227.可能性の翼! アキラのドミネイト召喚!
「前のような調節なら期待してくれるなよ、アキラ君。最初から最高圧! 永久の終わりをもたらすための一撃をエターナルは放つ! ……だが、その前に。もはややる意味もないがやっておこうかな。君の持つ牙を完全に断つ!」
「!」
「エターナルへ攻撃命令が下されたこの瞬間、赤の力が発動! エターナルは自らアタックする際に相手の場のユニットを一体破壊できる──この効果はアタック結果の処理の前に適用される。つまり君のライフコアを奪う前にグラバウは死ぬということ。主人より先に旅立つがいい、巨獣よ!」
エターナルの表情なき視線がグラバウへ向いている。ロックオンしている、とアキラにはハッキリとそのことが伝わってきた。何かを圧縮し固めているような駆動音に混ざり、別の音が聞こえてくる──自分に向けようとしている砲撃とは別種の方法でグラバウを屠らんとしているのか? 目を凝らす。エターナルをよく見る。この究極の局面にて、アキラの直感と観察眼は高い次元で融合を果たし、今だけはエミルの『目』にも及ぼうかという見抜く力を得ていた。
来る! 攻撃開始の刹那をしかと捉えたアキラは、その瞬間に全てを懸けて手札にある一枚のカードを抜き放った。
「エターナルのアタックと効果発動、に合わせて! こちらも手札から効果を発動!」
「何ッ──このタイミングで手札効果だと!?」
「こいつは『相手ユニットのアタック時』に手札から自身を無コストで召喚することができる! 来い、《ビースト・ベイビィ》!」
《ビースト・ベイビィ》
コスト2 パワー1000
くりくりとした瞳の可愛らしい顔立ちが特徴的な、イノセントよりも幼い獣人少年。その元気いっぱいな登場にエミルはここでユニットが場に増える意味を読み取らんと思考を回す──だが結論が出るよりも先にアキラより解は示された。
「アタックに割り込んで登場した《ビースト・ベイビィ》の効果が即時に適用される! ベイビィの登場時効果! 俺は続けてもう一体、『ビースト』の名の付くユニットを召喚することができる!」
「連続召喚効果……! これはまた珍しいものをお持ちで。それで先ほどベイビィと共に手札へ加えた《ビースト・オブ・イノセント》を召喚するつもりかい?」
驚きはしてもエミルの余裕は崩れない──たとえ次に呼び出されるイノセントにどんな効果があろうとも、ユニットでは駄目だ。【飛翔】や【潜行】といったガードに関係のあるキーワード効果の有無に関係なく『あらゆるユニットにガードされない』という完全なるすり抜け効果(※ガードを掻い潜る能力の俗称)を持つエターナルを前には、ユニットを何体並べて壁を作ろうともなんの影響も及ぼせない。つまり今アキラがやっていることは勝負に一切の影響を与えない、まさしく無駄な抵抗でしかない──と、エミルが断じるよりも先にアキラが笑った。
「らしくもない読み違いだな」
「……!?」
「決着を付けようっていう場面じゃ、いくらお前でも焦ってしまうものなのか? 視野が狭まっているぜエミル!」
「読み違い──視野が狭まっている、だって? この私が?」
ふるりと唇の端を震わせるエミルには、自覚があった。尋常ならざる高揚。人生初の極大の興奮、その渦中において、自分が自分ではないような。己という存在が自己制御から外れていくような、得も言われぬ感覚を味わっているからには──認めたくはないが認めるしかない。アキラの目にもそう映っているのならもはや否定できる材料もなく、今の自分は……「浮かれている」と、そう自認しなくてはならない。とは思いつつも、屈辱感と開放感の両方を胸にしながら、あたかも平常通りだとでもいうように視線を返すエミルへ。そんな渦巻く心中を知ってか知らずかアキラはごく端的であった。
「ああ、いつも通りのお前ならすぐに気付いたはずだ。ベイビィがもたらす連続召喚。それは何も、手札からカードをプレイする通常の召喚だけに限らないってな」
「……なんだって。まさか、君がやろうとしているのは」
「さすがに読めたな。そうだ、俺が今から呼び出すのは! ドミネユニットだ!!」
「ッ……!!」
相手ターンに行うドミネイト召喚! それはエミルの発想の埒外にあったもの。そんなことがやれてしまっていいのか、とすら思う。だがしかし、アキラは実際に行おうとしている。《ビースト・ベイビィ》にはそれを可能とする能力がある。
「どんなに小さくとも、どんなに非力であろうとも。それでも君が信を置く切り札の一枚ということか──だとしても」
小さく独り言ちる。納得を持って、それ以上の懐疑を持ってエミルはアキラのプレイを見つめた。
「ドミネユニットを呼び出すために、俺は二体の『ビースト』ユニットをフィールドから取り除き墓地へ! これでグラバウはエターナルの破壊効果から脱した!」
「サクリファイスエスケープ。除去対象となったユニットを先んじて消費することでアドバンテージの損失を防ぐテクニック。まさかエターナルが獲物を逃してしまうとは、私にとっては衝撃的な事態ではあるが。『だとしても』どうする?」
グラバウには上手く逃げられた。生贄が捧げられた以上、ドミネイト召喚も成立してしまった。──だとしても、だ。ここまで込みでアキラの得たものを見ても、やはりそこに意味があるとは言えない。評価などできない。なにせ結果は何ひとつとして変わっていないのだから。
これよりアキラ最大のエースユニットである《エデンビースト・アルセリア》が召喚される。で、それがなんだというのか。アルセリアはエターナルを止める術など持たない。彼女にも『相手ユニットを一体破壊する』という起動型効果があるが、仮にそれが相手ターンにも発動できる代物だったとしても、『フィールドを離れない』という最上級の維持能力を有するエターナルに除去なんて通じない。ドミネユニット同士であってもそのルールは覆せない──否、同じ異次元のユニット同士で比べ合うからこそ、余計に浮き彫りになるのだ。
アルセリアとエターナルの、絶対の力の差というものが。
「切り拓いた先にあるのも既に決定付けられた運命のようだね、アキラ君。揚々とアルセリアを召喚するがいい。エターナルは君のエースの横を通り抜けて終幕を翳す、ただそれだけだ!」
「そこもとんだ読み違いだぜ、エミル。ドミネイト召喚で呼び出すのがアルセリアだなんて誰が言った?」
「!!?」
今度こそ。エミルは心の奥底から驚愕させられた──愕然とさせられた。アルセリアでは、ない? ということは、アキラが召喚しようとしているのは……エミルも未だ見ぬ『二体目のドミネユニット』。
ドミネユニットとは主人の意志の体現。本人の思想がそのまま力を持った存在だと言っていい。故に、原則的に一人のプレイヤーにつきドミネユニットは一体のみ。これは現役プロの中でただ一人の覚醒者である『ドミネマスター』と呼ばれるかの老人も例外ではなく、無論のことエミルもエターナルしか呼び出せない。それが絶対。これも覆せない法則のひとつである、はずなのに。
だというのにアキラは──。
「いるというのか! 君の中にはもう一体、アルセリア以外にも──自身の化身となる存在が!」
「元々一側面だけで人は決まらない。全てを推し量れるものじゃない……だからこれは自然なことで、そう驚かなくたっていいと思うぞ? 俺が呼び出すのはドミネイションズに見た可能性を、更に羽ばたかせるための新たな『翼』だ!」
「翼だと……!?」
「ドミネイト召喚! 高次元世界より降臨せよ、俺の意志のひとつ! 月明かりに振う静寂──《エデンビースト・ルナマリア》!!」




