225.完全体シン・エターナル!
空の彼方より振り落ちる光。一本の柱となってフィールドに立ち上がったそれは、まるで爆発するように広がり霧散。講堂中の人間の視力を奪った一瞬の後に──既にそれは君臨していた。
「……エターナル」
幾層にも色味の異なる青が重なった、地層や海層を思わせるその独特なユニットには。重厚な造りの神殿遺跡、あるいは自然が生み出した芸術……そういったものを目にしたような得も言われぬ感動を人々に与える神秘性が宿っていた。この、アルセリアとも趣を異ならせる存在感を前に以前は圧倒されてしまったアキラであるが──そして胸に抱く畏怖の感情自体はその時から少しも変わっていないが。しかし、前回ほど慌てることも呑み込まれることもなく幾分か落ち着いてエターナルを、それを従えるエミルを前にすることができている。そこに彼は自分自身の成長を感じると共に、エミルの進化も如実に見て取れた。
《天凛の深層エターナル》
Dコスト パワー5000 【疾駆】
まだ動き出さないエターナルも、そしてエミルも。落ち着いているのは彼らも同じだ。互いにオーラこそ最大限に昂らせ激突させながらも、双方ともに瞳は凪いでいる。静かに見つめ合う時間は、無音の荒波の中に二人だけの世界が広がっているようななんとも表現に難しい間だったが。とにかくアキラは理解する。今、エミルは、新たな頂きに立ったのだと。そこに自分も至らねば……勝ち目はないと。
「エターナルの召喚を許してしまったね、アキラ君。こうなれば君は厳しい──いや。誤解を恐れず言ってしまえば、言い切ってしまえば。もはや君に勝機はない。覚えているね、あの日の結末を。決着こそ付かなかったファイトではあるが、アキラ君はエターナルに対して手も足も出なかった」
「…………」
「それを弱い、と嘲っているのではない。当然だ。どんなに君が優れた、私の『目』にも適うドミネイターであろうとも。しかし他の有象無象とこの点だけは同じなのだ……エターナルには勝てない。絶対にだ。この子の召喚を一度通してしまえば後はいつもの光景が広がるだけ。私にとって何より見慣れたもの、『敗北にうな垂れるドミネイター』という景色がね。我ながら惨いことだがこれは不文律なのだ」
「今回も同じ景色が広がるって? 忘れたのかエミル。もっと面白いものを見せてやるって、俺は確かに言ったはずだぜ」
「君こそ忘れていないか? その戦意、その口振り。それが諦めの境地から来るやけっぱちなどではないことは──君がまだ本気で私に勝つつもりでいることは、重々に伝わってくるがね。そも、そうでなければここまで私のオーラに耐えられはしないのだから……だが。だからこそ虚しいな、アキラ君。君の成長を目にすればこそより虚しい」
「虚しい、だって?」
「君は強くなった。劇的に、私がこの『目』を疑うほどに。ただしそんな成長も無意味に帰してしまうのが、我が天意たるエターナル。気付いているか? この子もまたあの日に君が見たものとは違う、ということに」
「……まさか」
佇まいこそ静穏なれど。確かに感じ取っていた、エターナルが内包する力。凪いでいてもなお強烈に肌を叩くそのプレッシャーが、以前のファイトよりも遥かに増している──そう警鐘を鳴らしたアキラのドミネイター的直感は正しかったようで。
「その通りだよ。エターナルは真の力を解放している! ひとつひとつ解説してあげよう、まずは基本となる条件適用効果。捧げられたミキシングユニットの数だけエターナルはパワーを上げ、攻撃権を得る。私が贄としたユニットはトークンを含め三体、パワーの上昇値は一体につき1000。よってエターナルのパワーは3000アップし、一ターンに三度の攻撃が可能となった!」
《天凛の深層エターナル》
パワー5000→8000
召喚酔いに縛られない【疾駆】持ちの、三回攻撃。これだけでも攻撃性能としては充分過ぎるほどだが、もちろんエターナルの真髄。真の恐ろしさとはこの程度では済まされず。
「更に! 以前の君には説明するまでもなかったが、エターナルにはまだ条件適用効果が備わっている──それが捧げられたユニットの数ではなく『色』を参照して得る能力!」
「色を参照する……ってことは!」
此度のエターナルは、前回の召喚とは違って青と黒だけでなく。そこに赤・白・緑も加えた五陣営全てをその身に取り込んでいる。先ほどエミルがわざわざそれを強調した意味が遅ればせながらアキラにも知れた、その瞬間にどくんと。ドミネユニットと繋がるドミネイターが持つ『強き鼓動』が一層に響き渡った。
「こ、この力は………! 真の力を解放したエターナルっていうのは、ここまでの!?」
「そうとも、どこまでも私を高みへ運んでくれるのがエターナルだ! まずは黒の力! エターナルは【復讐】と【呪殺】を得た! 次に青の力! エターナルはあらゆるユニットに『ガードされない』能力を得た! 次に赤の力! エターナルは【重撃】と攻撃時に相手ユニット一体を破壊する能力を得た! 次に白の力! エターナルは【守護】とターン終了時にスタンドする能力を得た! 最後に緑の力! エターナルは【好戦】とバトル時にパワーを4000上げる強化能力を得た! ──それだけではなく!」
「なんっ……、」
絶句するアキラ。五つの陣営に対応した能力を全取得する、というだけでも十二分に化け物。本来ならあり得べからざる五色の力を持ったエターナルだというのに、そこにまだ何かが加わるのか──。
「五陣営の全てを吸収した場合にのみ宿る最後の条件適用効果! それが『場を離れない』という単純かつ完璧な絶対の力! つまり! エターナルは何があろうともフィールドから消えないということ──君が破れてうな垂れるその時まで! 決して君臨を止めないということだ!」
「……!」
場を離れない。その文言に心胆を揺らされると共に深く納得する──確かに。これほど端的で、それでいて完成された能力は他にないだろう。五色を揃えたボーナス、にしてはあまりに強力で身も蓋もない力。そんなものを手に入れられてしまっては。
「もはやどうしようもない。と、わかったねアキラ君。何故ならエターナルは戦闘だろうと効果だろうと、どんな除去も受け付けず。更にはドミネユニットに共通する『二ターンのみしか存在を維持できない』という制約も自身の力で捻じ伏せる、世界の道理すらも捻じ曲げる、まさに完璧なユニットとなったのだから」
もう一度言うよ、とエミルはやはり静かに。凪いだ口調で続けた。
「君に勝機はない。そう、君の表現に則るならば──このシン・エターナルを相手には、万にひとつも勝ちの目などないのだよ」
《天凛の深層エターナル》(完全体)
Dコスト パワー8000+ 【疾駆】 【重撃】 【守護】 【好戦】 【復讐】 【呪殺】
このユニットはフィールドを離れない
──どんな奇跡が起きようとも。決して完全体となったエターナルには勝てない。アキラの敗北はもう決定しているのだと、エミルは確信を以て告げる。それでもまだ勝利を目指して抗うのか、と。無駄としか言いようのない抵抗を行なうのかと確かめる。それはエミルにとっての最後通牒。エターナルで勝負を終わらせることがどういう意味を持つかを理解しているが故の確認だったが。
そんな彼なりの優しさ。自覚なき侮辱の行為に、アキラは不敵な笑みで応えた。
「どんな『奇跡』が起きようと? ……馬鹿を言うなよエミル。お前を倒すのに、そんなものに頼るはずがないだろ」
「──何?」
「俺は俺の持つ力で! 必ずお前を超えていく──うだうだ言わずにかかってこい!!」




