まいも静寂そのものだったアルセリアの突然の叫び。遥か遠くの何かへ訴えかけるような、世界に己が存在を主張するような、強大な力の宿った遠吠えを上げる獣少女の姿からエミルは目が離せない。あまりの声量に思わず耳を塞ぎながらも、空間を叩いて伝わってくる彼女の鼓動に瞬きを繰り返しながらも、決して視線を逸らせない。外せない。そうしてしまえば最後、アルセリアの牙が自身の首筋に突き立っているような気がして。


「なんだというのだ、いったい!」


 アキラの闘志の昂りに呼応したのだとしても尋常ではない。完全体エターナルというどんなユニットであろうと勝ち目のない敵を前にしていながら、なのにこれだけのオーラを発せられるアキラとアルセリアには。その目には何が見えているのかと、今一度エミルは深刻にそれを考えたが──相も変わらず解答は見つからない。『目』の機能不全を認めはしても受け入れられているとは言えないエミルは、見通せない大きすぎる謎に対して歯を噛み締めることしかできない。そんな彼にアキラは、アルセリアとそっくりに、まるで世界中へ訴えかけるかのように一人の人間へと戦意を向ける。


「求めた通りの盤面に導いた? ああ、確かにお前の願った形がこれなんだろう。だけど言ったはずだぜ──この対決を思い描いていたのはお前だけじゃない! 俺だってここまでファイトを導いた一人だってことを!」


「……! だとしてもどうする!? シン・アルセリアであってもシン・エターナルには勝てないのだ! ましてやその不完全のアルセリアに、支配するに不足したドミネユニットに何ができる……!」


 ドミネイト召喚のコストとなったルナマリアとイノセントの合計パワーは7000。それを糧に呼び出された現在のアルセリアが獲得した能力は、ユニット破壊効果とパワー+7000の自己強化だけ。元から持ち合わせている【重撃】や【疾駆】も十二分に強力な効果ではあるが、エミルのライフコアは四つある上に無限の壁と化したエターナルが彼を万全に守ってもいる。アルセリアはライフを削ることすら能わずただやられるしかない──はずが、しかし。


「正しいぜ、エミル。お前はいつだって正しい物の見方をする……お前が見えている範囲で片が付くことであればな!」


「なんだと……!?」


「お前に見えていなかったものを、見せてやる! ──ルナマリアの効果をここで適用する!」


「!??」


 アルセリアではなく、彼女の贄となったルナマリアの効果を? 捧げられたもう一方のイノセントとは違いカードという実体を持たないが故に、既にフィールドどころか墓地にもいない、この次元のどこにも存在を感知できない、退場した時点でまさに夢幻も同然となった彼女が。今更どんな力を及ぼそうというのか──。


「ルナマリアの最後の能力、それはドミネイト召喚のためのコストになった時だけ発動されるもの。彼女を糧として呼ばれたユニットは、新たな力を得ることができる!」


「贄になって初めて発動する能力だって──馬鹿な。仮にも自身もドミネユニットであるというのに、そんな献身的な力を……、」


「持っているさ。アルセリアはドミネファイトが持つ可能性で、ルナマリアはそれを更に飛躍させるための翼だ。献身じゃない、自己犠牲でもない。アルセリアもルナマリアも、そして俺も! 気持ちは『ひとつ』なんだ!」


「気持ち、だと!」


「そうさエミル! お前はどうだ!? エターナルとお前は本当に一個の存在なのか──お前の本心・・は! 心からお前の行く道を祝福してくれているのか!」


「……ッ、」


 無論だ、と。いつものようにそう泰然と、超然と返せばよかった。それは決して難しいことではなかったはずなのに、この時のエミルにはどうしてかそうできなかった。即答が叶わなかった──その躊躇に、彼は自分の中の弱さを見た。見たくなかったそれを、暴かれてしまったそれを、咄嗟に覆い隠そうとして。


 けれどアキラはそんな時間を与えない。


「答えられないならそれが答えだ、エミルっ! 行くぞアルセリア! エターナルへアタックだ!!」


「くッ……!」


 【好戦】持ちでもないはずなのにスタンド状態のエターナルへアタック? もしやそれこそがルナマリアが残した力か。しかしその程度であればアキラがこうも自信に満ちている理由がわからない。否、たとえアルセリアがどれだけ強化されていようと、完全なる耐性効果を得ているエターナルに勝てる道理などありはしないが──一瞬の思考はこんがらがるようにエミルの脳裏を右往左往し、もちろんそれでは出すべき結論など出るはずもなく。


 結局のところ、彼は迎撃の指示を出す以外に何もできなかった。


「そんなに打ち砕かれたいなら望み通りにしてあげよう! やってしまえエターナル、彼の意志を粉々に滅せ!」


 アルセリアは少女でありながら巨大な獣の如く立派な体格を持つ巨人ではあるが、しかしあの巨獣の王グラバウよりも更に一回り大きいエターナルと向かい合うには足りていない。まるで本当にただの少女のように頼りなく見える──強大な相手にも一切臆さず果敢に攻め込むアルセリアの戦闘本能には賛美を送りつつも、しかし彼我の戦力差は見かけ以上なのだとエミルは笑う。


「アルセリアも可哀想に、無駄死にだよアキラ君! いくらパワーで上回ろうとエターナルは『場を離れない』能力によって敗北しても死なず! そして黒の力によって得ている【復讐】がアルセリアを生かさない! このバトルでやられるのは君だけだ!!」


 エターナルにはバトル時に限り自身のパワーを+4000する緑の力もあり、合計のパワーは12000になる。アルセリアも自己強化で10000の大台に達しているものの僅かに及んでいない──しかも数字の大小などそもそも、不死の能力を持つエターナルにはなんら関与しない。まずもってバトルの勝敗など関係なく一方的に勝利するのがシン・エターナルなのだと、そう勝ち誇るエミルの表情がアルセリアの不可思議な輝きを目にしたことで凍り付く。


「なっ、なんだこの光は……アルセリアの全身を覆うこの力は!?」


 前回のファイトでは見られなかった奇怪な現象。それがなんなのかはすぐにアキラから知らされた。


「ルナマリアが授けた力によってアルセリアが得た新能力。それは【好戦】と、もうひとつ。『自身とバトルするユニットの能力を封じる』というもの!」


「能力を封じる、だと……それじゃあ!」


 人よりも獣に近しい掌を、爪を剥き出しにしながら振るうアルセリア。それを迎え撃たんと例の不可視の砲撃を放とうとするエターナルだが、しかし先にアルセリアより発せられた不思議な光がその身に届き、すると明らかに力が弱まった。エターナルの持つ完全耐性が消え失せた。と、エミルには我が身に起きたことのようにそれが確かに感じられた。


「サイレント・ナイト! これでエターナルは不死の怪物じゃあなくなった! パワーも素の数値まで下がる! ……だが安心しろよ、ルナマリアの能力ではキーワード効果までは消せない。【重撃】や【守護】と同じく【復讐】能力はまだ残っているぜ」


「っ、ならなこのバトルは──!」


 《エデンビースト・アルセリア》

 パワー10000


 《天凛の深層エターナル》

 パワー5000 【復讐】


 戦闘破壊と、道連れの効果破壊。それによってアルセリアとエターナルは、星と星の衝突の如き轟音を立ててぶつかり合った両者は、途轍もない勢いで互いの肉体を破壊していく。そのバトルはまさに己が全てを懸けて極限の果てへ臨むような凄まじい激突であった。


「エターナル……!」


 エミルが相棒の名を呼んだ時、カッと眩い何かが弾けて──。

 


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