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230.最後の一撃?

 止まらない、決して凌げるはずのないエターナルの第二打。ファイトを終わらせるその攻撃に対し、アキラも、アキラが呼び出したルナマリアも、やはり何もできず。ただ棒立ちのままにトドメの一撃を受け入れるだけだった──傍目からは、確かにそう見えた。


 しかしそこで、人の域を超えた観察力を持つエミルだけは。多くがアキラの最後と思われる場面を僅かな呼気すら漏らさずに見つめる中で、けれど彼だけは小さな呟きを漏らす。それは気付いたからだ。あたかも観念したかのように、己が敗北を悟ったかのようにエターナルの砲撃に立ち尽くすアキラが……その実、そこにまったく敗北感など。諦観などこれっぽちも抱いていないことに。


 苦痛に喘ぎながらも光を失っていない眼差し、未だ衰えないオーラ、それに呼応して存在感を放ち続けるルナマリア。何もかもが示している。『アキラはまだ負けていない』。全ての要素がただそれだけを告げてくる。それが真実であるとエミルの『目』は見抜いてしまっている。


 アキラにはまだ自身の敗北など見えていない。受け入れてなどいない──では、まさか?


(いいや! あり得ない、もうエターナルのダイレクトアタックは成立している。残りふたつのライフを奪うことは確定している……それでいて攻撃が完了するこの一瞬! 彼に残された最後のチャンスと言えば今この瞬間のみだが、アキラ君はこれ以上カードをプレイできない様子。それもまた確かな事実として私の『目』が伝えてくる。ならば彼には敗北以外の未来なんてあり得るはずもないではないか……!)


 ないはずの打つ手がある。というよりも、既に手を打つ必要もない。アキラの態度を言語化するならこれ以外になく。そしてエミル自身が何よりも信を置く己が観察力がそう見たならばそれはこの上なく正しく、限りなく確度の高い推測にはなるが、だけど今ばかりは信じたくなかった──信頼しているはずの『目』を瞑りたくなった。何故ならばここで決着を付けられると確信したのも、その観察力を以てファイトを進めてきたからこそ。アキラには止められないとあらゆる観点から推測を立てたからこそなのだ。もしもこの一撃が、あまつさえエターナルに残された三打目すらも通じないようなことが万が一にもあった場合。


 エミルは己が眼力を信じられなくなってしまう。


(私の感度はバリバリ・・・・だ。初めて全力全開でただ一人を倒さんとするファイトなのだ、感覚は常以上に研ぎ澄まされている。無論それによって我が眼力も更なる高みに達している──君の敗北は絶対! そう九蓮華エミルが終止符を打ったのだからその通りに終わらなければならない!)


 エミルのそれは、他者からは未来予知の如く語られ、実際にそう言ってしまっても過言ではない精度を誇りはするが。しかし彼はエスパーではないのだ、何も本当に未来を覗き見しているわけではない。エミルの予知はあくまで演算の結果。常人にはまず気付けないような細々とした要素も含めて相手や相手の周囲、そして自分自身すらも観察し、考察し、推察する。その果てにあるものを辿っていく。ずば抜けた看破力と推理力で成り立っているのが彼の眼力であり、それは時に人の過去も現在も未来も区別なしにのべつ幕なしに見通してしまう──始まりから終わりまで全てを綴ってしまう。運命という筋書きを、本人よりも先に読み終えてしまうのだ。


 けれどそれはあくまで最も訪れる可能性の高い未来を選び、ファイトを通して、あるいはファイトの外であってもそこへ導かれるようにとエミルが誘導するからこその正解・・だ。仮にエミルが手を下さなければ予知の正答率は半々にまで落ち込むだろう。それでも半分は的中するところにエミルの『目』の恐ろしさが如実に表れているが、しかし真に恐ろしいのは不確かであるはずの正答率をほぼ百パーセントにまで引き上げている彼の執念にあることは、語るに及ばず。それ以上に特筆すべきは、それだけの執念を以てしても正答率が百で固定されないところ。時には「予知が外れる」という点だった。


 そもそもが予想外から始まったこの勝負である。こうも早く、こうも成長を遂げたアキラとリベンジファイトの機会が訪れるとは、エミルをしても読めていなかったのだ。初戦の終わりに思い描き、その誘導として紅上コウヤ・舞城オウラ・玄野センイチを排除し、しかしそれでも夏休み明け初日にアキラが挑んでくるとは思わなかった──それはエミルの描いた未来から外れた現実。それもまた良しとファイト自体に異論は持たなかったエミルではあるが、だがよりにもよってアキラへの予知が見事に外れてしまったことは彼にとっても小さくない懸念とはなった……翻って、今である。


 予測のブレから始まったファイト。勿論、戦いながらある程度修正したつもりであるし、アキラこそが初めて全力を出すに相応しい相手だと知ってからは、オーラに比例して向上した感度によってより詳細かつ正確な演算が可能となってもいる──が、それ故に。感度が高すぎるが故に。普段は取捨選択の枠にも入らないような「ほんの微かな可能性」にすらも反応してしまっているのではないか。それが自分によって歓迎できない類いのものであればこそ余計に敏感に、そんな未来が訪れることを怖がっているのではないか。そうエミルは自身を客観的に分析した。


 怖がる。恐怖の感情。それは新世界の創造者には、選ばれし民たちの先導者には相応しくない。持っていてはいけない感情だ。アキラはエミルに「孤独を怖がっている」などと言ったけれど。エミルは断じてそれを認めない、事実であるとは見做さない。アキラの思い違いにして勘違い。自分には恐怖などないのだと今一度強く心に置く。


 九蓮華に失望し、両親を欺き、兄姉を倒したあの時から。


 私は弱さの一切を捨て去ったのだから──。


(切り捨てていい些事をつい拾い上げてしまった、それだけだ。我ながらこれだけ興奮しているのだからそういうことだって起こり得るだろう。この未来だけは! いくら私の『目』が示す未来でも決して実現し得ない!)


 だからまた、切り捨てる。過去の九蓮華をそうするように、多くのドミネイターをそうするように、新世界以外の可能性の全部をそうするように、今日も彼は捨て去っていく。それが唯一にして絶対の正しさであると、アキラが想う正しさは間違いであると、そう定めてしまっているから──彼にはそれ以外のことができない。


「恐れてなどいない、何も! 私に恐怖はなく、あるのは未来への展望のみ! この目に映る新世界へ皆を導くために、私は勝つ! 君とのファイトにも、そしてその先でも! 勝って勝って勝ち続けるのだ──常勝無敗の伝説となり、未来永劫に続く繁栄の礎となる! 土台となるのだよ、『私たち』は! 歪んだ世界を正すための根幹にね!」


 これはそのための一撃。今のアキラを終わらせ、新しいアキラへと生まれ変わらせるための啓蒙。きっと彼なら、耐えられる。命の危機のレベルまで敗北を刻まれたとて、またそこから立ち上がれるのが若葉アキラ。九蓮華エミルと同質の才を持つもう一人の異端であると、真に理解したために。


 だから止まらない。凌げるのはずのないエターナルの第二打は、なんの妨害も受けずに確かに発射されて。彼我のフィールドを横切り、ルナマリアの横をすり抜けて、一直線に攻撃対象アキラへと飛来したその不可視の砲弾は……確かに彼の身に直撃した。


「ファイナルアタック、達成だ。これで君のライフはゼロに──……?」


 おかしい。

 と、流石にこの時は『目』を持つエミルだけでなく、講堂中の人間がほぼ同時にとある異変を察知した。



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